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太宰『道化の華』解説あらすじ

太宰治
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始めに

 太宰『道化の華』解説あらすじを書いていきます。

語りの構造、背景知識

ジッド『ドストエフスキー論』の影響。芥川龍之介『藪の中』などに似る形式主義的実験

 太宰治はジッド(『田園交響楽』『狭き門』)の作品やその『ドストエフスキー論』から顕著な影響を受けました。本作の形式主義的実験にはその痕跡が見受けられます。また私淑した芥川龍之介『藪の中』のような非線形の語りに影響されています。

 ジッドとドストエフスキーの影響は女性の理想主義的な表象にも顕著で、サリンジャー作品(『ライ麦畑でつかまえて』『ナイン=ストーリーズ』)にも似ています。

語りの構造

 本作は異質な語りの構造が設定されています。本作は、葉蔵というキャラクターが主人公で、このキャラクターは、太宰治の分身のような存在で、『人間失格』の主人公と同姓同名です。

 このキャラクターに主たる焦点化が置かれつつ、他の人物にも焦点が置かれます。

 本作の語り手は異質物語世界の語り手のようでもあるものの、作者の分身のような等質物語世界の語り手です。この作者の分身たる語り手が、自己の創造物であり、また自己の分身である葉蔵の物語を物語世界外から語っていくという構成です。語り手は、葉蔵に共感し、なんとか救済と赦しを与えたいと願います。

 『人間失格』にも似た、非線形の語りが特徴です。

田部シメ子

 本作の園のモデルは田部シメ子です。

 田部シメ子は広島の繁華街新天地の大型喫茶店「平和ホーム」の女給となり、客のひとり高面順三と知り合い、同棲します。1930年夏、新劇の舞台俳優を志す高面順三と上京するも高面の就職に困り、銀座のカフェ「ホリウッド」に田辺あつみ名で勤めます。このとき、客として津島修治(太宰治)と知り合います。1930年11月28日、太宰と共にカルモチンを購入して鎌倉に向かい、同日夜半から明け方にかけて、七里ガ浜海岸の小動神社裏海岸にて、太宰とカルモチンによる心中を図ります。しかし田部のみ死亡し、太宰が生き残ったのでした。

 本作はその心中未遂経験が背景です。

道化師

 堀口大学の作品にも現れますが、世紀末文学におけるグロテスクなサーカスや道化師のモチーフは頻繁に見えるものでした。シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」などがよく知られます。

 ゴダール監督『気狂いピエロ』も、本作のような青春パンクとして有名です。

 複雑な家庭環境に育ち、道化た振る舞いで必死に周囲を和ませたり関心を引こうとしたりする太宰の切実な感情が、道化師に仮託して描かれます。

物語世界

あらすじ

 葉蔵は、園という女と心中をはかり、葉蔵だけが生き残って、青松園へ収容されることになります。広い病室へ移された葉蔵は、警察に取り調べを受けます。

 午後になり、葉蔵こ友人・飛騨が訪れます。飛騨は、葉蔵の中学の頃からの友人です。また葉蔵の親戚でもある小菅がやってきます。飛騨と小菅、そして看護婦の真野は食堂へ向かい、そこで葉蔵の自殺について話し合います。

 3人はそれぞれ意見を語るものの、答えは出てこないし、葉蔵にもわからないのでした。

 葉蔵の兄がやってきます。飛騨と小菅は兄の宿泊している旅館に泊まり、夜になって小菅だけが戻ります。明日は、飛騨と兄が警察に行くそうです。

 次の日、飛騨が現れます。飛騨は、自殺幇助罪に問われうることを告げます。道化の葉蔵でも、病室の雰囲気を元に戻せません。

 ある晴れた日、葉蔵と飛騨、小菅は、葉蔵は飛び降りた岩を見ます。今飛び込めばほっとするという葉蔵。やがて若い女の入院患者がこちらへ歩いてきます。それぞれが、互いを思いやるのが伝わります。

 最後の朝、真野は、裏山の景色を見に行こうと葉蔵を誘います。その日の景色は、雲がかかり何も見えません。この辺にくっきり見えるという真野に対し、「いや、いいよ」と答える葉蔵。足元は断崖で、深い朝霧の奥に海水が動いて見えました。

参考文献

・野原一夫『太宰治 生涯と作品』

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