始めに
セルマ・ラーゲルレーヴ『ニルスのふしぎな旅』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ラーゲルレーヴの作家性
ラーゲルレーヴが師と仰いだのが、スコットランドの歴史小説家ウォルター=スコットです。歴史的な事実と伝説、そして騎士道精神を織り交ぜて物語を構成する手法を学びました。
イギリスの思想家、歴史家であるカーライルも、彼女の文体に大きな影響を与えました。カーライルの情熱的でリズム感のある文体や、英雄を重視する史観に感銘を受けました。
デンマークの童話王アンデルセンの影響もあります。またラーゲルレーヴはディケンズのユーモアと、社会的弱者への温かい眼差しも吸収していました。
また彼女の最大のルーツは幼少期にヴェルムランド地方の自宅で聞いた口承文学です。
ニルスの成長。自然のなかで
物語の冒頭、14歳のニルスは動物をいじめ、親を困らせるわがままで共感力のない少年として描かれます。小人にされて動物と同じ目線に置かれることで、彼は初めて弱者の痛みを理解します。旅の途中でガンの群れやガチョウのモルテンを守るために命をかけるようになり、利己的な少年から高潔な魂を持つ少年へと脱皮していきます。
この作品の裏の主役は、スウェーデンの豊かな大自然です。ラーゲルレーヴは、自然を単なる背景ではなく、生き生きとした知性を持つ存在として描きました。空からの視点を用いることで、産業化が進む中で失われつつある自然の美しさや、人間と動物が本来あるべき分かち合いの姿を提示しています。
教科書としての役割通り、スウェーデン全土を北から南まで巡ります。地域の歴史、伝説、産業、風景を細かく描写することで、読者である子供たちに自分たちが住む土地がいかに多様で素晴らしいかを伝え、郷土愛を育むことを目的としていました。
物語の終盤、ニルスは元の姿に戻るための過酷な条件を突きつけられます。自分が助かるために友モルテンを犠牲にするか、それとも自分は小人のままで友を救うか。この究極の選択を通じて、真の道徳心とは何か、責任を取るとはどういうことかを問いかけています。ニルスが小さくなったのは、実は世界を大きく見るた」でした。視点が低くなったことで、それまで見えていなかった他者の命の重みが、巨大な重力を持って彼に迫ってきたのです。
物語世界
あらすじ
スウェーデン南部の農村に住む14歳の少年ニルスは、勉強嫌いで動物をいじめるのが大好きな、手の付けられない乱暴者でした。
ある日、留守番中に捕まえた小人トムテをからかったところ、魔法をかけられて自分も親指ほどの大きさにされてしまいます。小さくなったニルスは、それまでいじめていた動物たちの言葉がわかるようになりますが、逆に彼らから仕返しをされる羽目になります。
ちょうどその時、北のラップランドへ向かう渡りガンの群れが通りかかります。農場の家畜であるガチョウのモルテンが、野生のガンに触発されて飛び立とうとします。
ニルスはモルテンを止めようとして首にしがみつきますが、そのまま空へと連れ去られてしまいます。こうして、老ガンアッカをリーダーとする群れの一員として、スウェーデン全土を縦断する壮大な旅が始まりました。
旅の途中、ニルスは空から見るスウェーデンの美しい風景に感動し、各地の歴史や伝説を学んでいきます。しかし、旅は危険の連続でした。
群れを執拗に狙うキツネのスミッレとの知恵比べ。沈んだ古代都市ヴィネタや、カラスの山での事件。ニルスは持ち前の機転と、小さくなった体、そして笛などの道具を駆使して、仲間たちのピンチを何度も救います。かつてのいじめっ子は、次第にガンの群れから厚い信頼を寄せられる存在になっていきました。
厳しい冬が来る前、群れは再び南を目指し、ニルスの故郷へと戻ってきます。小人の呪いを解いて元の姿に戻るためには、ある過酷な条件をクリアしなければなりませんでした。その条件とは、ガチョウのモルテンが家に戻り母さんに殺されそうになった時、それを身を挺して止めることです。
ニルスは、自分が人間に戻ることよりも、旅を共にした無二の親友モルテンの命を守ることを選びます。その自己犠牲の心が証明された瞬間、魔法が解け、彼は立派な青年の姿で両親の前に現れるのでした。
元の大きさに戻ったニルスは、もう動物たちの言葉を理解することはできません。彼は空高く去りゆくアッカたちの群れを見送りながら、彼らへの感謝と、自然への深い愛着を胸に新しい人生を歩み始めます。




コメント