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春樹『1Q84』解説あらすじ

村上春樹
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始めに

春樹『1Q84』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

パラレルワールドSF

本作も例によってパラレルワールドSFです。他に『世界の終りとハードボイルド=ワンダーランド』『スプートニクの恋人』などがパラレルワールドSFの代表格です。

 主人公は青豆と天吾です。幼馴染の二人が互いの消息を知ることなく長年が過ぎた1984年4月、2人は個別にそれまでの世界と微妙に異なる1Q84年の世界に入り込みます。そして12月になって20年ぶりの再会を果たし、元の1984年の世界に戻るまでが描かれます。

オウム真理教、カルト、ファシズム

 村上春樹はドストエフスキーを好んでいることが知られます。村上春樹は早稲田で起こった川口大三郎事件という新左翼のリンチ殺人事件を間近で体験したことから、ドストエフスキー『悪霊』に描かれるような、人の攻撃性や加害性につながるような環境やコミュニティに着目し続けました。それは例えば新左翼、ファシズムや、本作でも描かれるカルトでした。

 そうした関心からアレントなどの保守思想や、フロイトのタナトス概念に触れつつ、人を加害に至らしめる悪について作品の中で追求するようになりました。

青豆の加害性と心的外傷

 主人公の一人でスポーツインストラクターの青豆は、老婦人の緒方の考えに共鳴して、女性をDVで苦しめる男を暗殺する仕事を引き受けます。緒方は娘が36歳のときにエリート官僚の夫からのDVが原因で自死しており、私財を投じてDVに悩む女性の保護活動を行い、加害男性に対し隠密に報復を実施しています。

 青豆が殺人行為をするようになったのは、無二の親友を自死で失った過去が関係していました。これによって緒方にマインドコントロールされる形で、殺人に走っています。

 青豆がしていることは、かつてオウム真理教がポアと称してコミュニティに都合の悪い存在を殺していったことや、現実社会主義国家群の内外で起こった陰惨な暗殺、内ゲバと何らかわりのない不正義ですが、とはいえ青豆は正義と信じてそれを実行しています。

 青豆は私利私欲のために悪に走っているのではなく、誰かを救えなかったという(『1973年のピンボール』で描かれたような)心的外傷に由来して、悪をなしています。とはいえこれは『ダンス・ダンス・ダンス』の五反田くんや、『スプートニクの恋人』の語りてのような、フラストレーションの解消のための、代償的行動で、自分が実現できない欲求を叶えるために、他者へと加害を向けています。

リトル=ピープルとビッグ=ブラザー

 本作はオーウェル『1984』のパロディです。

 作中の全体主義国家「オセアニア」に、君臨する独裁者がビッグ=ブラザーです。

 オセアニアの住民は、テレスクリーンなどで、当局の監視下に置かれています。住民は至るところに貼られたポスターに「ビッグ=ブラザー」の姿と、その下のスローガン「偉大な兄弟があなたを見守っている」により、このことを確認させられています。

 実際には「ビッグ=ブラザー」のような独裁者ではなく、党のエリート(党内局員)による少数独裁制によりオセアニアは支配されています。しかし、国民の恐怖と尊敬を一個人に集約させることで、効率的な支配がなされています。

 本作に登場するリトル=ピープルは、もっと謎めいています。

リトル=ピープル

 本作では「ふかえり」という少女の物語を、天吾がリライトした『空気さなぎ』という小説の中に「リトル=ピープル」が出てきます。その「リトル=ピープル」は、自分の背丈を必要に応じて自由に変えられる存在です。

 『空気さなぎ』は、実はふかえりの体験談で、さきがけという宗教団体での過去を語ったものでした。そのリーダーはふかえりの父親で、リトル=ピープルの示唆を受けています。

 また「1Q84年」の世界に存在していることが示されています。

 おそらくは『羊をめぐる冒険』の羊に似た感じで、群れに埋没しながら不正義をなそうとする大衆社会の権化のような存在と思われますが、謎に包まれています。

空気さなぎ

 リトル・ピープルは未成年の女性信者と協力し、空中から糸を紡ぎ、繭状にして「空気サナギ」を作り、その中から「分身(コピー人間)」を作ります。
 教団では、元型である女性信者から作成された「分身(コピー人間)」を切り離し、その分身を巫女として従事させています。そして、教団のリーダーが巫女と性交することにより「声」を聞くという儀式を行ってます。

 どうやらこれは、春樹文学で『世界の終わりとハードボイルド=ワンダーランド』『スプートニクの恋人』などで描かれる、内面や半身を失うというモチーフになっていて、これによって指導者やシステムに、自身の魂を譲り渡す感じのようで、全体主義というテーマを象徴します。
 

物語世界

あらすじ

 2人の主人公、天吾と青豆は孤独な10歳の少年少女として惹かれ合うものの、別れ別れになります。

 スポーツインストラクターの青豆は、老婦人の緒方の考えに共鳴して、女性をDVで苦しめる男を暗殺する仕事を引き受けます。彼女は首の後ろに細い針を突き刺さし、心臓発作に酷似した状況で人間を殺害できます。青豆が殺人行為をするようになったのは、無二の親友を自死で失った過去が関係していました。しかし、1984年4月にその仕事のひとつをやり終えたあたりから、青豆は自分がそれまでの現実とは微妙に異なった世界「1Q84年」に入り込んでいると気が付きます。

 一方、予備校の講師として数学を教える天吾は、小説家を目指して新人賞のために小説を書きつづけてます。知り合った編集者の小松とも親しくなり、小松から新人賞応募作の下読みなどの仕事を与えられます。天吾は新人賞応募作のなかから、「ふかえり」という少女の書いた『空気さなぎ』を見出し、小松に推薦します。小松は天吾に『空気さなぎ』のリライトを勧め、天吾はそれを完成させます。『空気さなぎ』は新人賞を得て爆発的に売れるものの、いつしか天吾は周囲の現実の世界がそれまでとは微妙に異なって天に月が2つ浮かぶ『空気さなぎ』の虚構の世界そっくりに変貌していることを知ります。

 個別に「1Q84年の世界」に入り込んだ2人は、それぞれが同じ「さきがけ」という宗教団体に関わる事件に巻き込まれます。天吾は『空気さなぎ』で教団を告発したこと、青豆はリーダー暗殺を委ねられたことで、教団と関わります。

 リーダーは、自分を殺して天吾を教団から解放して死ぬか、天吾を見捨てるかの二者択一を迫ります。青豆は、天吾を救おうとさきがけのリーダーを暗殺し、自殺します。

 そして青豆と天吾は1Q84を脱して1984年に戻ります。

 

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