はじめに
トマス=ハーディ『青い眼』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自然主義と進化論
ハーディは自然主義に括られる作家です。
ダーウィン『進化論』に触れたことでキリスト教に批判的になり、無神論的な、物理主義的な世界観を獲得し、創作に展開しました。
往々にしてそうした視座から、ゾラ(『居酒屋』『ナナ』)同様、社会の暗い現実を描きます。
ウィルキー=コリンズの影響
ジョージ=メレディスの助言により、ヴィクトリア朝を代表する作家であるウィルキー=コリンズを参照するよう勧められました。
コリンズはディケンズやサッカレー(『虚栄の市』)と並んでヴィクトリア朝を代表する作家で、入り組んだプロットのデザインが特徴的で、それを参考にして物語的因果をふんだんに凝らすハーディのスタイルが生まれました。
本作も、ダイナミックなプロットの展開が特徴です。
処刑の経験
ハーディは16歳のとき、夫を殺害したエリザベス・マーサ・ブラウンの絞首刑を目撃しました。
イングランドのドーセットで公開絞首刑に処された最後の女性がエリザベスで、彼女は、2番目の夫ジョン=ブラウンからDVを受けたとされ、彼を殺害して死刑になりました。
彼女の死を目の当たりにしたことは、ハーディに大きな影響を与えました。
階級の壁
物語の核となるのは、若き建築家スティーヴン=スミスとヒロインのエルフリーデの恋ですが、そこには常に階級の壁が立ちはだかります。スティーヴンは才能があっても、出自が労働者階級であるためにエルフリーデの父の牧師から結婚を反対されます。当時のイギリス社会における生まれが個人の幸福をいかに制限していたかが、鋭く描かれています。
中盤から登場する知的な男性ヘンリー=ナイトは、エルフリーデに完全な純潔を求めます。ナイトは彼女の過去のスティーヴンとの交際を知ると、たとえそれが清い関係であっても、彼女を汚れたものとして拒絶します。男性が勝手に作り上げた女性の理想像と、それに翻弄される女性の悲劇があります。
化石と崇高さ。悲劇
有名な「名もなき崖」のシーンでは、ハーディ特有の哲学が表現されています。死に直面したナイトが崖の岩肌に三葉虫の化石を見つける場面です。何百万年という地質学的な時間の流れに対し、人間の愛憎や悩みがいかにちっぽけで無力であるかという虚無感が提示されています。
ハーディ文学の真骨頂である皮肉な運命が、結末に凝縮されています。かつての恋人たちが、それぞれ彼女を取り戻そうと同じ列車に乗って村へ向かいますが、実はその同じ列車にエルフリーデの遺体が運ばれているという残酷な結末です。良かれと思った行動が最悪の結果を招く、ハーディらしい悲劇的構造が完成されています。
物語世界
あらすじ
イギリスの田舎町コーンウォール。牧師の娘エルフリーデのもとに、教会の修復工事のために若き建築家スティーヴンがやってきます。二人はすぐに恋に落ちますが、スティーヴンの家柄が貧しいことを知ったエルフリーデの父は、結婚に猛反対します。
二人は駆け落ちを試みてロンドンへ向かいますが、途中でエルフリーデが怖気づき、結局何もせずに村へ戻ってしまいます。スティーヴンは彼女にふさわしい地位を得るため、インドへ出稼ぎに旅立ちます。
スティーヴンが不在の間、彼の師であり恩人でもある知識人ヘンリー=ナイトが村を訪れます。エルフリーデは、スティーヴンにはなかったナイトの大人な知性に惹かれていきます。しかし、ナイトは女性の純潔に対して異常なまでの理想を抱く男でした。エルフリーデは彼に愛されたい一心で、スティーヴンとの過去を隠し通そうとしますが、偶然や誤解が重なり、過去の交際がナイトにバレてしまいます。自分以外の男を知っている女性など愛せないと、ナイトは絶望して彼女を捨て、去ってしまいます。
数年後、インドで成功したスティーヴンと、彼女を忘れられないナイト。二人の男は偶然にも同じ日の同じ列車に乗り、エルフリーデに再び求婚するために故郷の村へと向かいます。車中で顔を合わせた二人はライバル心を燃やしますが、駅に着くと、その列車には豪華な棺が積まれていることに気づきます。
二人が追っていたエルフリーデは、絶望の中で別の貴族と結婚していましたが、若くして病で亡くなっていたのです。彼女の遺体は、まさに彼らが乗っていた列車で運ばれていました。二人の男は、彼女の墓の前で立ち尽くすことしかできませんでした。




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