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太宰治「走れメロス」解説あらすじ

太宰治
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始めに

太宰治「走れメロス」解説あらすじを書いていきます。

背景知識,語りの構造

芥川龍之介の影響。シラーと芥川

 太宰治は私淑した芥川龍之介の影響が顕著です。芥川にはシラー『群盗』にインスパイアされた『偸盗』があり、シラーから影響が大きい作家でした。本作もシラーの作品を下敷きにしています。

 「古伝説と、シルレルの詩から」と本文にあり、太宰のオリジナルではないことはよく知られています。古伝説とは「ダーモンとピンチアース」で、シルレルの詩とはフリードリヒ・フォン・シラーの『Die Bürgschaft』で、この小栗孝則が訳した『人質』を下敷きにしたそうです。というか小栗の訳文そのままの箇所があって、今だと著作権的に危うい(著作権は文章表現に与えられる)です。小栗訳の『人質』は詩なので、これを散文に勝手に脚色したのに近いです。

シラー『Die Bürgschaft』

 シラー『Die Bürgschaft』は「ダーモンとピンチアース」の物語に基づいています。シラーはヒュギーヌスの『神話集』をもとに、「ダーモンとピンチアース」を脚色しました。

 シラー『Die Bürgschaft』は、ほぼ『走れメロス』とプロットは変わりません。残忍な暴君ディオニシウスがシチリアを統治し、国民を拷問で殺害するなどし、メロスは暴君を殺そうとします。しかし捕らえて、王のもとへ連れて行かれます。死罪になるものの、メロスは妹が結婚するために3日の猶予を要求し、彼は友人セリヌンティウスを暴君に引き渡し、保証人とします。王は、もしその日メロスが来なければ死刑になり、メロスは自由になるとセリヌンティウスに説明します。 メロスが結婚式から帰る途中、嵐と雨に見舞われます。しかしなんとかメロスは処刑人に追いつき、遠くから叫びました。王は二人を自分の前に連れてきて、友情に受け入れてくれるように頼みます。

 「ダーモンとピンチアース」の神話は、もともとピタゴラス教団というグループの結束の強さを伝えるための逸話であり、それがマクシムス『著名言行録』に引用され、キリスト教の道徳的理想を説くツールとなっていました。

 本作は、宗教や特定の集団の結束や倫理を説くものというより、広く人間の友愛に関する物語になっています。ロマン主義的な道徳的理想を描く内容になっています。

「走れメロス」における脚色

 「走れメロス」の原作、原案からの大きな変更点として、メロスの心理描写の占めるウェイトが大きくなっていることでしょう。またメロスが諦めの誘惑に負けそうになってしまう展開は、本作独自の脚色で、全体的にメロスの直情的で気分屋な性格が描かれています。

 とはいえ裏切りの誘惑に親友二人が勝利するという展開は、原作のコンセプトと大きく異なる脚色でもないでしょう。

熱海事件

 本作は檀一雄(『火宅の人』)いわく「熱海事件」が下敷きだそうで、これは『小説 太宰治』などに現れます。これは檀一雄と遊んだ時、ツケなどが払えなくなり、檀一雄を人質にして借金に太宰を向かわせたところ、太宰は井伏と将棋をやっていて、問い詰める檀一雄に居直った事件で、確かに状況は似ています。

 とはいえこの事件の影響は檀一雄の推測に過ぎず、太宰からは言及していないので、なんともいえないところではあります。

太宰らしさ?

 本作はよく太宰らしくないと言われます。本作は『女生徒』『パンドラの匣』にも似て、原案、原作と呼べるようなかっちりしたフォーマットがあったために、確かに太宰治らしからぬ、ストレートな友愛の賛美が描かれている部分はあります。

 とはいえ、芥川龍之介にも似た理想主義者のモラリストである太宰治が、他人の口を経由することでようやく理想を説いているというのは、ちょっと太宰らしくもあります。

物語世界

あらすじ

 妹と2人で暮らす羊飼いの青年メロスは、妹の結婚式の買い物にシラクスの市を訪れます。街の不穏な雰囲気を訝しみ、出会った老爺に尋ねると、人間不信から罪もない人々をディオニス王が処刑しているのでした。メロスは激怒し、王を暗殺しようとします。

 メロスが王城に入ると、警吏に捕まり王のもとへ連れて行かれます。メロスは死ぬ覚悟はできているものの、妹の結婚式を挙げたいから、処刑まで3日の猶予をくれるように、と王に言います。身代わりにシラクスの石工で親友のセリヌンティウスを置いていく。戻らなければ彼を殺すよう言います。王は、メロスの願いを受け入れます。セリヌンティウスは、メロスを理解し、身代わりとなります。

 メロスは一睡もせずに走り、村に着きます。シラクスでのことは告げず、結婚式を明日にするように頼みます。花婿から反対されるものの、説得します。2日目、結婚式は無事に開かれます。その日の晩、メロスは宴会を途中で抜けて眠ります。

 3日目の朝、王城へ走ります。やがて日が高く昇って暑くなると、急がなくても間に合うと、ゆっくり歩きます。しかし、川では豪雨により橋が壊れています。メロスは泳いで渡り切り、峠では山賊たちに襲われ、逃げ延びます。峠を下ると、疲労と灼熱の太陽により限界を迎えます。自棄になり、その場にまどろみます。近くの岩の裂け目から清水があり、それを飲むと疲れが取れ、再び走り出します。

 メロスは夢中で、ほとんど裸体となっていました。シラクスの塔楼が見えた頃、セリヌンティウスの弟子であるフィロストラトスに声を掛けられます。もう間に合わないから止めるようにと言いますが、メロスは信じられているから走るので、結果は問題でないと答えて走ります。

 日が完全に沈む直前、メロスは刑場に辿り着きます。メロスはセリヌンティウスに裏切ろうとしたことを告白し、頬を殴らせます。するとセリヌンティウスも一度だけメロスを疑ったことを打ち明け、殴らせます。二人は抱き合い、泣きます。その様子を見ていた王が顔を赤らめて二人に近づき、自分も仲間に加えて欲しいと言います。すると群衆から「王様ばんざい」と歓声が起こります。

 一人の少女が赤いマントをメロスに差し出す。まごつくメロスにセリヌンティウスが「この娘さんは、メロスの裸体を皆に見られるのが、悔しいのだ」と教えてあげると、メロスは赤面する。

参考文献

・野原一夫『太宰治 生涯と作品』

・角田旅人「「走れメロス」材源考」

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