始めに
ハーディ『カスターブリッジの市長』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
自然主義と進化論
ハーディは自然主義に括られる作家です。
ダーウィン『進化論』に触れたことでキリスト教に批判的になり、無神論的な、物理主義的な世界観を獲得し、創作に展開しました。
往々にしてそうした視座から、ゾラ(『居酒屋』『ナナ』)同様、社会の暗い現実を描きます。
ウィルキー=コリンズの影響
ジョージ=メレディスの助言により、ヴィクトリア朝を代表する作家であるウィルキー=コリンズを参照するよう勧められました。
コリンズはディケンズやサッカレー(『虚栄の市』)と並んでヴィクトリア朝を代表する作家で、入り組んだプロットのデザインが特徴的で、それを参考にして物語的因果をふんだんに凝らすハーディのスタイルが生まれました。
本作も、ダイナミックなプロットの展開が特徴です。
処刑の経験
ハーディは16歳のとき、夫を殺害したエリザベス・マーサ・ブラウンの絞首刑を目撃しました。
イングランドのドーセットで公開絞首刑に処された最後の女性がエリザベスで、彼女は、2番目の夫ジョン=ブラウンからDVを受けたとされ、彼を殺害して死刑になりました。
彼女の死を目の当たりにしたことは、ハーディに大きな影響を与えました。
社会小説
本作は社会小説(social novel)と括られます。
社会小説は社会問題をテーマとする作品ジャンルで、貧困、工場や鉱山労働、児童労働、女性への暴力、犯罪の増加、都市の過密と衛生状態などを批判的に描くものが多いです。
近代化にともなって18世紀のイギリスに成立したジャンルで、ヨーロッパとアメリカに広がり、ピカレスクなどにその源流を持ちます。
パストラル
本作はパストラルの影響が顕著です。
田園地方の美しい自然描写はハーディの特徴ですが、これはパストラルジャンルを背景にしています。
狭義のパストラルは、田園の理想郷を舞台として牧人たちが恋の歌を競い合う韻文ですが、やがてパストラルロマンス、パストラルドラマといった、散文による田園地帯におけるメロドラマが定着していき、本作もその中に位置づけられます。
ウィリアム=シェイクスピアの戯曲『お気に召すまま』も田園ロマンスのジャンルで、ハーディもこの作品に『緑樹の陰』にてオマージュを捧げています。
ヘンチャードの性格悲劇
物語はベンチャードの性格悲劇を描きます。
若き日の衝動で妻と娘を売り飛ばしたヘンチャードの行為は、後の彼の成功と没落の主要な原因となります。その過去の過ちを償おうと努力しますが、さらなる悲劇を生みます。
ヘンチャードの短気で情熱的な性格と、彼を取り巻く社会の常識や制度、そしてライバルであるファーフレーの合理的な生き方との対比が描かれ、ヘンチャードのファーフレーに対する嫉妬は、彼の没落を加速させる要因の一つです。
物語世界
あらすじ
ウェセックス州ウェイドン=プライアーズの田舎の市で、21歳の干し草の束を作る男マイケル=ヘンチャードは妻スーザンと口論になります。酒に酔った彼は、妻と幼い娘エリザベス=ジェーンを船乗りのリチャード=ニューソンに5ギニーで競売にかけます。翌日、酔いが覚めて後悔していた彼ですが、家族を見つけられず、21年間、二度と酒に手を出さないと誓うのでした。
オークションが法的に拘束力を持つと信じ、スーザンは18年間ニューソンの妻として暮らしました。ニューソンが海上で行方不明になった後、生活の糧を失ったスーザンは娘を連れて再びヘンチャードを探し出そうとします。スーザンはエリザベス=ジェーンにヘンチャードについてほとんど話していなかったため、エリザベス=ジェーンは彼が姻戚関係にあることしか知らないのでした。
スーザンは、ヘンチャードが干し草と穀物の商人で成功し、キャスターブリッジの市長を務めており、厳格な禁酒で知られていることを知ります。彼は妻をなくした経緯を明かしませんでした。
二人が再会すると、ヘンチャードは偽装求愛の末、スーザンと再婚することを提案します。事態を収拾し、エリザベス=ジェーンに自分たちの不名誉を知られないようにするためです。しかし、そのためには、病気の時に看病してくれたルセッタ=テンプルマンという女性との婚約を破棄しなくてはいけません。
キャスターブリッジを通りかかった若くて元気なスコットランド人ドナルド=ファーフレーは、ヘンチャードに、彼が買った粗悪な穀物の処分方法を教え、彼を助けます。ヘンチャードはファーフレーを気に入り、説得して穀物仲買人として雇いますが、すでに仕事をオファーしていたジョップという男を断ります。ファーフレーはその仕事で大成功を収め、雇い主を凌駕していきます。
彼がエリザベス=ジェーンの目に留まると、ヘンチャードは彼を解雇し、ファーフレーは独立した商人として独立します。ファーフレーは誠実に行動しますが、ヘンチャードはライバルを破滅させようと、危険なビジネス上の決定を下し、悲惨な結果に終わります。
スーザンは再婚後まもなく病に倒れ亡くなり、ヘンチャードにエリザベス=ジェーンの結婚式当日に開封するよう手紙を残します。ヘンチャードは封がきちんとされていない手紙を読み、エリザベス=ジェーンが実は自分の娘ではなく、ニューソンの娘であることを知ります。ヘンチャードとの娘エリザベス=ジェーンは幼少期に亡くなっていたのです。この事実を知ったヘンチャードは、二番目のエリザベス=ジェーンに対して冷淡な態度を取るようになります。
エリザベス=ジェーンは、新参者のルセッタの付き添い役を引き受けます。叔母から遺産を受け取って裕福になったルセッタは、ヘンチャードの妻が亡くなったことを知り、彼と結婚するためにキャスターブリッジにやって来ています。しかし、ファーフレーと出会ったルセッタは彼に惹かれ、彼も彼女に惹かれていきます。
ヘンチャードは経済的な困窮から、ルセッタと早く結婚すべきだと考え始めます。しかし、ルセッタはファーフレーに恋をしており、二人は結婚するために週末に駆け落ちします。
へンチャードの信用は失墜し、破産します。ファーフレーはヘンチャードの古い事業を買い取り、彼を職人として雇うことで彼を助けようとします。
ルセッタはヘンチャードに昔のラブレターを返すように頼み、ヘンチャードはジョップにそれを持ってくるよう頼みます。
代理人の地位を取られた恨みをまだ抱いているジョップは、宿屋で手紙を開けて読み上げます。町民の中には、ヘンチャードとルセッタを公然と辱め、スキミントン乗りの人形を作る者もいた。ルセッタはこの光景に打ちのめされ、倒れて流産し、亡くなります。
翌日、ニューソンが実は生きていて、ヘンチャードの家を訪ね、娘のことを尋ねます。娘の優しさを大切に思っていたヘンチャードは、娘を失うことを恐れ、ニューソンに娘は死んだと告げます。ニューソンは悲しみに暮れながらその場を去ります。
ヘンチャードの禁酒の誓いは破れ、彼は再び酒を飲み始めます。
やがて嘘をつかれていたことに気づいたニューソンは戻り、ヘンチャードは姿を消します。エリザベス=ジェーンとファーフレーの結婚式の日、ヘンチャードは恐る恐る和解を求め戻ってきます。彼女は彼を拒絶し、永遠に去っていきます。
その後、後悔したニューソンとファーフレーは彼を探しに出発します。しかしヘンチャードが孤独に亡くなったことを知ります。彼らはまた、ヘンチャードの最後の遺言も発見する。それは、忘れ去られることだった。




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