始めに
ポー「メエルシュトレエムに呑まれて」解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ドイツロマン主義の影響
ポーはドイツロマン主義からの影響が顕著です。具体的にはホフマン、シラー、ゲーテ(『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)などの作品から影響を受けました。
ポーにはそこから幻想文学作品も多いです。
また、ゲーテ『若きウェルテルの悩み』など、語り手や視点人物の内的世界の混乱、混沌はシェイクスピアなどより継承する、ロマン主義文学に典型的モチーフですが、ポーも継承します。
またホフマンは『砂男』で信頼できない語り手を導入し、ポーもこれを得意としました。
ゴシック文学の系譜
作家ホレス・ウォルポールの『オトラント城奇譚』がゴシック小説の先駆となり、以降はこのジャンルが連綿と継承されました。
ポーも『アッシャー家の崩壊』など、このジャンルを代表する作品を多く手掛けたほか、本作もゴシック小説や墓地派を思わせる暗いムードやグロテスクな要素が特徴的です。
語りの構造
「モスケンの大渦巻き」と呼ばれるメエルシュトレエムに触発された作品です。
船の難破から生還した漁師の語る話、という作品構成はサミュエル=テイラー=コールリッジの『老水夫行』と共通です。
語り手はもっぱらメエルシュトレエムから間逃れた老人の聞き手に回ります。
ピカレスクとロビンソナーデ
本作はピカレスクとロビンソナーデのモードを踏まえる内容です。
ピカレスクはスペインの文学ジャンルで、特徴としては自伝的な記述の一人称で書かれます。社会的地位が低いアウトローの主人公が機転を利かせて立ち回る、小エピソード集の形式です。平易な言葉やリアリズム、風刺などがしばしば見えます。「悪漢小説」と訳されるものの、ピカレスクの主人公が重大な犯罪を犯すことは少なく、むしろ世間の慣習や偽善に拘束されない正義を持ったアウトローとして描かれやすいです。主人公は性格の変化、成長はあまりしません。
このジャンルの伝統の中でデフォー『ロビンソン・クルーソー』がものされ、『ロビンソン・クルーソー』も主人公のロビンソンがうまく機転を利かせて立ち回り、漂着した無人島で生き残る姿を描きます。この『ロビンソン・クルーソー』は、新しいジャンルであるロビンソナーデジャンルを生み出しました。ジョナサン=スウィフトの『ガリヴァー旅行記』もこのジャンルの影響が大きそうです。
本作もそのようなロビンソナーデと重なり、老人がかつて、ピカレスクばりに機転をはたらかせて、メエルシュトレエム逃れた遭難経験を物語ります。
物語世界
あらすじ
語り手は年老いた漁師に先導されて、ノルウェー海岸の近くにあるロフォーデン州の山ヘルゲッセンの頂上に着きます。そこは断崖絶壁になっており、眺望が開けて海と島々の様子が見渡せます。
海は荒れ狂っており、一旦静まったかと思うと海流が変化し、突然巨大な渦巻きが現れます。どんな巨船も逃れられないであろう猛烈な大渦、それが「メエルシュトレエム」でした。漁師は、自分は老人のように見えるが本当は若く、ある恐ろしい出来事が自分をほんの1日足らずでこのような姿に変えてしまったと明かし、語り手に大渦を目の当たりにさせながら、3年前に自身に起こった出来事を語ります。
彼は二人の兄弟とともに漁船を出し、渦の起こる近くで漁をしていました。他の漁師たちは大渦巻きを恐れて近寄らないものの、そこはいつでもたくさんの水揚げがありました。普段は時間を見ながら、潮が緩んで大渦が発生していない時に引き上げるのものの、その日は運悪く、長い海上生活の経験でも予測できなかった嵐に遭遇します。
弟はマストごと海の中に吹き飛ばされて消え、彼と兄が乗った船は暴風によって急速に渦の方へ押しやられます。時間を計っておいた漁師は、じきにメエルシュトレエムの活動が終わると希望を抱いていたのものの、そうはいきません。もうすぐ終わるどころか、メエルシュトレエムが荒れ狂っている真っ最中でした。
船は大渦に捉えられ、回転運動をしながら次第に渦の中心に近づいていき、漁師は観念して渦の様子を見守ります。渦の漏斗には船の破片など様々なものが飲み込まれています。
その様子を観察しているうちに、彼はやがて、体積の大きいもの、球状のものは早く渦の中心に落下して行くのに対して、円柱状のものは飲み込まれるのに時間がかかっていることに気付きます。
兄にそれを伝えて共に脱出しようとするものの、恐怖で錯乱した兄は言う事を聞きません。彼は覚悟を決め、一か八かで円筒状の樽に自分の体を縛り付けて海に飛び込んでいきます。船がそのあとすぐに渦の中心に飲み込まれてしまったのに対し、円筒状の樽は飲み込まれずに留まり、渦が消滅するまで持ちこたえます。「恐ろしさに髪は真っ白になり、まるで老人のように変わってしまって、助けてくれた漁師たちは誰も私だとわからなかった。あなたもロフォーデンの漁師仲間と同じで、こんな事はとても信じられないでしょう」と最後に漁師は締めくくります。




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