はじめに
檀一雄『火宅の人』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
ロマン主義、日本浪曼派
檀一雄は瀧井孝作や林房雄らに処女作「此家の性格」を認められ、尾崎一雄を紹介され、太宰治、井伏鱒二、佐藤春夫と知ります。やがて太宰治、中原中也、森敦らと『青い花』を創刊、その後日本浪曼派に合流しています。
影響を受けたのは盟友の太宰治や師とした佐藤春夫のほか、ニーチェ、ロマン=ロランなどのロマン主義、小林秀雄、瀧井孝作などです。
本作も太宰治を彷彿とさせる豊かな語り口と、太宰や尾崎一雄とも重なる誇張された作家のキャラクター性が生み出す愛嬌とユーモアが見どころです。
自伝的背景
本作は檀一雄の自伝的作品で、愛人の矢島恵子のモデルは入江杏子です。
作中に描かれるように入江は石神井の自宅に前から出入りしており、1956年青森県東津軽郡蟹田町の太宰治文学碑除幕式に同行した際に関係し、そのまま山の上ホテルで同棲をはじめました。入江杏子との不倫から破局までを描いたのが本作『火宅の人』です。
最初の妻の高橋律子の死までを『リツ子・その愛』『リツ子・その死』で描き、本作はさらにその後のことを描いていて、2人目の妻山田ヨソ子との結婚生活を背景にしていて、彼女はヨリ子という名前になっています。
脚色の方向性
作家の分身で語り手である桂一雄ですが、伝記的な事実においてはおよそ実際のそれをなぞっているものの、キャラクター性には誇張があります。
例えば実際には一郎が窃盗をはたらき、警察に一雄が親としての姿勢を咎められるシーンがあり、ここで開き直った豪放磊落な態度を見せる本作ですが、実際には恐縮して警官の叱責を受け止めていたとされ、豪快さには誇張が交えられています。
神経質で気分屋で優柔不断で根は正義漢なのは実際そうでしょうが、その破天荒な人間性には誇張があります。
物語世界
あらすじ
作家、桂一雄は、最初の妻リツ子に死なれ、後妻としてヨリ子をもらいます。ヨリ子は腹ちがいの一郎をはじめ、次郎、弥太、フミ子、サト子と5人の子供を育てました。しかし次郎は日本脳炎になり、言葉も手足も麻痺します。
一雄が35歳の時に17歳の文学少女の矢島恵子と出会います。それから仕事を世話をしたり、女優になりたいというので、仕事を紹介したりしました。
やがて45歳になった一雄は太宰治の文学碑の除幕式に参列するための青森行に恵子を誘い、そこから不倫関係になります。一雄の母も、同じことをして家族を捨てて駆け落ちしました。このことによってヨリ子との関係が険悪になります。
一雄は家を出て、浅草の小さなアパートで恵子と暮らすようになります。
やがて一郎が窃盗事件を起こすなどして警察に一雄の育児放棄を咎められますが、一雄は開き直ります。
一雄は愛人との関係のすれ違いから、恵子を置いて、ニューヨーク、ロンドン、パリなどをまわる欧州旅行に出かけます。このころ恵子がかつてある人物の愛人だったという噂を知り、嫉妬から外国で出会った日本人女性たちと奔放な生活をします。
帰国後、恵子の度重なる中絶が原因で別れることになります。それから、日本脳炎の後遺症が残る次男の死があり、精神的ショックを受けるのでした。
参考文献
・野原一夫『人間 檀一雄』
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