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綿矢りさ『夢を与える』解説あらすじ

綿矢りさ
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始めに

 綿矢りさ『夢を与える』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造

田辺聖子、谷崎潤一郎流のフランス心理リアリズム。町田康を思わせる口語の語り

 綿矢りさは田辺聖子(「感傷旅行」)からの影響が顕著です。田辺はスタンダール(『赤と黒』)などフランスの心理主義文学や谷崎潤一郎(『』『痴人の愛』)からの影響が強いですが、綿矢にもそうした作家の心理描写のエッセンスやシチュエーションの設定の手腕、プロットの膨らませ方の巧みさは受け継がれています。谷崎潤一郎は演劇的バックグラウンドがあるため状況設定が上手いのですが、綿矢の本作品にもそうした魅力を感じます。

 また独特の口語の砕けた語り口は、町田康(「きれぎれ」)の影響を伺わせます。町田が学んだ織田作之助(『夫婦善哉』)などとも似て、綿矢の作品には同時代の風俗が細かく描かれています。

タイトルの意味

 最終盤のシーンやセリフが太宰『人間失格』のオマージュですが、テーマもそれと近いです。

 主人公の阿部夕子は、フランス人の血を引く父の冬馬と母の幹子の間に生まれ、誰もが振り返るほどの愛らしい容姿でした。幼いころからタレントになって振る舞いを身に着けさせられ、夕子はインタビューで「夢を与える人になりたい」と答えます。

 しかし、夕子は成長するにつれ、多忙に悩み、両親の不和などから生まれる孤独から、次第に疎外を味わいます。自分は夢を与える人間です。夢を与える人間とはつまり、相手にロマンチックな理想を抱かせる人間です。そのパーソナリティの一貫したイメージを守るために、夕子自身にはロマンティックな、主体的な振る舞いは許されません。

 「夢を与える人」は、まさにそれゆえに自分は夢に抱くような、ロマンティックな主体的な生き方をすることは許されないという逆説がテーマとして描かれています。

物語世界

あらすじ

 阿部夕子は、フランス人の血を引く父の冬馬と母の幹子の間に生まれ、誰もが振り返るほどの愛らしい容姿でした。幼い頃、母の友人の紹介でベビー服のモデルをしたことから、やがて大手食品メーカー「スターチーズ」のCMに抜擢されます。CMは夕子の成長を追い続ける企画で、夕子は「チーズのゆーちゃん」として、お茶の間の人気者になりました。

 小学校高学年になると、夕子の人気はますます高まり、幹子は本格的に芸能活動をするため大手事務所に所属させます。担当マネージャーの沖島は、夕子を子供扱いせず、プロフェッショナルとして接します。沖島のアドバイスもあり、夕子はインタビューで「夢を与える人になりたい」と答えます。

 中学生になった夕子は、タレントと学業の両立に励みますが多忙です。また冬馬と幹子の関係は冷え込み、家庭がギクシャクします。冬馬がこっそり借りていたマンションを幹子が突き止め、二人の断絶がさらにくっきりします。両親の不和を感じた夕子は、さらに勉強に打ち込みます。

 難関高校に合格した夕子ですが、芸能活動は忙しくなり、学業への関心も薄れます。ドラマ出演、ラジオパーソナリティ、アイドルグループへの参加で忙しく、学校では精神的に孤立します。鏡に映る自分の顔が、同年代よりも老けていることに気づき、忘れ去られることへの焦りを感じ始めます。

 そんなある日、深夜のダンス番組で見たストリートダンサーの田村正晃に心を奪われます。マネージャーを通じて彼と知り合った夕子は、すぐに恋に落ち、交際します。夕子は正晃との関係にのめり込み、逢瀬を重ねます。正晃は夕子に依存し、デート代やホテル代も夕子が負担します。

 しかし正晃との密会や、友人たちとの夜遊びが晒され、性的なプライベート映像がインターネット上に流出します。未成年である夕子のスキャンダルのせいで、彼女はすべての仕事を失い、芸能界から姿を消します。

 「過労」という名目で入院した夕子は、病室での独占インタビューに「今はもう、何もいらない」と語ります。

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