PR

アーサー・マッケン『パンの大神』解説あらすじ

アーサー・マッケン
記事内に広告が含まれています。

始めに

アーサー・マッケン『パンの大神』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

マッケンの作家性

 マッケンの影響源はトマス=ド=クインシーです。 ド=クインシーの、音楽的で華麗なスタイルをマッケンは熱心に研究しました。​またマッケンの初期の代表作『三人の詐欺師』は、スティーヴンスンの『新アラビア夜話』の構造をモデルにしていて影響が見えます。


 ​マッケンは、イギリスのワーズワースやコールリッジなどの湖畔詩人たちを深く愛していました。


 ギリシア・ローマの古典文学、そして故郷ウェールズのケルト伝承も不可欠な要素です。牧神パンのイメージや、妖精リトル・ピープルを邪悪な先住民族として捉える再解釈をします。敬虔な聖職者の息子でありながら、異教的な古い神々への関心が彼の恐怖の源泉となりました。

不可知の恐怖

 ​物語の冒頭で医師レイモンドが行う手術は、人間の視覚を制限しているヴェールを取り除き、世界の真の姿を見せるためのものでした。私たちが目にしている現実は偽りであり、その裏側には知覚しただけで精神が崩壊するような真の実在が隠されているという思想です。彼は、科学や理性では捉えきれない神秘がすぐ隣に存在することを、恐怖という形で描き出しました。


​ ​タイトルにあるパンは、一般的には羊飼いの神ですが、マッケンはこれを全宇宙を支配する、理性を超えた原初的な生命力として描きました。自然は人間に優しい存在ではなく、道徳も善悪も超越した、冷酷で圧倒的な力としてあります。

 ​作中のヘレン=ヴォーンという女性は、出会う男性たちを次々と破滅させますが、彼女が具体的に何をしたかは明言されません。言葉にできない、あるいは文字にすることさえ憚られるような究極の罪悪の詳細をあえて伏せることで、読者の想像力を刺激しました。これは、当時の社会的な禁忌を暗示しつつ、それを宇宙的な悪に昇華させる高度なテクニックでした。

進化論

 ​マッケンがこの作品を書いた当時、進化論が普及し、人間が獣から進化したという認識が広がっていました。


 物語の結末近くで、ある登場人物が人間から獣へ、そして原始の粘液へと退行していく描写は、当時のヴィクトリア朝の人々が抱いていた文明化された人間が、また野蛮な原始の状態に戻ってしまうのではないかという恐怖を象徴しています。

物語世界

あらすじ

 19世紀後半、ウェールズ。医師レイモンドは、人間の脳にあるヴェールを取り除き、世界の真の姿である牧神パンを見せるための脳手術を、教え子の少女メアリーに施します。手術を目撃した友人のクラークが見守る中、メアリーは一瞬何かを見て狂喜しますが、直後に精神が完全に崩壊し、廃人となってしまいます。


​ ​数年後、ウェールズの田舎町にヘレン=ヴォーンという謎めいた少女が現れます。彼女の周囲では、子供たちが森の中で恐ろしい存在を目撃して発狂したり、若者が謎の死を遂げたりといった奇妙な事件が相次ぎます。


 その後、彼女は忽然と姿を消し、物語の舞台はロンドンへと移ります。さらに年月が経ち、ロンドンの社交界で不可解な紳士たちの連続自殺事件が起きます。高名な貴族や資産家たちが、共通してある一人の美しい女性と関わった後に、恐怖に顔を歪ませて自ら命を絶っていることが判明します。


 かつての手術の目撃者クラークと、その友人ヴィリアーズは、この事件の背後にいるのが、名前を変えて社交界に潜むヘレン・ヴォーンであることを突き止めます。ヴィリアーズたちはヘレンを追い詰め、彼女に自ら命を絶つための縄を渡します。


 ついに自殺したヘレンの遺体は、驚くべき変貌を遂げます。彼女の体は、女から男へ、人間から獣へ、そして原始の粘液のような形なきものへと、凄まじい速度で退行を繰り返し、最後には完全に崩壊して灰のようなものに変わってしまいました。彼女は、あの実験の夜に、メアリーがパンの大神と交わって産み落とした、人間ではない何かだったのです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました