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モリエール『人間嫌い』解説あらすじ

モリエール
Nicolas Mignard (1606-1668). Molière (1622-1673) dans le rôle de César de la "Mort de Pompée", tragédie de Corneille. Paris, musée Carnavalet.
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始めに

 モリエール『人間嫌い』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造 

モリエールの作家性

 モリエールに最も直接的な影響を与えたのは、当時パリで活動していたイタリアの劇団です。​ティベリオ=フィオリッリから、モリエールは身体表現やコミカルな動きを学びました。

​ また​古典主義の時代だったため、ギリシャ・ローマの古典は必須の教養でした。モリエール『守銭奴』は、プラウトゥスの『黄金の壺』を直接のモデルにしています。​テレンティウスの洗練された会話やプロットの構成も、モリエールの性格喜劇の基盤となりました。

​ ​当時のフランス演劇界では、スペインの劇作法が流行していました。稀代の女たらしを描いた『ドン・ジュアン』の元ネタは、ティルソ・デ・モリーナ『セビリアの色事師と石の招客』です。また​ロペ・デ・ベガの複雑なプロットやどたばた劇からも影響があります。

​ コルネイユは悲劇で有名ですが、初期の喜劇(『嘘つき男』など)は、モリエールが風俗喜劇を確立する上での重要なヒントとなりました。加えてフランス土着の荒削りな笑いも大切にしていました。これが、知的な風刺とドタバタ劇を融合させるモリエール独自のスタイルに繋がっています。

風習批判

​ 主人公アルセストは、お世辞や嘘を徹底的に排除し、常に真実のみを語るべきだという理想を掲げています。対して、当時のパリの貴族社会は、打算や表面的な礼儀で成り立っています。アルセストの正直すぎて周囲を傷つける正義と、友人フィラントが体現する円滑な人間関係のための妥協の対立が描かれます。


​ この劇の最も皮肉なテーマは、人間を嫌い、不誠実を憎むアルセストが、誰よりも不誠実で社交界の女王であるセリメーヌを愛してしまうという点です。​彼は彼女の欠点を誰よりも理解しながら、自分の愛によって彼女を更生させられると信じています。理屈では正しさを説きながら、感情では最も非合理な行動をとってしまう人間の不完全さが描かれています。

理想と現実

 モリエールはアルセストを単なるヒーローとしては描いていません。彼の極端な潔癖さは、しばしば滑稽で喜劇的に見えます。アルセストの友人フィラントは人間の欠点を含めて受け入れるのが賢明だと説きます。​モリエールは、アルセストの極端な正義とセリメーヌの極端な不誠実の間に、どのような知恵ある生き方があるのかを観客に問いかけています。
 

 物語の結末で、アルセストは社会に絶望し砂漠へ隠棲することを決意します。これは自分の信念を曲げずに社会で生きることは可能なのかというテーマを提示しています。​彼が選んだ道は高潔な勝利なのか、それとも社会に適応できなかった敗北なのか。

物語世界

あらすじ

 ​主人公のアルセストは、徹底した正直者。世間の人間が嘘やお世辞を使い分けていることに我慢がなりません。自惚れ屋の貴族オロントが自作の詩を自慢げに披露した際、周囲が絶賛する中でアルセストだけはこの詩はゴミだと酷評します。これが原因で裁判沙汰にまで発展してしまいます。
親友のフィラントは世の中そんなものだからもう少し柔軟になれ、となだめますが、アルセストは耳を貸しません。


 ​そんな堅物のアルセストが恋をしている相手は、若き未亡人セリメーヌ。しかし彼女は、アルセストが最も嫌う噂好き、思わせぶり、八方美人を絵に描いたような女性でした。


 ​セリメーヌのサロンには、彼女を口説こうとする男たちがひっきりなしに集まります。​アルセストは彼女に自分一人だけを愛して不誠実な連中との付き合いを断て、と迫りますが、彼女はのらりくらりとかわして彼を翻弄します。


​ ​物語のクライマックス、セリメーヌが複数の男たちに送っていた全員を馬鹿にするような手紙が暴露され、男たちは彼女のもとを去っていきます。


​ 絶望的な状況の彼女に対し、アルセストは「もし私と一緒に、人里離れた砂漠へ隠棲してくれるなら、すべてを許そう」とプロポーズします。社交界の華やかさを捨てられないセリメーヌは、この提案を拒否。


 アルセストはついに人間などいない場所で一人で生きると宣言し、去っていきます。友人フィラントが、彼を連れ戻そうと追いかけるところで幕が閉じます。

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