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アンリ=バルビュス『地獄』解説あらすじ

アンリ=バルビュス
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始めに

アンリ=バルビュス『地獄』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

バルビュスの作家性

 バルビュスに最も大きな影響を与えたのは、自然主義のゾラです。 徹底した観察に基づき、社会の醜悪な部分や過酷な現実をありのままに描く手法を学びました。


​ 若い頃のバルビュスは象徴派の詩人でした。詩集『泣く女たち』などを発表していた初期には、マラルメやカテュール=マンデスといった詩人たちの影響で内省的で耽美的な表現を追求していました。そこから第一次世界大戦という現実に直面したことで、この個人主義的な芸術至上主義から脱却し、社会的な文学へと転向しました。ユゴーが持っていた社会の不条理を告発し、民衆に寄り添うという精神も継承しています。
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やがて戦争の原因が資本主義にあると考え、マルクス主義に傾倒しました。晩年にはスターリンの伝記を執筆するなど、ソ連の体制にも深く関わりました。

地獄とは

 バルビュスが描く最大の地獄は、人間は結局のところ、他者と真に理解し合うことはできず、永遠に孤独であるという事実です。​隣室で繰り広げられる誕生、情事、老い、死を観察しながら、主人公はそれらがすべて孤立した個人の出来事に過ぎないことを悟ります。​私たちは一緒にいるが、常に一人であるという断絶が、物理的な壁および覗き穴によって象徴されています。

 壁の穴から見る世界は、人々が社会的な仮面を脱ぎ捨てた赤裸々な真実です。社会の中では立派に振る舞う人々が密室で見せる卑俗さ、苦悩、情熱など、人間が隠したがる本能や絶望こそが真実であり、その真実を見つめること自体が苦痛(地獄)であると提示しました。
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 ​この作品には、後の実存主義を先取りするような虚無感が漂っています。​愛も信仰も、死という絶対的な終焉の前では無力であり、一時的な慰めに過ぎないという冷徹な視点があります。「​生・性・死」のサイクルがただ繰り返されるだけの世界の虚しさが強調されています。ゾラの影響が強く、人間を環境と本能に支配された生物として冷ややかに観察しています。​登場人物たちは崇高な意志を持っているわけではなく、肉体の欲求や迫りくる死の恐怖に翻弄される存在として描かれます。

物語世界

あらすじ

 主人公の男は、パリの平凡な下宿屋の11号室に居を構えます。彼は銀行勤めの退屈な独身男で、人生にこれといった目的も持っていません。


 ​ある日、彼は自分の部屋の壁(あるいはドアの上の小窓)に小さな穴があることに気づきます。そこからは、隣の12号室の中が丸見えでした。


​ 彼はその穴から、代わる代わる12号室にやってくる人々を、数日間にわたって昼夜問わず観察し始めます。そこには、人間の生老病死のすべてが凝縮されていました。


​ 結ばれたばかりの若い男女の情熱的な愛には、その甘い言葉の裏に潜む、互いを理解し合えない孤独がありました。他にも背徳的な関係に溺れる男女、独り言で神への疑念を口にする神父、癌に冒されのたうち回りながら死にゆく老婆、新しい命が生まれる瞬間など。


​ ​最初は好奇心から始まった覗き見でしたが、次第に彼は自分は人間の真実を目撃しているという奇妙な使命感に取り憑かれます。


 ​彼は、隣室の人々が社会的な仮面を脱ぎ捨て、絶望し、叫び、あるいは虚無に陥る姿を見ることで、人間はみな、自分という殻の中に閉じ込められた囚人であるという冷酷な現実に直面します。
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やがて彼は隣室で起きるドラマが自分自身の内面と何ら変わりないことに気づきます。​彼が悟った結論は、死後の世界に地獄があるのではなく他者と決して一つになれず孤独のまま死に向かって進むこの『生』そのものが地獄であるというものでした。


 ​最後、彼は下宿を去りますが、その心には人間という存在の寂しさが刻み込まれたままでした。

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