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W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』解説あらすじ

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始めに

 W・G・ゼーバルト『アウステルリッツ』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ゼーバルドの作家性

 トーマス=ベルンハルトの執拗な反復、句読点を極力排した長い一文、そして社会や歴史への辛辣な批評精神を受け継ぎました。ゼーバルドはヴァルザーを愛しており、エッセイ『歩行のロゴス』も執筆しています。またアダルベルト=シュティフターの自然描写の精密さと、その背後に潜む静かな恐怖や不穏な空気感の表現において、ゼーバルドは彼を高く評価していました。


​ ゼーバルドの作品(特に『サトゥルヌスの環』)は、ベンヤミンの歴史の天使の概念、つまり「積み重なる廃墟として歴史を見る視点に貫かれています。カフカの官僚的な不条理や、どこにも辿り着けない所在なさ、そしてユダヤ的なディアスポラの感覚は、ゼーバルドの底流に常に流れています。


​ ボルヘスやナボコフの形式主義的実験の影響も見て取れます。ゼーバルドの特徴である本文中にキャプションなしで挿入される古い写真という手法は、人類学的な視点や、シュルレアリスムの影響も指摘されます。

一人称的な歴史記述。時間論

​ 主人公ジャック=アウステルリッツは、自分が何者であるかを知らずに育ちました。彼は自身の過去に対して説明のつかない恐怖を感じ、無意識にそれを回避して生きてきました。抑圧された記憶が突然溢れ出すプロセスと、記憶を失うことが自己をいかに不安定にするかを描いています。

 ​アウステルリッツは建築史家であり、巨大な要塞、鉄道駅、裁判所、図書館などについて語り続けます。巨大な建造物は、しばしば人間を威圧し、管理しようとする権力の象徴として描かれます。ゼーバルドは、建築の細部を記述することで、そこに刻まれた非人間的な歴史や、合理主義が招いた悲劇を浮き彫りにします。

 ​この作品において時間は、カレンダー通りの直線的なものではありません。アウステルリッツは時間は存在しないのではないかという仮説を立てます。過去に苦しむ人々は今もどこかで生き続けており、私たちはふとした瞬間に彼らと出会うことができる、という感覚です。文中に句読点が少なく、回想が何重にも重なる入れ子構造の文章が、時間の境界を曖昧にする効果を生んでいます。

 ​ゼーバルドは、ガス室や虐殺の凄惨な場面を直接描くことを避けます。彼は、残された写真、廃墟、古い新聞記事、あるいは生存者の沈黙を通じて、その背後にある巨大な惨劇を暗示します。このあえて直接書かない手法こそが、かえって読者にその喪失の巨大さを痛感させます。

 ​アウステルリッツは、どこにいても自分はここに属していないという感覚を抱えています。故郷を奪われ、言語を奪われ、名前さえ変えられた人間にとって、世界は居心地の悪い場所となります。これはユダヤ人の歴史であると同時に、近代を生きる人間共通の孤独としても描かれています。

物語世界

あらすじ

 ​物語は、匿名の語り手が、主人公のジャック=アウステルリッツと出会うところから始まります。1960年代、​語り手は、ベルギーのアントウェルペン中央駅の待合室で、古い建築についてノートをとる不思議な男、アウステルリッツと出会います。二人は意気投合し、その後もヨーロッパ各地で再会を繰り返しますが、アウステルリッツは自分の私生活については一切語らず、常に巨大な建築物の歴史という知的で抽象的な話に没頭していました。

 ​その後、二人は20年ほど音信不通になります。1990年代、ロンドンのリバプールストリート駅で再会したアウステルリッツは、語り手に自身の驚くべき変化を告白します。


 ​彼は長年、自分の過去を完全に封印して生きてきましたが、ある時、その抑圧が限界を迎え、精神的な危機に陥ります。そして、偶然耳にしたラジオや古い駅の光景が引き金となり、自分はイギリス人ではなく、ナチスから逃れるために幼少期にチェコから送られてきたユダヤ人の子供だったことを思い出したのです。


​ ​アウステルリッツは、自分の本名と出自を求めてプラハへ向かいます。そこで彼は、かつての隣人であった女性ヴェラに出会い、自分の幼少期と両親について聞かされます。​母アガータは歌手だったが、テレージエンシュタット(強制収容所)へ送られていました。​父マクシミリアンはパリへ逃れたものの、その後消息を絶ったのでした。


 ​彼は母が最期に過ごしたはずの収容所を訪れ、膨大な資料や映像の中から、母の影を探し求めます。しかし、そこにあるのは冷酷な官僚制度の記録と、実体のない亡霊のような記憶ばかりでした。


​ ​物語の終盤、アウステルリッツは父の足跡を追ってパリへと向かいます。しかし、彼がどれほど調べても、過去の真相は霧の中に消えていくようです。


 ​彼は語り手に自分の物語を託し、再びどこかへと旅立っていきます。語り手は、彼から渡されたリュックサックや写真の数々を抱え、歴史の重みに思いを馳せるところで物語は幕を閉じます。

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