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綿矢りさ『インストール』解説あらすじ

わ行の作家
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始めに

綿矢りさが最近中国に渡られたそうです。というわけで(?)今日は綿矢りさ『インストール』のレビューを書いていきます。

語りの構造、背景知識

等質物語世界の「私」=野田朝子

 この作品は等質物語世界の語り手、女子高生の野田朝子を設定しています。口語の砕けた語り口は綿矢文学を特徴づけます。

田辺聖子、谷崎潤一郎流のフランス心理リアリズム。町田康を思わせる口語の語り

 綿矢りさは田辺聖子(「感傷旅行」)からの影響が顕著です。田辺はスタンダール(『赤と黒』)などフランスの心理主義文学や谷崎潤一郎(『』『痴人の愛』)からの影響が強いですが、綿矢にもそうした作家の心理描写のエッセンスやシチュエーションの設定の手腕、プロットの膨らませ方の巧みさは受け継がれています。谷崎潤一郎は演劇的バックグラウンドがあるため状況設定が上手いのですが、綿矢の本作品にもそうした魅力を感じます。

 また独特の口語の砕けた語り口は、町田康(「きれぎれ」)の影響を伺わせます。町田が学んだ織田作之助(『夫婦善哉』)などとも似て、綿矢の作品には同時代の風俗が細かく描かれています。

カニグズバーグ『クローディアの秘密』

 この作品はE=L=カニグズバーグ『クローディアの秘密』を下敷きにしていることが知られています。カニグズバーグのこの作品は、家出した少女が美術館に忍び込み、美術界の謎を解き明かすストーリーです。『クローディアの秘密』が、主人公・クローディアが美術に魅せられ、冒険の中で成長し、その後のより善き人生の礎を築くための自己肯定感を得るといった理想主義的なピカレスクロマンである一方、綿矢の『インストール』はもっとリアリズム寄りです。

 風俗チャットで二十代後半の女性風俗嬢としてのペルソナを被り、大人の異性とのコミュニケーションを取ることを通じて、社会や共同体の習わしを知り自己を相対化して「大人になる」という、ほろ苦い青春の1ページが綴られます。たとえばそれはゴンチャロフ『平凡物語』、二葉亭四迷『平凡』、ブリックマン監督『卒業白書』を思わせます。

 けれども「野田朝子の秘密」であるところの仕事仲間・かずよし少年の家庭事情を知った時の共感と決心は、そこに確かな成長を感じさせます。かずよしの本当の母親は彼が赤ちゃんの頃に亡くなっていること、かよりは去年の冬に後妻として迎えられたことを、終盤朝子はかずよしの継母かよりに聞かされます。「自分も学校に行くから、かずよしも努力しろ」と伝えて、家を後にする朝子でしたが、そこには現実へコミットメントせんとする意思が見て取れます。

フィクション世界

あらすじ

 登校拒否になった高校生・朝子は、部屋の物をあらかた捨てました。それを見た小学生のかずよしは、その中のコンピューターに目を付け、持ち帰ります。

 後日かずよしの家を訪れた朝子は、かずよしがそれを使えるようにしたことを知りました。かずよしの勧めで、風俗チャットのチャットレディとして、雅という風俗嬢になりすまして朝子は働き始めます。

 かずよしのアドバイスもあり、朝子のチャットでの活動は軌道に乗ります。しかし、1ヶ月のち、朝子が学校に行っていないことが母親に知られ、朝子がかずよしの家に出入りしていることも、かずよしの母親に知られてしまいます。

 観念して部屋の鍵を返却しようとした朝子がかずよし母のかよりから聞かされたのは、かよりとかずよしとの意外な関係でした。かずよしの本当の母親は彼が赤ちゃんの頃に亡くなっていること、かよりは去年の冬に後妻として迎えられたこと。血の繋がりのない息子と打ち解けることが出来なかったかよりでしたが、朝子と一緒にいる時はかずよしは生き生きとしていました。かずよしの母親は、「かずよしがあなたといる時楽しいのならそれで良いんです」と言って、咎めることはしませんでした。

 かずよしの部屋の中に入ると、かずよしは雅から受け取ったバイト代30万円を数えるのに夢中でした。その半分の15万円を受け取った朝子は、「自分も学校に行くから、かずよしも努力しろ」と伝えて、家を後にします。明日から学校に行って勉強するためにオンラインショップで机を探すのでした。

登場人物

  • 野田朝子:不登校の女子高生。かずよしの誘いで風俗チャットのバイトをする。
  • 青木かずよし:小学生。コンピューターに詳しい。家庭の事情を抱える。

参考文献

・小谷野敦『芥川賞の偏差値』

・『作家の読書道』

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