始めに
ハーパー・リー『アラバマ物語』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
リーの作家性
リーはかつて、南アラバマのジェーン=オースティンを目指しました。小さなコミュニティの複雑な人間関係、社会的な礼儀作法、そして鋭い皮肉を交えた観察眼を継承します。またリーはディケンズの作品、特に子どもの視点から社会の不条理を描く手法を高く評価していました。
カポーティは作家である前にリーの幼馴染ですが、お互いの創作活動に深く関与していました。リーはカポーティの傑作『冷血』の調査をサポートし、カポーティは『アラバマ物語』の編集過程で助言を与えたと言われています。また、『アラバマ物語』に登場する少年ディルは、カポーティがモデルです。
南部の田舎を舞台にした失われた無垢というテーマや、人種差別の問題を鋭く突く姿勢は、トウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』などの影響が色濃く見られます。
ユードラ=ウェルティやロバート=ペン=ウォーレンなど、アメリカ南部の風土や因習を描く南部ゴシックというジャンルの先達からも刺激を受けています。
タイトルの意味
物まね鳥(モッキンバード)を殺すことというタイトルの象徴的な意味が、物語の最大のテーマです。物まね鳥は、他人に害を及ぼさず、ただ美しい歌を聞かせるだけの純粋で無害な存在の象徴です。罪のない者を傷つけることの不当さを訴えています。劇中では、冤罪を着せられるトム=ロビンソンや、隠遁生活を送るブー=ラドリーがこの物まね鳥に重ねられています。
アティカス=フィンチが娘のスカウトに教える、作品全体を貫く哲学は「相手の靴を履いて歩きまわってみるまでは、その人のことは本当に理解できない」です。外見や噂で人を判断するのではなく、相手の視点から世界を見ることの重要性を説いています。これは、人種間の壁だけでなく、隣人ブーに対する子供たちの偏見を解く鍵にもなっています。
成長譚
アティカスが町全体を敵に回してまで黒人の弁護を引き受ける姿は、真の勇気とは何かを提示しています。アティカスは、物理的な力ではなく、信念を貫く精神的な強さを子供たちに背中で見せます。
物語は人種差別だけでなく、白人社会の中にある階級の偏見も描いています。メイコムという閉鎖的な町における、貧困層や家柄によるカースト制度のような差別構造を浮き彫りにしています。
スカウトとジェムという子供たちの視点から描かれることで、教育としての側面が強調されます。子供たちが大人の世界の不条理、不公平、残酷さを知る過程、つまり無垢な状態からの卒業を描いています。物語の終わりには、彼らは世界が単純な善と悪だけで構成されていないことを理解します。
物語世界
あらすじ
舞台は1930年代、人種差別の根強いアメリカ南部アラバマ州の小さな町メイコムです。主人公の少女スカウト、兄のジェム、そして友人のディルの3人は、近所の屋敷に引きこもっている謎の男ブー=ラドリーに夢中になります。
子供たちは彼を怪物のように恐れつつも、屋敷を覗き見たり、庭の木の洞に置かれた贈り物を発見したりして、彼との接触を試みます。この段階では、子供たちにとっての悪や恐怖は、迷信や想像上のものに過ぎませんでした。
弁護士である父アティカス=フィンチが、白人女性を暴行した容疑で起訴された黒人青年トム=ロビンソンの国選弁護人を引き受けたことで、物語は一変します。アティカスは、証拠からトムの無実を確信し、圧倒的な論理で彼を弁護します。しかし、町の人々の根深い人種差別により、陪審員はトムに有罪判決を下します。正義が勝つと信じていた子供たちは、大人の世界の理不尽さと残酷さに直面し、深いショックを受けます。
裁判の後、トムを陥れた白人のボブ=イウェルは、アティカスを逆恨みし、夜道でスカウトとジェムを襲撃します。
絶体絶命のピンチに現れたのは、ずっと屋敷に隠れていたブー=ラドリーでした。彼は子供たちを助けるためにボブと戦います。
スカウトは、自分たちを救ってくれたブーの手を引き、彼の家の玄関まで送り届けます。その時、彼女は父の教え通り彼の視点で町を見渡し、ブーが決して怪物ではなく、自分たちを静かに見守ってくれていた物まね鳥のような優しい存在であったことを悟ります。




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