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三島由紀夫『青の時代』解説あらすじ

三島由紀夫
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始めに 

 三島由紀夫『青の時代』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ジャン=コクトー、ラディゲ流の新古典主義。シュルレアリスム

 三島由紀夫は私淑したラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)流の新古典主義が特徴です。端正な線で対象を流離に描く姿勢はここでも発揮されています。

 ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』もクラシックな心理小説『クレーヴの奥方』の翻案として、王宮文学としてのメロドラマを展開します。

シュルレアリスムの影響。ジュヴナイル。青春残酷物語

 三島由紀夫が好んだシュルレアリスムのコクトー『恐るべき子供たち』もティーンの世界を描いたグランギニョルな青春物語です。また、先述の通りシュルレアリストのブルトンは既成の芸術やブルジョア社会へのカウンターとして、実際の若い犯罪者に着目するなどし、モロー(「出現」)の絵画に描かれるファム・ファタル表象に着目しました。シュルレアリスムの影響が顕著な三島由紀夫の本作『金閣寺』や、中上健次(『千年の愉楽』)の永山則夫への着目もこうしたモードの中にいて、グランギニョルな青春物語を展開しました。

 同様に、ヌーヴェルバーグのゴダール監督もこうしたモードの中で『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』のような青春残酷物語を展開しました。

 本作は現実の犯罪者である山崎晃嗣をモデルとします。

モデルの「光クラブ」事件と脚色

 本作のモデルは、1949年11月25日にあった光クラブ事件で、主人公の川崎誠のモデルは、「光クラブ」の社長である山崎晃嗣です。「光クラブ事件」は、高金利金融会社「光クラブ」を経営する東大法学部3年の山崎晃嗣が、物価統制令、銀行法違反に問われて不起訴になるものの、多額の債務を残して27歳で青酸カリ自殺した事件です。

 山崎晃嗣は割と不幸な人で、学徒出陣で陸軍主計少尉になり、北海道旭川市の北部第178部隊の糧秣委員少尉となるものの、訓練中、上官の私刑で一高時代の同級生を殺され、上官命令により内密にさせられます。また終戦の際、上官の命令で食糧隠匿に関与するものの、運送業者の密告でただ一人横領罪で逮捕されます。上官を庇ったために有罪となり、尋問時に警察から虐待され、庇った上官から事前に約束された分け前は反故にされています。

 こうした不幸な背景が光クラブ事件に手伝っていたとされています。

 他方で『青の時代』では、主人公の誠の反社会的な性格を形成したのに戦争経験も手伝っているものの描写はほとんど省かれており、根源的な理由は父親に説教のために大切にしていたものを捨てられたトラウマになっています。その経験から誠は父親と世間の偽善を憎み、偽悪的な人間になりました

 脚色も多いとはいえ、過去のトラウマや理不尽な体験から、世間や社会に対する憎悪の感情を培い、時代に翻弄される形で運命に抗おうとして犯罪を犯すという大まかな流れは、山崎晃嗣の伝記的生を踏まえています。

物語世界

あらすじ

 川崎誠は1923年(大正12年)、千葉県のK市(木更津市)に医者の三男として生まれます。父の毅は地元の名士でした。

 誠が幼い夏の日、父は三人の息子たちを引き連れ鳥居崎海岸まで来ていました。誠は文具店の店先に吊り下がっている大きな鉛筆の模型の前で立ち止まります。それを欲しがる誠に母は、「誠や、あれは売り物ではありません」というのでした。

 立ち止まっている誠に気づいた父は、店主に頼み、その鉛筆の模型を買ってやります。大きな鉛筆は重くなり、誠はやっとの思いで歩きます。海岸につくと、父は小舟に息子らを乗せ、誠に教訓をたれ、その鉛筆を父の手下の兄たちによって海に捨てさせます。

 成長した誠は、偽善的な父の毅を憎み、父が羨む東大教授になろうとします。しかし、愛する息子が東大教授になることは父も望んだことでした。誠は飛び級で一高に合格します。

 誠とは対照的に、再従兄の易は勉強は苦手でも、屈託のない少年でした。誠は易を馬鹿にしながらも、彼の話に耳を傾け、親しみをも持っていました。易は海軍の下士官となり、誠は陸軍主計少尉で終戦を迎えます。戦争から、誠は世間に一層偽悪的になります。易はやがて共産党に入り、川崎家へ出入り禁止となります。

 東大生の誠は、一高時代からの友人・愛宕と昼休みに図書貸出係の野上耀子と知り合います。誠は耀子が精神的に自分を愛しはじめたら捨てたいと思い、3年間の図書館通いをします。耀子から、50万円のお金ができたら結婚してやると言われ、誠は、父から財産管理の手習いとして預かっていた15万円の預金を元手に株を始め、2万円を失います。「荻窪財務協会」と称する偽の会社により事業投資の金融詐欺に遭い、10万円をさらに騙し取られます。

 失意から誠は愛宕に誘われ、中野区本町通りに「太陽カンパニイ」を設立し、金融業をはじめます。新聞広告やサクラにより、投資家から高金利を約束して資金を集め、これを個人や企業に貸し付けました。耀子も事務員となりました。

 ある日、誠は電車で、「荻窪財務協会」にいた詐欺師の手下と出あい、彼も「太陽カンパニイ」で使います。規模は拡大し株式会社となり、事務所も銀座になり、耀子は誠の秘書になります。

 誠の母のたつ子が易と、「太陽カンパニイ」を訪ね、そんな息子を見て、母は泣き出します。誠は母と易をダットサンに乗せ、トラックで浪費家の元華族の取立てに行きます。誠が腐敗した階級に対決する正義からそうしていると勘違いした易は、取立てに協力します。事務所に戻ると、誠は封筒に金を入れて、易に渡します。金欲しさにやったと侮蔑された易は怒り、誠を咎めて出ていきます。

 誠は事務所にいる耀子に残業を命じ、自分は築地にある自宅のアパートへ帰ります。そして事務所に電話をかけ、耀子に数枚の書類を持って来させます。誠はその晩、彼女を無理やり襲います。

 タクシーで耀子を帰すさい、誠は彼女に封筒を渡します。翌日出勤した耀子は、午前中で早引きし、事務所に来なくなります。耀子は税務署の男と恋仲となり、「太陽カンパニイ」の収入を密告していました。耀子は処女でもなく、男の子供を身ごもっていました。渡した封筒には、誠が探偵に調べさせた報告書が入っていたのでした。

 誠は前から亜砒酸を常に携帯していました。愛宕は「太陽カンパニイ」に見切りをつけて出て行きます。愛宕は取引先の縁故で健全な会社から引抜かれます。

 早春の午前の街を誠は歩き、とある建物の二階の喫茶店で奥の席につくと、反対側の光のあたる窓側の席に少女と話す易がいました。2人はみすぼらしくても、頬は光沢を帯び、白い歯を見せています。

 何かを手帳に書こうとした易が、少女から鉛筆を手渡されます。その緑色の鉛筆と、日光にひらめく金文字に、幼時のかすかな記憶の中の、「誠や、あれは売り物ではありません」という声が響くのでした。

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