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ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』解説あらすじ

ドストエフスキー
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始めに

ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

ゴーゴリからバルザック風のリアリズムへ

 ドストエフスキーはキャリアの初期には特に初期から中期のゴーゴリ(「」「外套」)の影響が強く、『貧しき人々』も書簡体小説で、繊細かつ端正なデザインですが、次第に後期ゴーゴリ(『死せる魂』)やバルザック(『従妹ベット』)のリアリズムから影響されつつ、独自のバロック的な、アンバランスなリアリズム文学のスタイルを確立していきます。

語りの不統一、破綻

 本作は語り手の形式が統一されておらず、作者の分身のような「私」が物語世界内に登場する一方で、異質物語世界のさまざまな人物に焦点化を図る語り手のようでもあって、語りの構造が統一されていません。

 ガルシアマルケス『族長の秋』のように意図してこうしたデザインというのではないようです。

 印象としては等質物語世界の、もっぱら物語世界外からの、焦点化ゼロに近いような語りという点で司馬遼太郎『坂の上の雲』などと似ています。

 『悪霊』でも語りの実験が見え、苦心のほどがうかがえます。

バフチンの指摘。プラグマティックな社会の再現

 バフチンはポリフォニーという概念でもって、ドストエフスキー作品を分析しました。バフチンは社会学、哲学(新カント学派)、現象学(フッサール、ベルクソン)から顕著な影響を受けましたが、バフチンの文芸批評はそこから影響がみえます。

 バフチンがドストエフスキーの文学について解釈していたのは、そこに描かれる物語が、物語世界内にコミットする一人ひとりのエージェントの戦略的コミュニケーションの集合の帰結として展開されているということでした。このようなプラグマティズム的な発想が、ドストエフスキーのリアリズムの特徴です。

 他の作品では例えば冨樫義博『HUNTER×HUNTER』、ハメット『マルタの鷹』『血の収穫』、谷崎潤一郎『』エドワード=ヤン監督『エドワード=ヤンの恋愛時代』などに近いですが、物語は偏に特定のテーマや目的に従うべくデザインされている訳ではなく、エージェントがそれぞれの選好、信念のもと合理性を発揮し、これが交錯する中でドラマが展開されていきます。このようなデザインは、現実社会における政治学・社会学(システム論、エスノメソドロジー)や国際関係論におけるリアリズム/リベラリズム/ネオリベラリズム/ネオリアリズムが想定する人間関係や国際関係に対するモデルと共通します。バフチンがドストエフスキーに見出したのもまさにこのようなデザインが現実社会における実践の正確な再現である点だと思います。

ミステリというよりは家族とメロドラマメイン

 本作は犯罪小説、ミステリ、法廷ミステリ的なモチーフや展開が見えるために、ミステリ小説の特徴をいくつか備えているものの、あまりミステリ要素というか、隠された真相が明らかになるみたいなのはありません。『罪と罰』にしてもそうですが。

 とはいえ、先にハメット『マルタの鷹』『血の収穫』の名前を挙げましたが、ハメットのハードボイルド小説(ヘンリー=ジェイムズからの影響が顕著)とはコンセプトとして重なります。

 本作は家族とその周辺の恋愛模様の人間関係の中で、親子、兄弟、恋人間の確執が、それぞれのエージェントの合理的戦略が交錯する中でエスカレートして、破滅的な結末に向かうまでが描かれます。

物語世界

あらすじ

 強欲かつ好色な地主フョードル=カラマーゾフは、直情的な長男のドミートリイとそりが合わず、遺産相続や、グルーシェンカという女性を争っています。

 ある日、三男の修道僧アレクセイの師、高僧ゾシマの仲介で、カラマーゾフの兄弟3人が一堂に会すことになります。しかし、フョードルとドミートリイは大喧嘩してしまいます。 ドミートリイにはカチェリーナという婚約者がいたものの、カチェリーナに対し、君を真剣に愛している次男のイヴァンのほうが君にふさわしいと伝えるよう、末弟のアレクセイに頼みます。アレクセイがそれを伝えにカチェリーナの元に行くと、グルーシェンカがいました。グルーシェンカはカチェリーナに、ドミートリイとは結婚しないと言っておきながら、ドミートリイの伝言を聞くとカチェリーナをあざ笑ったので、女二人も対立します。

 カチェリーナはイヴァンと接近しますが、酒場でドミートリイに乱暴をされたスネギリョフなる男がそのことで訴えないようスネリギョフに見舞金を送るようにアレクセイに頼みます。スネギリョフの息子イリューシャも、父親を侮辱したドミートリイを憎んでいます。スネギリョフはこれをもらったら息子に申し訳ないと見舞金を受け取りません。そんな夜、スメルジャコフがてんかんの発作で倒れ、ドミートリイ来襲の監視役を失ったフョードルは不安に陥ります。


 高僧ゾシマが死にますが、その死体の激しい腐臭のため、還俗したアレクセイも神への疑念を抱きます。 ドミートリイはカチェリーナと縁を切るべく、カチェリーナに返す金を工面しようとするものの果たせず、父の金を盗もうとカラマーゾフ家に忍び込みます。しかし見つかり逃走、次にはグルーシェンカが昔の愛人と会っていると知って、その現場へ急行します。そこで恋敵を追い払い、グルーシェンカから愛の告白を受けるも、警察に逮捕されます。容疑は父フョードル殺しでした。

 犯人をドミートリイとするイヴァンは、犯人をスメルジャコフと見るアレクセイと絶交してしますが、イヴァンは不安になってスメルジャコフを問い質します。スメルジャコフは犯行を自白するものの、殺人を許可したのはイヴァンだと言います。怒ったイヴァンは明日の裁判で真実を言えと言うものの、アレクセイがスメルジャコフの自殺を告げました。

 裁判はドミートリイに有利に傾いていくかに見えますが、最後にイヴァンが事件当日盗まれた金を示して、犯人はスメルジャコフであり、それをそそのかしたのは自分であると喚くと、カチェリーナが一転、父を殺すと書いたドミートリイの手紙を示し、ドミートリイが犯人だと喚きます。ドミートリイは有罪、シベリア流刑懲役20年になります。

 その後、病床に臥したイヴァンは、カチェリーナがドミートリイの脱獄を助けるようにと言い残します。少年イリューシャの葬式で少年コーリャは尊敬するアレクセイに、ドミートリイのように何かのために犠牲になりたいといいます。

参考文献

・桑野隆『バフチン』

・トロワイヤ『ドストエフスキー伝』

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