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三島由紀夫『潮騒』解説あらすじ

三島由紀夫
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はじめに

三島由紀夫『潮騒』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

古典主義(ラディゲ、コクトー)

 三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いです。

 ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』もクラシックな心理小説『クレーヴの奥方』の翻案として、王宮文学としてのメロドラマを展開します。

家庭小説、ハリウッド

 家庭小説は、英米の感傷小説などをルーツとするジャンルです。代表作は尾崎紅葉『金色夜叉』、蘆花『不如帰』などで、ダイムノベルの翻案を主たる水源としています。傾向としては、保守的な家庭的道徳をテーマとする通俗メロドラマとしてあります。

 この作品も、古典主義者三島の面目躍如といったところで、上質の家庭小説、喜劇になっています。ダイムノベルの翻案を主たる水源とする家庭小説に、ハリウッドコメディのモードのスタイルを加えたのは獅子文六などのユーモア小説でしたが、そうした文脈の中で、三島もユーモア家庭小説の佳品をここでものしています。

 三島由紀夫は喜劇映画の中でも特にエルンスト=ルビッチ(『天国は待ってくれる』)の作品を好んでいました。ルビッチの洗練されたスタイルを愛したのでした。この作品も同様に、ルビッチのような洗練したスタイルで綴られるメロドラマになっています。

スクリューボール=コメディ

 スクリューボール=コメディはハリウッドに代表的なジャンルでキャプラ監督『或る夜の出来事』、ホークス監督『赤ちゃん教育』、ルビッチ監督『ニノチカ』などが有名でした。ジャンルの様式として自立したヒロインや身分違いの恋、会話劇などを特徴とします。

 三島由紀夫の本作や『永すぎた春』の自立したヒロイン像にもその影響がみえます。

三島由紀夫のいいところと悪いところ

 三島由紀夫にはいいところと悪いところがあります。ラディゲ、コクトー流の古典主義者として、クラシックなスタイルのウェルメイドなコミックオペラ調の小説をものすことにかけては右に出るものがなくクリスティ(『ABC殺人事件』『アクロイド殺し』[ネタバレ])を思わせますが、ジョイス(『ユリシーズ』)、フォークナー(『響きと怒り』)、T=S=エリオットのようなモダニズム文学の作家の意図したこと、達成したことを理解し、創作にフィードバックできたわけではないので、「純文学」を志向した『豊饒の海』シリーズ(1.2.3.4)などの作品は不出来なものが多いです。また60年代からは得意だった戯曲や娯楽小説も破綻が目立ちます。

 一方で『永すぎた春』『潮騒』などの作品は、三島のスタイリストとしての最良の部分が表れています。少しこうした拗れ具合は北野武監督(『アウトレイジ』シリーズ(1.2.3))などと重なります。

パストラル

 本作は『ダフニスとクロエ』の影響が知られておりますが、あの作品同様に本作もパストラルとしてデザインされています。

 パストラルは田園の自然のなかでのメロドラマです。古代から韻文としてあるジャンルですが、中世から近世にかけて散文としてパストラルロマンス、パストラルドラマが定着していき、シェイクスピア『お気に召すまま』などが有名です。ラファエル前派などのギリシア=ローマルネサンスがあったり、フロイトに理論を負うシュルレアリスムの中でも肉体的身体的な表現が重要な要素とされるなど、モダニズム以降もパストラルに着目する契機が生まれました。

 日本では西脇順三郎の作品などが知られますが、本作もパストラルの日本版のリメイクです。村上春樹『ノルウェイの森』や大林宣彦監督の諸作(『ふたり』『廃市』)などと重なります。

物語世界

あらすじ

 伊勢湾の歌島で漁師をしている久保新治は、母と弟と暮らす18歳の青年です。新治は浜で見覚えのない少女を見かけ、心惹かれます。

 その少女、初江は、村の有力者たる宮田照吉の娘です。初江は養女に出されていましたが、兄が死んだため島に呼び戻されました。

 しかし監的哨跡で出くわしたり、新治が浜で落とした給料袋を初江が拾ったり、灯台長の家でも会った2人は、お互い惹かれ合います。

 雨の降る休漁日に監的哨で初江と待ち合わせた新治は、嵐の当日、先に到着し初江を待っていたものの、寝てしまいます。目が覚めると、初江が肌着を脱いで乾かしています。初江は、羞恥心から新治にも裸になるように言います。

 裸になった新治に初江は、「その火を飛び越して来い」と言います。火を飛び越した新治と初江は裸のまま抱き合うものの、2人は衝動を抑えます。

 
 灯台長の娘の千代子は、新治と初江が一緒に帰る姿を目撃。新治に好意があった千代子は初江に嫉妬し、川本安夫に告げ口をします。

 有力者の息子の川本安夫は、自分が初江の入婿になると吹聴していたため面目がつぶれます。安夫は夜中、水汲みにでた初江を襲おうとするものの、蜂に攻撃され断熱します。

 やがて二人の噂は照吉の耳にも入り、照吉は娘と新治が会うのを禁じます。2人にとって手紙だけが唯一のつながりです。新治の親方の十吉が加勢し、仲間の龍二が郵便屋をしてくれたのでした。年配の海女たちも初江の裸を見て、初江が処女だと見抜き2人の悪い噂が嘘だと知れていきます。


 機帆船歌島丸の船長が、船員修業の炊ために新治を誘います。歌島丸は照吉の持ち船の貨物船で、安夫も同船するそうです。照吉は安夫に、初江との婚約の条件としてこの修業を申し渡したそうです。

 船が運天港に入ると台風に襲われます。船をつなぎ止めていたワイヤーが切れます。ここで新治が志願して荒海に飛び込みます。新治の活躍で歌島丸は救われます。

 こうしたことから、照吉は新治を婿にすると決めます。新治と初江の願いは成就したのでした。

参考文献

・安藤武『三島由紀夫の生涯』

・山内由紀人『三島由紀夫、左手に映画』(河出書房新社.2012)

・牧村健一郎『評伝獅子文六: 二つの昭和』

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