PR

ドストエフスキー『虐げられた人々』解説あらすじ

ドストエフスキー
記事内に広告が含まれています。

始めに

 ドストエフスキー『虐げられた人々』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ゴーゴリ風のロマン主義とバルザックのリアリズム

 ドストエフスキーはキャリアの初期には特に初期から中期のゴーゴリ(「」「外套」)の影響が強く、『貧しき人々』も書簡体小説で、繊細かつ端正なデザインですが、次第に後期ゴーゴリ(『死せる魂』)やバルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)のリアリズムから影響されつつ、独自のバロック的な、アンバランスなリアリズム文学のスタイルを『罪と罰』などで確立していきます。

 本作もキャリアの初期から中期の作で、『罪と罰』よりも前の作品です。

バルザックにおける不幸な結婚

 バルザック(『従妹ベット』『ゴリオ爺さん』)はシスコンで、そのために不幸な結婚をした妹たちを非常に哀れみ、そこから『従妹ベット』など、不幸な結婚、不幸な妻の表象を作品に展開しました。

 ドストエフスキーも『やさしい女』などでそうした表象を継承するほか、本作でも悪いワルコフスキー公爵の結婚で不幸になる妻や娘(ネリー)が描かれるほか、公爵の息子で幼稚なアリョーシャという恋人に振り回されるナターシャが描かれます。

ディケンズ『骨董屋』とシェイクスピア

 本作はディケンズ『骨董屋』を下敷きに書かれていることが知られ、これが大江健三郎『キルプの軍団』の背景にもなっています。ディケンズとドストエフスキーは作風はそう被らないですが、ふたりともバルザックからの影響が大きいです。

 『骨董屋』は本作のネリーのモデルになったネルというヒロインが主人公で、これがキルプという悪辣な高利貸しに追い詰められて、死んでしまいます。本作の悪役であるワルコフスキーはキルプと違って、目的のために手段を選ばないだけで他人を落とし入れること自体を楽しむというほどでもないですが、とはいえネリーやナターシャといったヒロインを虐げる点では共通です。

 本作はディケンズの影響が強いために、主人公が『地下室の手記』『罪と罰』のような神経質な青年ではなく、まるで泣けるタイプのエロゲーの主人公みたいな好青年です。

 とはいえ、キャラクターは個性豊かで、様々なアクターの選好と信念、行動の集積のなかで作品が展開される内容は『罪と罰』以降の作風を思わせ、またディケンズ『荒涼館』とも重なります。またディケンズが愛したシェイクスピアにも重なります。

タイトルの意味

 『虐げられた人々』というタイトルは、ネリー(ワルコフスキーの私生児)とナターシャ(ワルコフスキーの息子アリョーシャの恋人)を示しています。二人は、ワルコフスキー伯爵が社交界で成功していくために、策謀をめぐらせる中で転落し、不幸になっていきます

 ワルコフスキーは資金のためにネリーの母である資産家の一家を騙して破滅させ、政略結婚のためにアリョーシャとナターシャを破局させようと図ります。

 

物語世界

あらすじ

第1部

 イワンは喫茶店で謎の老人と知り合い、老人は最期に「ワシリエフスキー島、6丁目・・」と言い残します。死んだ老人の名はエレミア・スミスで、すぐ近くのアパートの5階にすんでいました。イワンは、その部屋を借ります。

 イワンは幼少期に両親を失い、ニコライ・セルゲーイッチ・イフメーネフという地主の家に引き取られ、その家の3歳年下のナターリア・ニコラーエヴナ(ナターシャ)という娘と育てられ、17歳の時に大学進学の為にペテルブルクへ移っていました。養父のニコライ・セルゲーイッチは小地主だったものの、ギャンブルで農奴の大半を失って村の経営もやめていました。その後、ピョートル・アレクサンドロヴィチ・ワルコフスキーという隣村の若い公爵から村の管理を依頼され、そこで成功します。

 あるとき公爵がイフメーネフ家を訪ねると、公爵の息子アリョーシャはこの家に長く居たいと言って公爵を驚かせます。その後公爵の態度が変化し、イフメーネフ家と不仲になり、村ではナターシャがアリョーシャを誘惑しているという噂が飛び交います。いよいよ両者の関係が悪化し、イメーネフ家はペテルブルクに移ります。

 イワンは4年振りにナターシャとも再開します。その頃、彼の小説も出版され、作家として認められつつありました。そこでイワンとナターシャは互いに結婚を意識するまでになります。しかし、アリョーシャが隠れて再びイフメーネフ家に出入りするようになり、その事がワルコフスキー公爵に知られ、公爵はイフメーネフ家への中傷工作を繰り返し、息子の出入りを禁止しました。ここでナターシャは、家を出てアリョーシャのところへ行くといいます。ナターシャはこうしてアリョーシャと共に駆け落ちします。

 しかし父親のワルコフスキー公爵は息子アリョーシャに莫大な資産を持つ令嬢との縁談を進めます。アリョーシャは父親の提案もむげできず、縁談相手との間で揺れます。

第2部

 ワルコフスキー公爵はイワンたちを訪ね、縁談相手のカーチャが伯爵夫人の家で、自分はアリョーシャの妻になることはできない、修道院に入るという事実を伝えます。それからナターシャに向かって、アリョーシャと一緒になるようにいいます。ナターシャとイワンは、公爵の話に違和感を持ちます。

 翌朝、イフメーネフ家へ行こうと家を出ると、昨日も現れた謎の少女(ネリー)と遭遇します。少女は、ここで祖父に読書を教わったこと、名前はエレーナ(愛称ネリー)であることを話します。イワンは彼女を馬車で送りますが、降りたら絶対に後を付けないよういいます。けれどもイワンはそれに背きます。

 彼女は、「町人ブブノワの家」という看板の建物に入ります。そこの2階から女主人らしい人物の怒鳴り声が聞こえ、少女が虐待されていました。イワンは思わず飛び出して、女主人の腕をつかみます。その瞬間、エレーナは癲癇になります。しかたなくイワンは引き下がり、帰るときに葬儀屋で、少女が虐待を受けている理由を尋ねます。少女はこの建物の地下室に外国から来た母と二人で暮らしていたものの、母は死に、そのあと女主人が養女にしたそうです。

 建物から出ると中学時代の友人マエスボーエフに遭遇、飲み屋に誘われます。マエスボーエフは、探偵屋らしく、イワンはスミスと孫娘のことを相談します。彼はブブノワについて知っているようで、またワルコフスキー公爵からの依頼である事件も扱っているそうです。マエスボーエフは、今夜7時に家に来るよういいます。

 夜7時にマエスボーエフの家を訪ねると、彼は、アレクサンドラ・セミョーノヴナという女性と同棲していました。一緒にマダム・ブブノワの店に行く途中、マエスボーエフは、女主人が孤児を引きとったのはいかがわしい目的に違いないから、手を打っておいたといいます。マダム・ブブノワの店で、イワンはエレーナを引き取り、保護するのに成功します。

 次の日、エレーナをイフメーネフ夫妻に預けるつもりだと話すと、マエスボーエフはイフメーネフ夫妻のことも、ナターシャのことも知っているそうです。

 帰ると、ニコライ・セルゲーイッチが、部屋にいます。エレーナのことを伝えますが、それとは別に彼は、娘のために公爵に決闘を申し込むから介添人になってもらいたい、といいます。イワンは決闘の申し出はと少しの間待ってもらいたいと頼みます。

 翌日、エレーナは、自分をネリーと呼んでほしい、と言います。母がそう呼んでいたらしいのです。ママが家出をして、外国に行って、その間に自分が生まれて、ママは駆け落ちした男に捨てられこの街に戻ったそうです。エリーはママと乞食をして、お祖父さんがママのところへ駆けつけた時には、ママは死んでいました。6週間前のことです。ママが死んで、お祖父さんは呆け、ネリーは乞食をしていたそうでした。

第3部

 訪ねてきた公爵に、ナターシャはその思惑を看破していると糾弾します。公爵は、アリョーシャが縁談相手を好きになれば二人を引き裂けると考えた、結婚を許し時間稼ぎをして、アリョーシャの恋愛に望みを掛けた、アリョーシャは思惑通り、結婚が決まった自分のことはしばらく放っておいて、縁談相手と会い、彼女に惹かれた、こうなれば最後は自分に汚名を着せて陥れればいい、というわけだと。

