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バルザック『サキュバス』解説あらすじ

バルザック
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始めに

 バルザック『サキュバス』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロマン主義、リアリズム

 バルザックはロマン主義を代表する作家で、モリエールやスコットのリアリズムやロマン主義からの影響が顕著です。

 本作などが代表ですが、フランス革命以降の社会の自由主義、封建主義の崩壊、社会のブルジョワジー中心化などを背景に、ブルジョワ化した社会における自己実現をテーマとする内容の作品を多く手掛けました。

 ロマン主義文学の要諦は一個の個人の主体的な自己実現にあると解釈できますが、バルザックは往々にして、個人の現実社会へのコミットメントを徹底的にリアリスティックに描写していきました。

タイトルの意味

​ 物語は、13世紀のトゥールを舞台に、絶世の美女ズルマがサキュバスとして裁判にかけられる過程を描きます。彼女の美しさがあまりに完璧であるため、男たちは理性を失い、身を滅ぼします。当時の教会や社会は、その抗えない魅力を人間的なものではなく、悪魔の力として定義しようとしました。ここでは肉体の魅力が人を破滅させる罠として描かれています。


​ ​この作品のテーマは、ズルマを裁く側の心理にあります。彼女を魔女として糾弾する司教や裁判官たちは、実は誰よりも彼女の美しさに欲望をかき立てられています。自分たちの内なる情欲を正当化するために、彼女を悪魔に仕立て上げて排除しようとする、人間の醜い自己防衛本能が描かれています。迷信が支配する中世において、論理的な反論が悪魔の誘惑として片付けられていく集団パニックの様子が、バルザックらしい観察眼で皮肉たっぷりに書かれています。

物語世界

あらすじ

​ ​物語は、トゥールの街にズルマという名の、信じられないほど美しいアラビア人の女が現れるところから始まります。彼女はムーア人の商人の家に身を寄せていましたが、その美しさは一瞬で街中の男たちを虜にしてしまいました。


 ​彼女に一目会った男たちは、仕事も家族も忘れ、彼女の家の周りをうろつくようになります。この異常な事態に、街の人々は疑念を抱き始めます。あんなに美しいのは、人間ではないのではないか、と。


​ ​ある日、若くて将来を嘱望されていた副助祭のイエロームが、ズルマの魅力に抗えず、彼女の部屋に忍び込みます。


 ​翌朝、彼は変わり果てた姿で発見されます。心身ともにボロボロになり、恍惚と恐怖が混ざり合った状態で、彼はこう訴えました。彼女は女ではない、私の魂と精気を吸い取るサキュバスだ、と。この証言が決定打となり、ズルマは悪魔と通じて男たちをたぶらかした魔女として、教会の裁判にかけられることになります。


​ 彼女は法廷で、自分はただ一人の男を愛しただけの女であり、男たちが勝手に自分に溺れたのだと、理路整然と、かつ気高く主張します。彼女を裁く司教や判事たちは、表向きは正義を振りかざしますが、目の前のズルマのあまりの美しさに、心の中では激しい欲望に悶えています。彼らは、自分たちが彼女に欲情してしまうのは彼女が悪魔だからだと思い込むことで、自分たちの信仰心とプライドを守ろうとします。

 ​結局、ズルマの理知的な反論は悪魔の誘惑として切り捨てられます。街全体が彼女を殺さなければ、俺たちの魂が危ないという集団パニックに陥り、彼女には火刑の判決が下されます。


 ​ズルマは火あぶりの刑に処されますが、彼女が息絶える瞬間、空には不吉な影が差し、街には言いようのない後味の悪さが残ります。男たちは彼女を抹殺することで救われようとしましたが、結局、自分たちの内なる欲望という悪魔からは逃れられなかったのでした。

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