始めに
ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
古典主義とロマン主義
ゲーテという作家は、形式主義者という意味合いにおいて古典主義者であり、作家主義者であるという点でロマン主義者でした。
同時代のフリードリヒ=シュレーゲルはゲーテの『ヴィルヘルム=マイスターの修行時代』をシェイクスピア『ハムレット』への批評性に基づくものとして、高く評価しました。『ハムレット』という古典の形式をなぞりつつ、ゲーテという作家個人の主体性を発揮することで展開される翻案の意匠が『ヴィルヘルム=マイスターの修行時代』にはあります。
大まかなコンセプトと続編
富裕な商人の子ヴィルヘルムが演劇者を目指して、女優マリアーネを愛するもののすれ違いから叶わず、やがて自分も旅回りの劇団に加わったり貴族社会や「塔の結社」というフリーメーソン風の秘密結社に接したり、「美しき魂」といわれるロターリオの叔母によって宗教生活の美しさを知ります。シェークスピアの世界を知らせたヤルノー、舞台監督セルロの妹で亡くなるアウレーリエ、その愛人で実際的生活の意義を探るロターリオなど、多くの人と関わります。またロターリオの妹ナターリエとヴィルヘルムは最後に結ばれ、塔の結社に導かれて世の中に尽くします。
続編の遍歴時代では、ヴィルヘルム・マイスターが、妻ナターリエを置いて息子フェーリクス(マリアンネとの子供)とあちこち遍歴し、様々な人に出会います。フェーリクスはユートピア的な「教育州」に預けられてまた合流し、最終的には塔の結社がアメリカを目指していくことになります。
全体的に続編は、作中作などの脱線が多くて物語としてのまとまりは希薄です。非線形の語りによる実験的語りが展開され、『ファウスト』と同様に混沌とした世界が展開されます。
また、ゲーテの好んだホメロス『イーリアス』『オデュッセイア』、とくに『オデュッセイア』の影響が顕著で、各地を遍歴する主人公の活躍が描かれていきます。
物語世界
あらすじ
ヴィルヘルムは演劇に魅せられ、また女優マリアンヌと恋愛します。しかし父親から、演劇の道を反対されています。
ヴィルヘルムはマリアンヌに固執しますが、俳優としての野望を実現する計画を続けています。ヴィルヘルムはマリアンヌがライバルのノルベルグを諦めたと知らず、別れます。
その後ヴィルヘルムはマドモアゼル・フィリーヌと他の数人のグループに出会い、フィリーネの仲間には、サーカス団の一員であるミニョンもいます。ヴィルヘルムは彼女を残忍なサーカス団の団長から30ターラーで引き取ります。
ヤルノーによって、ヴィルヘルムはシェイクスピアに関心を向けます。しかしヤルノはヴィルヘルムに劇場を諦めて活動的な生活に移行することを勧め、それがヴィルヘルムを怒らせ、ヤルノからいったん疎遠になります。
あるときヴィルヘルムらは強盗に銃撃を受けて負傷します。ヴィルヘルムを救ったのはナターリアという女性でした。おかげでヴィルヘルム、ミニョン、その父ハーパー、フィリーネはなんとか逃げ延びます。
またヴィルヘルムは俳優としてセルロの劇団に加わります。ヴィルヘルムはハムレットを編集し、まとめます。稽古は順調に進んで、ヴィルヘルム演出の『ハムレット』で成功します。
ヴィルヘルムは医師から『美しい魂の告白』という原稿を受け取り、読むことになります。 メリーナとセルロは、ヴィルヘルムとアウレーリエを舞台から排除しようとします。
常に病気がちだったアウレーリエは、自分の人生の終わりがもうすぐ近づいているとヴィルヘルムに告白し、愛するロターリオへの手紙を届けるように依頼し、息を引き取ります。
ヴィルヘルムはロターリオに手紙を届けるために出発します。 ロタリオはアウレーリエの手紙を受け取ります。
ヴィルヘルムは、旧友ヤルノを通じて塔の結社から頼みをうけ、ロターリオをテレーズのところへつれていき、 二人は惹かれ合います。
ヴィルヘルムはマリアンヌの家政婦のバーバラ老人に会い、真実を聞きだします。バーバラはマリアンヌに裕福なノルベルグと一緒になってほしくて、策略を巡らせていました。マリアンヌが自分に不貞を働いていると信じていたとき、実は彼女はノルベルグを捨てていました。フェリックスはマリアナとヴィルヘルムの息子でしたが、バーバラはアウレーリエにフェリクスが恋人ロターリオの息子であると信じ込ませ、その後、アウレーリエはロターリオへの愛からフェリックスを保護下に置きました。
ミニョンが体調を崩します。ミニョンの主治医がやって来て、ミニョンの病気はイタリアとヴィルヘルムへの憧れから来ているとヴィルヘルムに告げます。
やがてロターリオはテレーズと、ヴィルヘルムはロターリオの妹ナタリーと結ばれます。
テレーズはロタリオの結婚式の準備を知らずにナタリーとヴィルヘルムの家に到着します。幸せな花嫁の姿を見て、ミニョンの心臓は「激しく」高鳴り、新郎新婦が抱き合うと、ミニョンは叫び声を上げてナタリーの足元に倒れます。
フリードリヒはフィリーネとの間に子供を授かります。
ミニョンはなくなってしまいます。マルケーゼ・チプリアーニはイタリア出身でハーパーの兄弟であり、ミニョンの叔父です。オーガスティンというハーパーは、若い頃、スペラータという女の子を愛していました。やがてスペラータとハーパーは兄弟であるため、近親相姦であることが判明しました。夫婦は引き離され、スペラータさんの子供ミニョンは連れ去られました。
ハーパーはフェリックスに昔から妄想を抱いて恐れていて、フェリックスを毒殺しようとしますが、失敗します。ハーパーは自殺を図り、助かるが二度目の試みで自殺する。
フリードリヒはまた、ヴィルヘルムがナタリーと結婚し、マルケーゼ・チプリアーニのイタリアへの招待にフェリックスとともに従うべきだと考え、ヴィルヘルムはそれに異論はないのでした。
参考文献
Safranski, Rüdiger. ”Goethe: Life as a Work of Art”
コメント