 マエスボーエフも、同様に公爵には気をつけろ、とイワン言います。公爵はかつて、ある工場経営者を騙して金を巻き上げようとしたものの、相手は証文を持っていたので、公爵はその経営者の娘を誘惑して、結婚の誓約書を書いてそそのかし、父親の証文を持って家を出させました。そして娘を連れてパリに出ると、娘は用なしで、その頃パリに来ていた彼女の昔の恋人をわざと家に招き入れ、不倫の現場を見つけたと言いがかりをつけて二人を追い出したのでした。そのあとで彼女は子どもを産み、公爵は、ロンドンに逃げました。公爵は、万事うまく行ったと思ったものの、結婚の誓約書だけが問題でした。

第4部

 医者からは、ネリーには心臓に機能障害があるから近いうちに死ぬだろう、と言われてます。ネリーが寝込んでいる間、マエスボーエフの妻であるアレクサンドラ・セミョーノヴナがしばしば看病に来てくれていました。ネリーは彼女のことが気に入り、親しくなります。

 あるとき家に帰るとネリーはいなくて置き手紙がありました。もう二度と帰らない、でもあなたを愛しています、あなたに忠実なネリー、とあって、イワンは家を飛び出していき、なんとか連れ戻します。イワンはネリーからの恋心に気がついていきます。

 ナターシャは、アリョーシャへの母のような気持ちからで、彼を本当に幸せにしてあげたいという思いは誰よりも強かったけど、それは彼が性格的にも知性の面でも弱くてなんとかしてあげなくちゃ、と思っていたからだ、と言った。それからカーチャなら彼を幸せにできる、二人の幸せを願う、と言います。

 またイワンたちはネリーの身の上話を聞きます。お祖父さんはお金持ちだったものの、ママが外国に一緒に行った人がお祖父さんのお金を全部とってしまい、ママが病気で外国から戻って来ても、お祖父お祖父さんは赦さなかったそうです。死ぬ1週間前に、ママがもう一度お祖父さんのところに行ってママを赦して欲しいと頼んでみて、というから、死ぬ前にお祖父さんを訪ねたものの、お祖父さんが家に着いたときにはママはもう死んでいたそうです。

エピローグ


 アリョーシャから来た手紙はイナターシャへ永遠の別れを告げる手紙でした。アリョーシャは、ナターシャに詫び、自分は罪人だと言います。手紙には、カーチャからの手紙も同封されています。彼女は、アリョーシャの側について彼を幸せにすると言います。

 イワンは、マエスボーエフから、ネリーは公爵の実の娘と知らされます。公爵は13年前にネリーの母親をパリで捨ててから彼女の動静に目を光らせてきた、その調査を頼んできていました。公爵はこの前死んだあのスミスの娘と正式に結婚していて、ネリーはその二人の間に産まれた娘で、しかもネリーは自分が公爵の嫡出の娘と知っているそうです。ネリーの母は、ワリコフスキーに頼ることを、どうしても拒んでいたのでした。マエスボーエフは、いつか公爵に一泡食わせたいそうです。

 やがてネリーは寝室から出られなくなり、死にます。その2週間の間、イワンと二人きりの時、ネリーは、私が死んだらナターシャと結婚して、と言います。亡くなる3日前、イワンと二人だけにさせ、形見に胸に掛けていたお守り袋を渡す意思を伝えます。これはママが死ぬときに残してくれたもので、その中に手紙が入っているそうです。それを読んだらあの人に、私があの人を赦さなかったことを伝えて欲しい、と言います。

 ネリーが亡くなった日、イワンはお守り袋を開け、中の手紙を読みます。それには、公爵への呪いの言葉があり、自分は絶対に貴方を赦さない、しかしネリーにはなにかしてあげて欲しい、私が死んだらこの手紙を渡すようにと娘には言いつけてある、と書いてありました。結局、ネリーも母と同じく、ワルコフスキーの世話になることは拒んでいたのでした。

 ネリーの葬式が終わって、イワンとナターシャは庭へ出ます。イフメーネフ家の旅立ちは1週間後に迫ります。ナターシャとイワンは、一緒になる可能性が示され、希望となります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました