始めに
アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
リンドグリーンの作家性
リンドグレーンは『赤毛のアン』を熱狂的に愛読していました。想像力豊かでおしゃべり、そして既存の大人社会の価値観に縛られない強い少女像の原型は、アンからピッピへと引き継がれていると言えます。
北欧を代表する童話作家アンデルセンの影響は、彼女の作品の影の部分に色濃く現れています。『はるかな国のミオ』や『獅子心王の兄』に見られるような、孤独、死、喪失感といったテーマを恐れずに描く姿勢は、アンデルセンの悲劇的な童話の伝統に通じています。
キャロル『不思議の国のアリス』に見られるナンセンスや、権威を笑い飛ばす精神を継承します。『長くつ下のピッピ』における、論理を逆転させた屁理屈や、学校や警察といった公的な権威を徹底的にからかうスタイルに、キャロルの影響が見て取れます。
ノルウェーのノーベル賞作家であるハムスンは、リンドグレーンが文章の書き方において最も敬愛した作家の一人です。彼の自然描写や、人間の内面を細やかに写し取る文体に、彼女は強い感銘を受けたと語っています。
また彼女が育ったスウェーデンのスモーランド地方の農村では、読み聞かせや聖書が生活の身近にありました。民話特有の語りの口調や、聖書のリズミカルな文体は、彼女の物語の基盤となっています。
トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』のような、いたずらっ子たちが自由に駆け回る冒険心も、彼女の作品に息づいています。
ピッピの個性
ピッピは、当時のいい子の概念を根底から覆しました。学校に行かない、夜更かしをする、警察官と追いかけっこをする。これらは単なる反抗ではなく、なぜ大人の決めたルールに従わなければならないのかという根源的な問いかけです。彼女は、親や教師といった保護と管理から完全に自由な存在として描かれています。
ピッピは世界一の力持ちですが、その力を決して弱い者いじめには使いません。リンドグレーンが作品に込めた有名な言葉に、「とても強い人は、とても優しくなければならない」というものがあります。街のいじめっ子や、サーカスの力自慢、さらには泥棒たちに対しても、彼女はユーモアを持って接し、最終的には寛大に振る舞います。
ピッピは一人でごった煮荘に住んでいますが、決してかわいそうな孤児としては描かれていません。亡くなった母を「天国の天使」、行方不明の父を「黒人の王様」と信じ、孤独を豊かな想像力で埋めています。彼女の突飛な行動や嘘は、寂しさを跳ね返し、自分自身の世界を肯定するための防衛本能でもあります。
ピッピの目を通して、大人の世界の滑稽さが浮き彫りにされます。学校で教わる実用的な知識よりも、もっと大切な遊びや想像力があることを示唆しています。お茶会でのマナーや、大人のお上品な会話を、ピッピは無邪気にかき乱します。これは、社会の形式主義に対する鋭い皮肉です。
物語世界
あらすじ
ピッピと隣の女の子が引っ越してくるところから始まります。9歳の女の子ピッピ=ロングストッキングは、赤毛の三つ編みを真横に突き出し、左右色の違う長い靴下を履いて、自分より大きな靴を履いています。
お母さんは天国の天使、お父さんは南の島の王様とピッピは信じているので、彼女はニルソン氏という名前の猿と、一頭の馬と一緒に、大人なしで自由に暮らしています。
隣の家に住むお行儀の良い兄妹、トミーとアニカは、自由奔放で想像力豊かなピッピに一瞬で魅了され、親友になります。
ピッピは世界一の力持ちで、片手で馬を持ち上げ、泥棒や警察官を軽々と投げ飛ばしてしまいます。
夏休みが欲しくて一度だけ学校に行ってみるものの、算数を「プルーッティフィカショーン(汚し算)」と呼び、先生を困らせてすぐに辞めてしまいます。
町の婦人たちがかわいそうな孤児として彼女を児童養護施設に入れようとしますが、ピッピは圧倒的なパワーと屁理屈で、大人たちの親切な管理をことごとく跳ね返します。
物語は、ピッピとトミー、アニカの3人が繰り広げる、笑いに満ちたエピソードの連続です。サーカスでは乱入して世界一の力自慢を負かします。お茶会では上品なマナーを完全に無視し、ケーキを丸ごと食べて台無しにします。火事では逃げ遅れた子供たちを、独自のアイデアと身体能力で救い出し、町中のヒーローになります。
物語の終盤、行方不明だったピッピの父エフライム船長が迎えに来ます。ピッピは父と一緒に南の島へ行く準備をしますが、泣いているトミーとアニカを見て、やっぱり私はこの町に残るわと決心します。




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