始めに
フィールディング『トム=ジョーンズ』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
英文学の父
フィールディング(1707-54)は「英文学の父」とも称されます。
散文の方面で、伝統的に英文学ではスペイン文学の影響が顕著であったところ、フィールディングがその後の英文学に固有のモードを生成し、英文学の散文に明確な個性を与えたことに対してこのような評価がされています。
フィールディングは、ホメロス、ウェルギリウス、アリストファネス、ルキアノスなど、ギリシア=ラテンの古典に親しみました。
またセルバンテス、スウィフト、モリエールなどに傾倒し、その風刺的なテイスト、艶笑喜劇としてのテイストを確立しました。
他にも同時代のジョン=ゲイなどに刺激をうけ、風刺的テイストにおいて影響されています。
本作も全体的にピカレスクのモードを踏まえつつも英国らしい、フィールディングらしい個性をそこに加えています。
ピカレスク
本作はピカレスクのモードを踏まえる内容です。
ピカレスクはスペインの文学ジャンルで、特徴としては自伝的な記述の一人称で書かれます。社会的地位が低いアウトローの主人公が機転を利かせて立ち回る、小エピソード集の形式です。平易な言葉やリアリズム、風刺などがしばしば見えます。「悪漢小説」と訳されるものの、ピカレスクの主人公が重大な犯罪を犯すことは少なく、むしろ世間の慣習や偽善に拘束されない正義を持ったアウトローとして描かれやすいです。主人公は性格の変化、成長はあまりしません。
本作も語り手を私生児トムに設定し、その冒険を描きます。
語りの構造
語り手は、トム=ジョーンズです。彼は捨て子で、オールスワーシーに引き取られます。
ピカレスクらしい善良で明朗なヒーローとしてトムは設定されていて、貴族よりもロウアーミドルクラスやワーキングクラスの人と馴染みます。
トムによる豊かな口語的語りは、その後ディケンズ『デイヴィッド=コッパーフィールド』、トウェイン『ハックルベリー=フィンの冒険』、サリンジャー『ライ麦畑で捕まえて』などへ継承されます。
入り組んだプロット
本作はフィールディングの演劇的素養を伺わせる、入り組んだ人物関係とプロットを特徴とします。
捨て子で私生児のトムですが、その両親が誰であるのかは終盤までミステリーになっています。最終的に、オールスワーシーの妹ブリジットの息子だったと明かされます。
私生児のトムですが、ブリジットとブリフィル大尉の息子マスター=ブリフィルがヒロインのソフィアを巡ってライバルとなり、トムを家族から追放しようと目論みます。マスター=ブリフィルの策略で一度はオールスワーシーのもとを追放されるトムですが、その出自が明らかになり、再び迎え入れられ、ソフィアとも結ばれます。
物語世界
あらすじ
裕福なスクワイア=オールワーシーと妹のブリジットが、サマセットの屋敷に紹介されます。オールワーシーは長期出張からロンドンに戻ると、ベッドで寝ている捨てられた赤ん坊を見つけます。オールワーシーは家政婦のデボラ=ウィルキンス夫人を呼んでその子の世話をさせます。
近くの村で調査し、ウィルキンス夫人は、学校の先生とその妻の若い召使いであるジェニー=ジョーンズが赤子を置き去りにしたのではないかと知ります。ジェニーはオールワーシー家の前に連れて行かれ、赤ん坊をベッドに置いたことは認めるものの、父親の身元を明かそうとしません。オールワーシー氏はジェニーをよそへ連れて行き、ブリジットにトーマスと名付けたその男の子を家で育てるように言います。
ブリフィル博士とブリフィル大尉という 2 人の兄弟が、オールワーシーの屋敷をときどき訪れています。博士は、オールワーシーの財産を相続するための結婚を目論み、大尉をブリジットに紹介します。2 人はすぐに結婚しますが、その後ブリフィル大尉はオールワーシーに対して冷淡になり、オールワーシーはやがて家を出てロンドンに行こうとします。ブリフィル大尉とブリジットの関係は冷え切り、やがてブリフィル大尉は夕食前のいつもの散歩の後、脳卒中で死んでいるのが発見されます。その時までに、ブリフィル大尉は男の子をもうけており、その男の子は私生児のトムと一緒に成長します。ブリフィル大尉の息子、マスター=ブリフィルは嫉妬深い少年で、トムを妬みます。
