始めに
ミラー『薔薇色の十字架』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
背景知識
『薔薇色の十字架』は『ゼクサス』『プレクサス』『ネクサス』からなる三部作で、ヘンリー=ミラーがブルックリンで過ごした6年間を描きます。
主に二番目の妻ジューンの物語を描いていて、そこから最終的にパリへ出発するまでの過程が描かれており、そこで『北回帰線』の物語につながります。
語りの構造
ミラーは様々な作家の影響を受けていて、しばしばセリーヌ(『夜の果てへの旅』)からの影響と類似を指摘され、実際ミラーもセリーヌ作品を評価してはいるものの、発表前後の動向を見ると、本作に顕著な語りの上での影響が見えるのは、プルースト『失われた時を求めて』と、シュルレアリスムと精神分析のテクストです。
プルースト『失われた時を求めて』は、語り手でプルーストの分身たるキャラクターのパリの社交界での奮闘と狂騒、そして作家としての自分を確立するプロセスが意識の流れの手法によって展開されていきます。
『薔薇色の十字架』も同様に、意識の流れのような手法によって、作家の周辺の出来事を時系列に従わずに描写していて、混沌とした内的世界が描かれていきます。あらすじやプロットを定義するのは困難で、さながらメルヴィル『白鯨』や大西巨人『神聖喜劇』のように、作家個人の豊かな経験と読書に裏付けられた内的世界におけるその豊かな氾濫が描かれています。
またシュルレアリスムや精神分析の自由連想法、オートマティズムなどの影響が見えます。
意識とはなにか
人間の「意識」とは、そもそもなんでしょうか。現代の心の哲学では、意識や心というものの機能主義的、道具的定義がいろいろに考えられており、大まかに言ってそれは複数のモジュールの計算、表象の操作を統合し、シュミレーションから推論を立て環境に適応的な行動変容を促すツールであるとの見通しが立てられています。そこではインプットされたさまざまな表象を操作し、過去にインプットされた表象との関連性が発見されたり、環境の構造化にあたって認識が修正されたりしていきます。
本作における意識の流れの手法にも、そのような意識の特性が伺えます。語り手である作家は創作のために、さまざまな体験を通じて過去のさまざまな経験や知識の表象をマインドワンダリングさせていき、表象同士が思いがけない形で結びつけられたりする発見のプロセスが語りの中で展開されていきます。
物語世界
あらすじ
第1巻『セクサス』
ミラーがモードとの最初の結婚生活の破綻、そして彼が2番目の妻となる魅惑的で謎めいたダンサーのモナ(ジューン。当初マーラと呼ばれていましたが、第8章の冒頭から以降の部分ではモナに改名)と出会い、恋に落ち、結婚するまでを描いています。
語り手はモードを捨てたことに罪悪感を抱き、離婚後、彼女にますます惹かれていきます。
第2巻『プレクサス』
ミラーとモナの結婚生活の続きを描き、コスモデモニック・テレグラフ社を退職した後、作家を目指したミラーを描きます。
最終作『ネクサス』
モナとアナスタシア(ジャン=クロンスキー)の関係が深まるにつれ、ミラーは自身の結婚生活において疎外感を抱きます。
二人はついにミラーを置き去りにし、パリへと旅立つのでした。
マーラが一人でパリに戻った後、ミラーと妻はパリへ旅立ちます。




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