始めに
ソーントン=ワイルダー『サン・ルイ・レイの橋』解説あらすじを書いていきます。
ワイルダーの作家性
ガートルード=スタインはワイルダーにとって最大の精神的文学的支柱の一人です。1930年代に出会って以来、二人は深い親交を結びました。スタインの人間性と人間の精神を区別する哲学は、彼の代表作『わが町』の根底に流れる普遍的な時間という概念に大きな影響を与えました。
ワイルダーはジョイスの熱烈な崇拝者であり、研究者でもありました。特に『フィネガンズ・ウェイク』に心酔しており、戯曲『危機一髪』はジョイスからの影響が見えます。ほかにもプルーストのモダニズムからの刺激があります。またジッドからの影響もあります。
ロペ=デ=ベガはスペイン黄金時代の劇作家で、ワイルダーに影響しました。ほかに人間の運命や普遍的な苦悩を扱う視点は、ソポクレスなどの古典から受け継いでいます。
運命悲劇
物語の出発点は、1714年にペルーで起きた架空の橋の崩落事故です。目撃者である修道士ジュニピアーは、亡くなった5人の人生を徹底的に調査し、彼らがその時に死ぬべき理由を証明しようとします。不幸な事故は単なる偶然の積み重ねなのか、それとも神が定めた必然の報いなのか。結局、論理や科学によって神の意図を完全に解明することはできず、人間には計り知れない領域があることが示唆されます。
橋から落ちた5人の人生を描く中で、ワイルダーはさまざまな形の愛を描き出します。娘に執着しすぎて疎まれた侯爵夫人の独占的な愛。互いに深く依存し合っていた双子の兄弟の孤独な愛。かつての愛弟子に見捨てられた修道院長の無私の愛。これらはどれも美しくも苦しいものであり、人間が持つ愛さずにはいられないという業を描いています。
この小説の最も有名な結末の部分に、最大のテーマが込められています。物語の最後で、修道院長のマリア=デル=ピラールはこう悟ります。「生者の国がある。そして死者の国がある。その間をわたす唯一の橋は、愛だ。愛だけが生き残り、愛だけが意味を持つのだ」と。
物語世界
あらすじ
18世紀のペルーで実際に起こった悲劇的な事故をめぐる物語です。全5部構成で、犠牲者たちの人生があの日、あの時に向かって収束していく様子が描かれます。
1714年7月20日、ペルーのリマとクスコを結ぶサン・ルイス・レイの橋が突如として崩落し、渡っていた5人の男女が谷底へ消えました。この事故を目撃した修道士ジュニピアーは、なぜ神はこの5人を選んで死なせたのか、彼らの死に神の計画はあったのかという疑問を抱き、犠牲者たちの生涯を6年かけて調査し始めます。
物語は、死んだ5人がどのような愛に悩み、どのような結末を求めていたのかを明らかにしていきます。
モントマヨール侯爵夫人は、自分を嫌ってスペインへ去った娘に執着し、狂気じみた愛の手紙を書き続けていました。彼女に仕える孤児の少女ペピータと共に、自分自身の利己的な愛に気づき、心を入れ替えようと決意した矢先に、橋の崩壊に遭いました。
エステバンは深い絆で結ばれた双子の兄マニュエルを病で亡くし、生きる気力を失っていました。孤独に耐えかねて自殺を考えていた彼は、船乗りのキャプテン=アルヴァラードに誘われ、新たな人生を踏み出そうと橋を渡っていました。
稀代の女優ラ=ペリチョーレを育て上げたピオ伯父さんは、かつての愛弟子から預かった病弱な息子ドン=ハイメを、立派な教育を受けさせるために連れて行く途中でした。
ジュニピアー修道士は、彼らの人生に共通点を見出そうと膨大な記録を残しますが、結局死が必然であったという科学的・神学的な証明はできませんでした。それどころか、彼の著書は異端と見なされ、彼は処刑されてしまいます。
しかし、物語の最後、残された人々は、死者たちが自分たちに向けていた深い愛を思い出し、改心や許しへと導かれます。




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