始めに
ヘンリー=ミラー『北回帰線』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
伝記的背景
1930年、二番目の妻ジェーンを置いてヨーロッパに単身移り、しばらくパリに腰を落ち着けます。そのころアルフレッド=ペルレスと親しくなったり、アナイス=ニンと出会ったりもしています。
1933年にはペルレスとともにクリシーにアパートを借り、2人でルクセンブルクに旅行します。ジューンはヨーロッパを訪れ、短い滞在のののち離婚をもとめて帰国します。
1934年発表の『北回帰線』は、このころのパリでの生活を中心に描いています。
語りの構造
ミラーは様々な作家の影響を受けていて、しばしばセリーヌ(『夜の果てへの旅』)からの影響と類似を指摘され、実際ミラーもセリーヌ作品を評価してはいるものの、発表前後の動向を見ると、本作に顕著な語りの上での影響が見えるのは、プルースト『失われた時を求めて』と、シュルレアリスムと精神分析のテクストです。
プルースト『失われた時を求めて』は、語り手でプルーストの分身たるキャラクターのパリの社交界での奮闘と狂騒、そして作家としての自分を確立するプロセスが意識の流れの手法によって展開されていきます。
『北回帰線』も同様に、意識の流れのような手法によって、作家の周辺の出来事を時系列に従わずに描写していて、混沌とした内的世界が描かれていきます。あらすじやプロットを定義するのは困難で、さながらメルヴィル『白鯨』や大西巨人『神聖喜劇』のように、作家個人の豊かな経験と読書に裏付けられた内的世界におけるその豊かな氾濫が描かれています。
またシュルレアリスムや精神分析の自由連想法、オートマティズムなどの影響が見えます。
意識とはなにか
人間の「意識」とは、そもそもなんでしょうか。現代の心の哲学では、意識や心というものの機能主義的、道具的定義がいろいろに考えられており、大まかに言ってそれは複数のモジュールの計算、表象の操作を統合し、シュミレーションから推論を立て環境に適応的な行動変容を促すツールであるとの見通しが立てられています。そこではインプットされたさまざまな表象を操作し、過去にインプットされた表象との関連性が発見されたり、環境の構造化にあたって認識が修正されたりしていきます。
本作における意識の流れの手法にも、そのような意識の特性が伺えます。語り手である作家は創作のために、さまざまな体験を通じて過去のさまざまな経験や知識の表象をマインドワンダリングさせていき、表象同士が思いがけない形で結びつけられたりする発見のプロセスが語りの中で展開されていきます。
物語世界
登場人物
- ヘンリー=ミラー:語り手。パリでボヘミアン生活を送る。
- ボリス:ミラーの友人。作家のマイケル=フランケルがモデル。
- カール:ミラーの友人。モデルはミラーの友人で作家のアルフレッド=ペルレス。
- モナ:ミラーの疎遠になった2番目の妻ジューン=ミラーがモデル。ミラーはアメリカにいるモナを懐かしむことが多いです。
- タニア:シルベスターと結婚した女性。ジョセフ=シュランクと結婚したベルタ=シュランクをモデルにするほか、アナイス=ニンもモデルになっていると思われます。
あらすじ
『北回帰線』は、1920 年代後半から 1930 年代前半のフランス を舞台に、作家として苦悩するミラーの物語を描いています。
一本のプロットとしての筋はあまりデザインされていません。
参考文献
・メアリー=V.=ディアボーン (著), 室岡 博 (翻訳)『この世で一番幸せな男: ヘンリー・ミラーの生涯と作品』




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