始めに
トマス=マロリー『アーサー王の死』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
マロリーの作家性
フランス語散文サイクルはマロリーにとって最も重要な情報源です。13世紀に書かれたこれらの膨大な物語群を、マロリーは英語に翻訳しつつ、冗長な部分を削ぎ落としてまとめ上げました。ウルガータ=サイクル(大散文アーサー王物語)は聖杯探索やランスロットとギネヴィアの不義の恋など、物語の宗教的騎士道的な骨格を提供しました。ポスト=ウルガータ=サイクルはウルガータを改訂したもので、アーサー王の死や円卓の崩壊といった悲劇的な結末に強い影響を与えています。
12世紀フランスの詩人であるクレティアン=デ=トロアは、アーサー王伝説にランスロットや聖杯、そして宮廷愛の概念を導入した人物です。
マロリーはクレティアンの詩を直接読んだというよりは、それをもとに発展した散文作品を通じて、騎士道の精神やキャラクター設定を吸収しました。
フランス語の文献だけでなく、マロリー以前の英語の詩からも強い影響を受けています。オールリテラティヴ(頭韻詩)『アーサー王の死』 (Alliterative Morte Arthure)はアーサー王のローマ遠征を中心に描いた叙事詩で、マロリーはこれを第2巻(ローマ皇帝公会との戦い)のベースにしました。スタンザ形式(連詩)『アーサー王の死』 (Stanzaic Le Morte Arthur)は、物語の終盤、ランスロットとギネヴィアの不倫が露見し、王国が崩壊していく過程を描く際に参考にされました。モンマスのジェフリーは12世紀に『ブリタニア列王史』を書いた歴史家です。彼がアーサー王をイギリスの偉大な征服王として描いたことが、すべてのアーサー王伝説の出発点となりました。
円卓の騎士。三角関係
マロリーは作品の序盤で、円卓の騎士たちが守るべきペンテコストの誓いを提示します。弱者を助け、女性を敬い、不当な戦いを避け、王に忠誠を誓うこと。しかし騎士たちは個人的な情熱、復讐心、そして愛によって、この誓いを守りきれなくなります。物語は、高潔な理想を掲げた組織が、人間臭い弱さによって内側から腐敗していく過程を描いています。
もっとも有名なテーマの一つが、アーサー王、ランスロット、ギネヴィア王妃の三角関係です。ランスロットはアーサーを心から愛し、最高の騎士として仕えています。同時にランスロットはギネヴィアを愛しており、これが王への裏切りとなります。この王への忠誠と恋人への愛が両立できないという矛盾が、円卓の崩壊を決定づける火種となります。マロリーはランスロットを単なる悪人としてではなく、二つの正義の間で引き裂かれる苦悩の人物として描きました。
騎士道の現実。騎士道の終わり
物語の中盤に登場する聖杯探索は、騎士たちの価値観を揺さぶる大きな転換点です。武勇に優れた騎士であるランスロットなどであっても、魂に汚れがあれば聖杯には届きません。完璧な騎士ガラハッドが聖杯を手にして昇天する一方で、残された騎士たちは自分たちの世俗的な限界を突きつけられます。これにより、円卓の騎士たちの武力による平和という自信が揺らぎ始めます。
中世ヨーロッパの重要な思想である運命の輪が、作品全体を支配しています。どんなに栄華を極めた王も、運命の輪が回れば必ず没落する。アーサー王は夢の中で、自分が黄金の椅子に座り、その下の暗い淵へと車輪が回転していく様子を見ます。物語の結末は、個人の死だけでなくアーサー王の時代そのものの終わりを告げています。
物語世界
あらすじ
イングランド王ウーサー=ペンドラゴンは、魔術師マーリンの助けを借りてイグレインと結ばれ、アーサーが生まれます。アーサーは出自を知らずに育ちますが、引き抜いた者が真の王となるという石に突き刺さった剣を引き抜き、イングランドの王として即位します。
彼は反乱を鎮圧し、湖の乙女から聖剣エクスカリバーを授かり、名実ともに偉大な王へと成長します。
アーサーはギネヴィアを王妃に迎え、結婚の祝いとして円卓を譲り受けます。ここから、ランスロット、ガウェイン、トリスタンといった名だたる騎士たちが集い、各地で巨人を退治し、弱者を助ける冒険が繰り広げられます。この時期は騎士道の理想がもっとも輝いていた、キャメロットの黄金時代です。
ある日、円卓に聖杯(キリストの血を受けた杯)が現れ、騎士たちはその行方を探す旅に出ます。ガラハッド(ランスロットの息子)のような清廉潔白な騎士は聖杯に到達しますが、俗世の汚れを知る多くの騎士たちは失敗に終わります。この探索により、多くの有能な騎士が命を落とし、円卓の一体感に精神的な亀裂が入り始めます。
最強の騎士ランスロットとギネヴィア王妃の許されぬ恋が、ついに露見します。アーサー王の不義の息子であるモルドレッドたちの計略により、二人の関係が白日の下にさらされます。アーサーは法に従ってギネヴィアを処刑しようとしますが、ランスロットが彼女を救出。その際の乱闘でランスロットはガウェインの兄弟たちを殺してしまい、円卓は王派とランスロット派に真っ二つに分かれて内乱に突入します。
アーサー王がランスロットを追ってフランスへ遠征している隙に、留守を任されていたモルドレッドが反逆し、王位を奪います。帰国したアーサー王とモルドレッドは、カムランの丘で最終決戦を迎えます。凄惨な戦いの末、円卓の騎士はほぼ全滅。アーサーはモルドレッドを討ち果たしますが、自身も致命傷を負います。
最後、アーサーはベディヴィア卿にエクスカリバーを湖に返還させ、三人の王妃が乗った小舟で伝説の島アヴァロンへと去っていきました。
ギネヴィアは修道女となり、ランスロットは隠遁して司祭となります。二人は二度と結ばれることなく、静かにこの世を去りました。物語は、かつての栄華を懐かしむような深い喪失感とともに幕を閉じます。




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