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バルザック『ファチノ・カーネ』解説あらすじ

バルザック
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始めに

 バルザック『ファチノ・カーネ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義、リアリズム

 バルザックはロマン主義を代表する作家で、モリエールやスコットのリアリズムやロマン主義からの影響が顕著です。

 本作などが代表ですが、フランス革命以降の社会の自由主義、封建主義の崩壊、社会のブルジョワジー中心化などを背景に、ブルジョワ化した社会における自己実現をテーマとする内容の作品を多く手掛けました。

 ロマン主義文学の要諦は一個の個人の主体的な自己実現にあると解釈できますが、バルザックは往々にして、個人の現実社会へのコミットメントを徹底的にリアリスティックに描写していきました。

栄光と破滅

​ 冒頭で語り手が語る、他者の生活に潜り込む能力が大きなテーマです。​他人の服装や仕草からその人生を空想し、自分をその人物と同化させる力は芸術家の持つ直感や観察眼の凄まじさを描くと同時に、一歩間違えれば狂気や妄想に繋がる危うさを示唆しています。


​ ​盲目のクラリネット奏者ファチノ=カーネは、かつてヴェネツィアの貴族であり、壁の向こうにある金塊を嗅ぎ分けるという特殊な能力を持っていたと主張します。​目が見えない彼が、誰よりも金の輝きに執着し、それを見通せると信じている皮肉です。


 ​バルザック作品に共通するテーマですが、金は人間を突き動かす巨大なエネルギーであると同時に、精神を蝕む毒としても描かれています。かつてのヴェネツィアの貴族が、現代のパリの場末で物乞い同然の楽師として生きているという対比が描かれます。​ファチノが語るヴェネツィアの黄金時代は、もはや戻ることのない失われた夢であり、ロマン主義的な哀愁が漂っています。

物語世界

あらすじ

 物語は、若き日の作家が、パリの屋根裏部屋で極貧生活を送っていた頃を回想するところから始まります。彼は他人の人生を自分のものとして感じるという奇妙な観察能力を持っていました。道ゆく労働者や老人の後をつけ、彼らの感情や生活を妄想し、その人物になりきってしまうのです。


​ ​ある日、語り手は自分の下男が挙げる質素な結婚披露宴に招かれます。そこには、三人の盲目の楽師が呼ばれていました。その中の一人、クラリネットを吹く老人の姿に、語り手は釘付けになります。その男こそが、ファチノ=カーネでした。彼は没落した貴族のような、並外れた威厳を漂わせていたのです。


​ ​宴もたけなわの頃、ファチノは語り手に自分の驚くべき過去を語り始めます。彼はかつてヴェネツィアの貴族であり、恋に狂って罪を犯し、地下牢に投獄されました。 脱獄のために壁を掘っていたとき、彼は総督府の秘密の宝物庫に突き当たり、そこには山のような金塊と宝石が眠っていたのでした。その時以来、彼は壁の向こうにある黄金の匂いを嗅ぎ分ける能力を手に入れたといいます。


​ ​ファチノは現在、盲目となり落ちぶれていますが、その執念は衰えていません。一緒にヴェネツィアへ行こう、あの宝物庫の場所は私だけが知っている、山分けにしよう、と語り手を熱心に誘います。


 ​しかし、その狂気じみた情熱も虚しく、彼はその直後に亡くなってしまいます。彼が語った黄金の話が、盲目の老人が見た幻覚や妄想だったのか、それとも埋もれた真実だったのかは、謎のまま物語は幕を閉じます。

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