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フォード=マドックス=フォード『よき兵士』解説あらすじ

フォード=マドックス=フォード
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始めに

 フォード=マドックス=フォード『よき兵士』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

フォードの作家性

​ フォードは、ラファエル前派の画家フォード=マドックス=ブラウンを祖父に持ち、幼い頃から芸術家たちに囲まれて育ちました。ダンテ=ゲイブリエル=ロセッティやクリスティーナ=ロセッティ゙らの耽美的な美意識や、細部に対する徹底したこだわりは、フォードの初期の感性に深く根を下ろしています。


​ ​フォードが最も熱心に学んだのは、イギリス文学よりもむしろフランス文学でした。フローベールは客観的な叙述と、作者の主観を排除した文体の構築において、フォードが師と仰いだ存在です。短編の名手であるモーパッサンからは、物語の構成力や、読者に鮮烈な印象を与える手法を学びました。


​ ​フォードのキャリアにおいて、コンラッドとの協力関係がありました。1898年から約10年間、二人は共同で執筆活動を行い、小説の技法を研鑽し合いました。二人は人生は記録された歴史ではなく、断片的な印象の積み重ねであると考え、時系列を入れ替えるタイム・シフトなどの技法を確立しました。


​ ​フォードはヘンリー=ジェイムズを当代最高の巨匠として尊敬していました。フォードはロシア文学の中でも特にツルゲーネフを高く評価していました。ツルゲーネフの持つ静謐で抑制されたトーンや、登場人物を裁くことなく提示する態度は、フォードの人間描写に影響を与えました。

信頼できない語り

 ​物語の中心となるのは、アメリカ人のダウエル夫妻とイギリス人のアシュバナム夫妻という、非の打ち所のない完璧な4人組です。高潔な紳士、献身的な妻、教養ある会話、穏やかな休暇。しかし実態は9年間にわたる裏切り、不倫、金銭的搾取、そして憎悪が背後にあります。フォードは、エドワード朝時代のイギリス社会が重んじたマナーや形式がいかに虚飾に満ちたものであり、その裏側に人間臭い感情が隠されているかを描き出しました。

 ​この作品のテーマは、語り手ジョン=ダウエルの無知と主観性にあります。​ダウエルは自分の妻と友人が不倫していたことに9年間も気づきませんでした。​彼は読者に対して、記憶が混乱したまま、断片的に事件を語ります。 真実は一つではなく、語る者の記憶や都合によって歪められるものであるというモダニズム的な心理描写が、この作品の核心です。

よき兵士

 「よき兵士」と呼ばれるエドワード=アシュバナムは、騎士道精神を持つ魅力的な紳士ですが、同時に抑えきれない情熱によって自他を破滅させます。社会的規範を守ろうとする意志と、それに抗えない本能の衝突。登場人物たちは愛を求めますが、それは常に誰かを傷つけ、最終的には自殺や発狂という悲劇的な結末を招きます。

​ この小説は第一次世界大戦が勃発した1914年を舞台設定の鍵としています。アシュバナムが象徴する封建的で高潔な英国紳士という理想像が、近代の複雑な人間関係や欺瞞の中で崩れ去っていく様子は、ヨーロッパの旧秩序が崩壊していく過程のメタファーでもあります。

物語世界

あらすじ

 ​語り手のジョン=ダウエルが、過去9年間に起きた出来事を思い出しながら、読者に語りかけるスタイルで進みます。


​ ​物語は1904年、ドイツの温泉保養地バート=ナウハイムで始まります。アメリカ人のダウエル夫妻(ジョンとフローレンス)と、イギリス貴族のアシュバナム夫妻(エドワードとレオノーラ)は意気投合し、以来9年間にわたって、毎年夏を共に過ごす親密な仲になります。 4人は教養があり、マナーを重んじる文明化された人々の象徴でした。


​ ジョンの妻フローレンスと、エドワードの二人は心臓が悪いという理由で、激しい運動や感情の起伏を避ける生活を送っていました。ジョンは献身的に妻を看病していました。


​ ​しかし、実はこれらすべてが偽装でした。ジョンの妻フローレンスと、親友のエドワードは、出会った当初から9年間にわたって不倫関係にありました。エドワードの妻レオノーラは、夫の浮気に気づいていました。しかし、カトリック教徒である彼女は離婚を許さず、家計と夫の体面を守るために、不倫の隠蔽工作に奔走していたのです。語り手のジョンだけが、何も知らずに僕たちはなんて幸せな4人組なんだと信じ込んでいました。


​ ​均衡が崩れたのは、フローレンスがエドワードの新たな恋に嫉妬し、絶望したことがきっかけでした。 彼女は毒を飲み、自ら命を絶ちます。ジョンはこれさえも心臓発作だと思い込まされていました。


​ アシュバナム夫妻が引き取った若く美しい養女ナンシーに、エドワードが本気で恋をしてしまいます。レオノーラは嫉妬と怒りから、ナンシーに夫の不道徳な過去をすべてぶちまけます。純潔なナンシーは精神を病んでしまいます。


​ ​追い詰められた「よき兵士」エドワード=アシュバナムは、ペンナイフで喉を切って自殺します。​レオノーラはさっさと再婚し、平凡で幸せな、しかし退屈な家庭を築きます。​ナンシーは発狂し、「シャトルコック(羽根つきの羽根)」という言葉を繰り返すだけの存在になります。


 ​ジョンはすべてを失い、今は狂ってしまったナンシーの世話をしながら自分は何を知っていたというのかと自問自答し、孤独に物語を綴ります。

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