やがてトムは青年に成長します。トムは貴族よりも、使用人や猟場番といった下の階級の人たちと馬が合いました。トムは猟場番のブラック=ジョージと親しくし、トムの初恋の相手は、ブラック=ジョージの次女モリーです。やがてモリーが妊娠していることを知りますが、トムは後にモリーが淫乱であることに気づきます。
その後、トムは近隣の地主の娘ソフィア=ウェスタンと惹かれ合います。やがて2人はお互いへの愛を告白するものの、トムが私生児であるため、ソフィアの父とオルワーシーは2人の愛を認めません。
オールワーシー卿が病気になり、自分の死を意識します。財産を処分している間、家族と召使たちがベッドの周りに集まります。オールワーシーはトムにかなりの額を与え、ブリフィル卿の機嫌を損ねます。トムは金には関心がなく、オールワーシーの健康だけが気になっています。結局オールワーシーは回復し、死ぬ予感は杞憂でした。
その後、トムは酔っ払い、ブリフィル卿と喧嘩します。一方、ブリジットはロンドンで亡くなります。ソフィアはトムへの愛情を隠したかったため、3人でいるときはブリフィルに関心を向けます。これによりソフィアの叔母であるウェスタン夫人は、ソフィアとブリフィルが恋仲と誤解します。ウェスタン卿は、オールワーシーの地所から財産を得るためにソフィアをブリフィルと結婚させようとします。しかしブリフィルはソフィアがトムに愛情を抱いていることを知つて怒り、ブリフィルはオールワーシーに、オールワーシーが死にそうになった日に、外で酒を飲んで、その死を祝っていたと騙します。これがトムを追放するきっかけとなってしまいます。
トムの追放により、ソフィアはブリフィルと結婚せざるを得なくなりつつありますが、ソフィアはブリフィルを嫌悪し、逃げようとします。一方、オールワーシーの屋敷から追放されたトムは、イギリス中を冒険し、ロンドンにたどり着きます。その途中で、トムの父親だと勘違いされて町から追放された理髪師のパートリッジに出会います。パートリッジはトムの評判を回復させようと、トムの仲間になります。
旅の途中で宿屋にたどり着き、そこに女性とそのメイドが到着します。怒った男がやって来て、トムが助けたウォーターズ夫人とベッドにいるところに飛び込みます。しかし、男はフィッツパトリック夫人を探していたので、立ち去ります。ソフィアとメイドが同じ宿屋に到着し、パートリッジはトムとウォーターズ夫人の関係を伝えてしまいます。するとソフィアは従妹のフィッツパトリック夫人とロンドンへ向かいます。二人はベラストン夫人の家に着き、トムとパートリッジがそれに続きます。最終的にトムは、唯一のソフィアへの愛を確信します。トムはその後、フィッツパトリック氏と決闘し、投獄されます。
やがて、トムの出生の秘密が明らかになります。ウォーターズ夫人は実はトムの母親とされるジェニー=ジョーンズであり、トムは自分が近親相姦を犯したのではないかと恐れていたもののそうではなく、トムの母親は実はブリジットで、トムが生まれる前に亡くなった男性との間にトムを身ごもったのでした。トムはスクワイア=オールワーシーの甥です。トムの異母兄弟であるブリフィルの陰謀を知ったオールワーシーは、自分の遺産のほとんどをトムに与えようとします。
トムの出自が明らかになり、トムとソフィアは結婚します。スクワイア=ウェスタンに、もはや結婚に反対する理由はありません。ソフィアはトムとの間に息子と娘を産み、夫婦はスクワイア=ウェスタンとスクワイア=オールワーシーに庇護されて幸福になります。
参考文献
・朱牟田夏雄『フィールディング』




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