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ヘンリー=ミラー『南回帰線』解説あらすじ

ヘンリー=ミラー
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始めに

 ヘンリー=ミラー『南回帰線』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

語りの構造

 ミラーは様々な作家の影響を受けていて、しばしばセリーヌ(『夜の果てへの旅』)からの影響と類似を指摘され、実際ミラーもセリーヌ作品を評価してはいるものの、発表前後の動向を見ると、本作に顕著な語りの上での影響が見えるのは、プルースト『失われた時を求めて』と、シュルレアリスムと精神分析のテクストです。

 プルースト『失われた時を求めて』は、語り手でプルーストの分身たるキャラクターのパリの社交界での奮闘と狂騒、そして作家としての自分を確立するプロセスが意識の流れの手法によって展開されていきます。

 『南回帰線』も同様に、意識の流れのような手法によって、作家の周辺の出来事を時系列に従わずに描写していて、混沌とした内的世界が描かれていきます。あらすじやプロットを定義するのは困難で、さながらメルヴィル『白鯨』や大西巨人『神聖喜劇』のように、作家個人の豊かな経験と読書に裏付けられた内的世界におけるその豊かな氾濫が描かれています。

 またシュルレアリスムや精神分析の自由連想法、オートマティズムなどの影響が見えます。

意識とはなにか

 人間の「意識」とは、そもそもなんでしょうか。現代の心の哲学では、意識や心というものの機能主義的、道具的定義がいろいろに考えられており、大まかに言ってそれは複数のモジュールの計算、表象の操作を統合し、シュミレーションから推論を立て環境に適応的な行動変容を促すツールであるとの見通しが立てられています。そこではインプットされたさまざまな表象を操作し、過去にインプットされた表象との関連性が発見されたり、環境の構造化にあたって認識が修正されたりしていきます。

 本作における意識の流れの手法にも、そのような意識の特性が伺えます。語り手である作家は創作のために、さまざまな体験を通じて過去のさまざまな経験や知識の表象をマインドワンダリングさせていき、表象同士が思いがけない形で結びつけられたりする発見のプロセスが語りの中で展開されていきます。

他作品との関係

 1922年にウェスタンユニオンから3週間の休暇を取っていたミラーは、ウェスタンユニオンのメッセンジャー12人を題材にした最初の小説『 切られた翼』を執筆します。この作品の一部は『南回帰線』に用いられています。

 ミラーはまた、 1928年から1930年にかけて執筆した3番目の小説“Crazy Cock”の多くの場面を『南回帰線』に流用しています。

 『薔薇色の十字架』は、二番目の妻ジューンの物語を描いていて、そこから最終的にパリへ出発するまでの過程が描かれており、そこで『北回帰線』の物語につながります。

伝記的背景

 1927 年の春、ミラーはブルックリンのブルックリンハイツ地区に、 2 番目の妻ジューン=ミラーとその愛人ジーン=クロンスキーとともに住んでいました。ある日、彼が家に帰ると、彼らがパリ行きの船に乗ったというメモが残されていました。その後ミラーはブルックリンの両親のもとに戻ります。

 ミラーはパリに住んでいた1933年末に『南回帰線』を書き出しています。

物語世界

あらすじ

 物語は時系列ではなく、 1900年代のブルックリンでのミラーの青春、初恋の相手ウナ=ギフォードとの過去、15歳のときの30歳近いピアノ教師との情事、最初の妻ベアトリスとの結婚生活、1920年代にマンハッタンのウェスタンユニオンで働いていたころ、人生に大きな影響を与えた2番目の妻ジューン(小説ではマーラ)との関係を非線形の語りで展開します。

参考文献

・メアリー=V.=ディアボーン (著), 室岡 博 (翻訳)『この世で一番幸せな男: ヘンリー・ミラーの生涯と作品』

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