始めに
大江健三郎「奇妙な仕事」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
実存主義、カミュ
大江健三郎は、サルトルなどの実存主義から影響が顕著です。
本作は実存主義の作家カミュ(『異邦人』『ペスト』)の『シーシュポスの神話』をも思わせる内容です。これはシーシュポスの神話に着目する随筆です。
ギリシア神話において、シーシュポスは神々を欺いて怒りを買ってしまい、大きな岩を山頂に押して運ぶという罰を受けます。彼は神々の言い付け通りに岩を運ぶものの、山頂に運び終えたその瞬間に岩は転がり落ちます。それを繰り返しても、無意味な結果にしかなりません。
人間も同様にいくら頂上へ登ろうとしても、やがては死に帰す運命です。そんな運命を前にしてもそれに反抗し、人間という存在の不条理(=無意味さ)を引き受けることで個人としての自由な生を実現しようとする姿勢、生を積極的に捉える姿勢を、カミュは是としました。
本作の不条理
本作で語り手の「僕」が置かれたシチュエーションもそれと共通します。「僕」と「女子学生」と「私大生」の三人は、犬を一五〇匹殺すアルバイトを引き受けます。大学病院の実験用の犬一五〇匹が不要になったので、撲殺して皮を剝ぐというものでした。しかし肉の仲買人が肉屋を騙して犬の肉を売り込んでいたことが問題になり、結局報酬は支払われないことになります。それでは、僕たちがやろうとしていたことは何だったのでしょうか。
このように僕は人生の不条理さ(=無意味さ)に直面させられるシチュエーションに出くわします。
こうしたデザインは「死者の奢り」と強く重なるものの、本作のラストはそちらとはかなり異なります。
ファシズムと犬
肉の仲買人が肉屋を騙して犬の肉を売り込んでいたことが問題になり、結局報酬は支払われないことになります。すると、犬を殺すつもりだったものの、殺されるのは僕たちの方だ、と僕は漏らします。それに女子学生が眉をしかめ、声だけ笑うのでした。全ての犬が、糾弾するかのように吠えはじめます。犬の声はこれから二時間のあいだ続くはずです。
このようなプロットは、犬というモチーフを設定しながら、大江がキャリアの中でテーマにした、「日本型ファシズム」「ファシズム」の寓意性を感じさせます。
僕達は曖昧な認識のまま、仕事だからという理由で犬たちの虐殺の仕事を引き受けます。しかし、犬の虐殺はなされないことになり、今度は僕たちの側が、その凡庸な悪について裁かれる、糾弾される側になったことがラストで示されています。
このような流れは、ファシズムや日本型ファシズムの破綻を想起させ、ホロコーストに加担した者たちが戦後どう扱われたのかを想起させ、またアレントのいうところの凡庸な悪を感じさせ、そこに何の主体性もないまま、曖昧に流され同調する中で、悪に加担してしまう僕たちが描かれています。
犬というモチーフ
本作に於いて、犬はさまざまな象徴的含みを持っています。
実験用としてつながれている「犬」は、さまざまな雑種がいて、どれもひどく似かよっています。全部けちな雑種で、やせ細り、杭につながれて従順です。それを語り手の僕は、自分たちと重ねます。敵意をなくして無気力につながれていて、互いに似かよっていて、個性をなくした、あいまいな日本の学生であるところの僕らとよく似ていると、そう感じたのでした。こうした点から、犬は一つにはファシズム社会に生きる大衆の象徴として設定されています。
加えて、ラストで示されるように、犬は抑圧されているマイノリティの象徴でもあります。彼らは支配されることになれ、反抗する意欲をなくしているものの、ラストにおいてはそれまで受けてきた抑圧を糾弾する側に回ります。
「犬とファシズム」の主題はその後『水死』でも扱われます。
ガスカールとメイラー
大江健三郎はガスカールという作家の戦争文学や、行動主義でモダニズムの作家ノーマン=メイラーの影響が初期には特に顕著です。
本作も、ガスカールやメイラー文学のような、生々しく身体的でグロテスクな世界を展開しています。
物語世界
あらすじ
「僕」と「女子学生」と「私大生」の三人は、犬を一五〇匹殺すアルバイトを引き受けます。大学病院の実験用の犬一五〇匹が不要になったので、撲殺して皮を剝ぐというものでした。
三人は専門の犬殺しと一緒に仕事を進めながら、会話します。実験用としてつながれている「犬」は、さまざまな雑種がいて、どれもひどく似かよっています。全部けちな雑種で、やせ細り、杭につながれて従順です。
自分たちもそうなるかもしれない、と「僕」は感じます。敵意をなくして無気力につながれていて、互いに似かよっていて、個性をなくした、あいまいな日本の学生であるところの僕らとよく似ていると、そう感じたのでした。
肉の仲買人が肉屋を騙して犬の肉を売り込んでいたことが問題になり、結局報酬は支払われないことになります。
犬を殺すつもりだったものの、殺されるのは僕たちの方だ、と僕は漏らします。女子学生が眉をしかめ、声だけ笑うのでした。
全ての犬が吠えはじめます。犬の声は夕暮れた空へのぼって行き、これから二時間のあいだ、犬は吠えつづけるはずです。




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