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ポー『群衆の人』解説あらすじ

エドガー=アラン=ポー
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始めに

ポー『群衆の人』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ドイツロマン主義の影響

 ポーはドイツロマン主義からの影響が顕著です。具体的にはホフマン、シラー、ゲーテ(『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)などの作品から影響を受けました。

 ポーにはそこから幻想文学作品も多いですが、本作はそうした要素は希薄です。代表格はゲーテですが、往々にして、作家個人の主体性や作家性の発露だったり、登場人物の積極的自由をテーマとします。

ロマン主義と個人

 ポーがいるロマン主義というジャンルは、個人の主体性や個性を重視するジャンルといえます。本作「群衆人間」が描くのは、その反対といえます。

 語り手はロンドンの街に謎の老人を見つけて追跡します。やがていつも人混みの中にいたがるこの彼に対して、深い罪の典型であり本質で、群集の人なのだ、と結論づけるのでした

 物語の中心となる老人は、いつも他人の群れの中にいることを好み、そこから離れるのを怖がる存在です。ポーはそれを深い罪の典型と考えますが、確かにそれはオーウェル『1984』に描かれるような全体主義のルーツかもしれません。

ラ=ブリュイエールの影響

 冒頭にラ・ブリュイエールの『人さまざま』から、「ただ一人いることに耐えぬという、この大いなる不幸」というエピグラフが掲げられています。

 フランスのモラリスト作家のラ・ブリュイエールは、古代ギリシャの哲学者テオフラストスの翻訳に付録としてエッセイ『人さまざま』の載せて、流行になりました。人間を、さまざまな種類に分類し、人間や文明に対する批評を展開した文章でした。

 『群衆の人』の内容は、この『人さまざま』を強く踏まえるものです。語り手は窓からロンドンの街を眺め、人々をいくつかのタイプに分類し、また一人ひとりの身分や職業を推測します。やがて語り手は高齢の男に気が付き、違和感を覚えて彼を追跡していく、というデザインです。

ミステリーの起源?

 よく『モルグ街の殺人』(1841)が、ミステリーの先駆とされますが、本作『群衆の人』(1840)もそれに先んじて、ミステリーの先駆け的な構造を持っています。

 語り手は、不可思議な男の行動の痕跡を調査し、そして調査を踏まえてその心理的合理性を解釈しようとします。

 そうであるならばモラリスム文学も、ある種ミステリーのルーツのように思われ、またモラリスム文学としてのミステリーの側面に着目して探偵小説を展開したチェスタトンもいます。

ゴシック文学の系譜

 作家ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』がゴシック小説の先駆となり、以降はこのジャンルが連綿と継承されました。

 ポーも『アッシャー家の崩壊』など、このジャンルを代表する作品を多く手掛けたほか、本作もゴシック小説や墓地派を思わせる暗いムードやグロテスクな要素が特徴的です。

物語世界

あらすじ

 ある秋の日暮れ、病気からの回復途上にある語り手は、ロンドンのとあるカフェに腰を下ろしています。彼は自分の気力が充実してくるのを喜び、窓から街の景色を眺め、ある時間帯から密度を増した群集に注目します。それから彼は道行く大勢の人々の服装や雰囲気、表情や身振りを観察し、分析します。

 彼は人々をいくつかのタイプに分類し、また一人ひとりの身分や職業を推測します。やがて語り手は高齢の男に気が付きます。彼の顔にはそれまでに見たことのない奇妙な表情が浮かんでいました。小柄で痩せていて、服はぼろぼろですが、生地自体は上等のようでした。語り手は、この男は何者なのかと興味を覚え、店を飛び出して尾行をします。

 老人は人通りの多い道を往来して一時間も時間を潰し、人通りが少なくなると別の人通りの多い道に移るのを繰り返しています。そして人の集まった場所では安心した表情を見せます。そして市場をなにも買わずに通り抜け、酔漢のいる貧民窟にまで行き、やがてロンドンの都心部へと戻ります。

 追跡は朝まで続き、ついには翌日の日暮れになります。語り手はとうとう老人の前に立って彼を正面から見据えるものの、それでも彼は語り手に気がつきません。語り手はこの男を深い罪の典型であり本質で、群集の人なのだ、と結論して追跡を諦めます。そして自らを読み取られることを拒む書物が存在することは神の恵みの一つなのだと結ぶのでした。

 

参考文献

・佐渡谷重信『エドガー=A=ポー』

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