始めに
三島由紀夫『愛の渇き』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
古典主義(ラディゲ、コクトー)。リアリズム
三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』『肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いですが、純文学作品には駄作も多いです。また純文学でいいのは『仮面の告白』や本作など初期の作品に多いです。
本作はラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』に似た、宮廷文学になっています。ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』も、クラシックな心理主義文学のラファイエット夫人『クレーヴの奥方』の翻案です。
モーリヤック『テレーズ=デスケルウ』
本作は三島の愛した作家モーリヤックの『テレーズ=デスケルウ』の影響が知られます。以下はそのあらすじです。
舞台は20世紀初頭のフランス南西部、ランド地方。名家同士の取り決めによって結婚したテレーズは、夫ベルナールの家に入り、形式的には恵まれた生活を送っています。しかしその結婚は愛情のないもので、夫の狭量さ、家族の因習的で息苦しい価値観、土地と財産を中心に回る閉鎖的な世界に、テレーズは次第に精神的な圧迫を感じます。
テレーズは、病気治療のために服用していたヒ素を含む薬を使って、夫を徐々に毒殺しようとします。計画は未遂に終わり、疑惑は持たれるものの、名家の体面を守るため、事件は司法の場ではなく「家族内部」で隠蔽されるのでした。テレーズは無罪放免となるが、その代償として完全な孤立と監視下の生活を強いられます。最終的に夫は彼女をパリへ送り出し、テレーズは社会的にも精神的にも宙づりのまま、自由とも救済とも言い切れない状態で物語は終わります。
全体的に女性の社会的な苦悩と殺人にいたる心理を描く点で共通します。
心理劇として
作品は悦子の苦悩と殺人までを描きます。
悦子の元夫の良輔は、浮気で悦子を嫉妬で苦しめました。悦子は自殺しようとしたものの、直前に良輔はチフスになり死にます。良輔の死後、悦子は良輔の父の杉本弥吉の屋敷に呼ばれ、そこに住んでいました。弥吉は商船会社を引退した後、豊中市米殿村に1万坪の土地を買い、果樹園を営みます。屋敷には長男の謙輔夫婦が寄食しており、悦子の亡夫は次男でした。三男の祐輔はシベリア抑留されたままで、その妻と、2人の子供も屋敷に住んでいました。使用人には園丁の三郎と、女中の美代がいます。悦子は、舅の弥吉に求められて関係を持ちますが、悦子の関心は、若く逞しい下男の三郎に向かっていました。
三郎は美代と結ばれ、三角関係になっていきますが、最終的には三郎の態度のせいで味わった苦悩のために、悦子は三郎を殺めてしまいます。
物語世界
あらすじ
大阪梅田の阪急百貨店に買い物に来た悦子は質素な男物の靴下を2足買っただけで帰ってきます。本当は彼岸に亡くなった夫の良輔の仏前に供えるザボンを買うために行ったのもののデパートにはなく、外に出ると驟雨に合い引き返したのでした。悦子は妊婦のようなけだるい歩き方をいつもします。
良輔は、浮気で悦子を嫉妬で苦しめました。悦子は自殺しようとしたものの、直前に良輔はチフスになり死にます。夫の看病中だけ悦子は夫を独占し、嫉妬から自由になりました。
良輔の死後、悦子は良輔の父の杉本弥吉の屋敷に呼ばれ、そこに住んでいました。弥吉は商船会社を引退した後、豊中市米殿村に1万坪の土地を買い、果樹園を営みます。屋敷には長男の謙輔夫婦が寄食しており、悦子の亡夫は次男でした。三男の祐輔はシベリア抑留されたままで、その妻と、2人の子供も屋敷に住んでいました。使用人には園丁の三郎と、女中の美代がいます。
悦子は、舅の弥吉に求められて関係を持ちますが、弥吉を愛しているわけではありません。悦子の関心は、若く逞しい下男の三郎に向かっています。阪急百貨店で買った靴下も三郎のためでした。
しかし靴下はくず缶の中に捨てられ、美代が嫉妬して捨てたのでした。三郎は美代を庇い、自分が捨てたと嘘をつくものの、美代が名乗り出ます。悦子は徐々に嫉妬に苦しみます。
やがて美代は三郎の子を身ごもります。一家を代表し悦子が三郎に事情を聞きます。美代を愛しているのか、いないのかと真面目に問いつめられた三郎は、深く考えていなかったため、特に相手が美代でなくてもよかったような気がして「愛してない」と答えます。悦子は三郎に罰を与えるために美代と結婚するように命じます。三郎は従うことにし、故郷の天理の親に報告しに行くことになります。
自ら命じた2人の結婚という事態に悦子は苦しみます。
悦子の様子をみているうちに、弥吉は隠居暮らしを終え、昔の友人の伝手で東京にて現役復帰しようとし、新たな生活を始めようと悦子に切り出します。悦子は弥吉と東京へ旅立つ代わりに、三郎が天理に行っている留守に、美代に暇をやって(辞めさせて)ほしいと弥吉に頼み、美代を追い出します。三郎は戻って美代の不在を知ったものの、弥吉や悦子にそれを訊ねずに変らずに働いています。美代がいなくなっても平静な三郎が悦子は不可解です。
東京への出発前夜、悦子は夜中の1時、葡萄園に三郎を呼び出します。悦子は三郎に、自分が美代に暇をやったことを話して謝ります。愛の告白をする悦子の追及に、単純な三郎にはピンと来ません。その場を収めるため、悦子から、「誰を愛しているのか」と問われた時、「奥様、あなたです」と言います。その露骨な嘘の返答に、悦子も背を向け帰ろうとします。
しかしその時、はじめて三郎は悦子に女を感じ襲いかかります。驚いて悦子は抵抗し、叫び声をあげます。驚いた三郎は逃げようとします。
悦子は、「待って」と叫びながら三郎に追いすがります。逃げる三郎の前に、折から、2人の不在に気が付いた弥吉が鍬を持って現われます。すると悦子は急にその鍬を奪い取り、三郎の頭上に振り下ろすのでした。
死んだ三郎を前に弥吉が、なぜ殺したと問いつめると悦子は、「あたくしを苦しめたからですわ」と答えたのでした。



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