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大江健三郎『晩年様式集』解説あらすじ

大江健三郎
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はじめに

 大江健三郎『晩年様式集』解説あらすじを書いていきます。「おかしな二人」三部作(『取り替え子』『憂い顔の童子』『さようなら、私の本よ!』)の関連作品です。

語りの構造、背景知識

異質物語世界の語り手。直江古義人への焦点化

 この作品は主人公であり大江健三郎の分身たる直江古義人に焦点化が主に図られますが、異質物語世界の語り手が展開されています。

 モダニズムの枠ではジョイス『ユリシーズ』や川端康成『みづうみ』『眠れる美女』と近いデザインでしょうか。

おかしな二人三部作との関係

 「おかしな二人」三部作(『取り替え子』『憂い顔の童子』『さようなら、私の本よ!』)は義兄の自殺後の老作家古義人を主人公にする作品で、一作目には義兄との過去がメインに据えられています。二作目ではそこから母と故郷という自分のルーツについて、三作目ではそれを踏まえた作家の今後のありようが描かれます。本作はその関連作品になっていて、『水死』などと同様です。

 本作はテーマ的には『さようなら、私の本よ!』に近く、老作家の政治へのコミットメントが展開されます。

私家版『徒然草』。モラリスト文学

 本作品は隠者文学である兼好法師の『徒然草』の翻案めいた作品になってます。『徒然草』はシニカルな中にコモンセンスに裏付けられた卓越した道徳と機知をたたえた随筆といえますが、その卓越した筆力は大江健三郎が私淑するトウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)やラブレー(『ガルガンチュアとパンタグリュエル』)、またフランスのモラリストのモンテーニュといった作家と重なります。

 『さようなら、私の本よ!』では、政治活動の失敗により、隠居する運びとなった顛末が綴られていましたが、本作では隠者たる兼好法師のように社会のアウトサイダーとなりつつも、行動主義者として政治へのコミットメントを図ろうとする作家の姿が描かれます。

物語世界

あらすじ

 東日本大震災と原発事故でダメージを受けた老作家、長江古義人は、長編を仕上げる気力を失い、構想を放棄します。古義人は、徒然草にならい、地震で崩壊した書庫から拾い出してきた「丸善のダックノート」に日記を書きつけます。古義人はそれを「晩年様式集」と名づます。

 古義人の妹のアサ、妻の千樫、娘の真木らは長年、古義人の作品に登場人物として描かれました。彼女たちは「三人の女たち」というグループを結成し、古義人の作品や古義人そのひとへの批評を文書でよこしました。古義人は自分の文章に彼女らの文書を挟み込み私家版の雑誌『「晩年様式集」+ α 』を作ります。

 古義人の過去作『懐かしい年への手紙』で描かれた古義人の師匠であったギー兄さんの息子、ギー=ジュニアは大地震と原発事故という日本のカタストロフィーを取材すると同時に、古義人へインタビューを開始します。

古義人には、核時代の危機に警鐘を鳴らしてきた自分の仕事は、効力を及ぼさなかった、という認識があります。それでも古義人は「三・一一後」に新しく立ち上がった反原発の社会運動に身を投じます。

参考文献

小谷野敦『江藤淳と大江健三郎』(筑摩書房)

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