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カレル・チャペック『山椒魚戦争』解説あらすじ

カレル・チャペック
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始めに

カレル・チャペック『山椒魚戦争』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

チャペックの作家性

 チャペックはSFの父の一人であるH.G. ウェルズを非常に尊敬していました。科学技術が社会にもたらす変容や、ユートピア・ディストピア的視点はウェルズからの流れを汲んでいます。イギリスの作家G.K. チェスタトンからも強い影響を受けています。チェスタトン特有の逆説を用いた論理展開や、日常の中に潜む神秘を見出す視点が共通します。


​ ​作家ではありませんが、アメリカの哲学者ウィリアム=ジェームズの影響があり、チャペックは『プラグマティズム概説』という著書を書くほど、この思想に傾倒していました。


 ​若い頃、パリに留学していたチャペックは、当時のフランス現代詩に深く浸かっていました。アポリネールやボードレールなどの詩をチェコ語に翻訳しており、その経験が彼の文体のリズムや、象徴的な表現力を作り上げました。


​ また​アメリカの詩人ホイットマンの自由奔放な精神と、普通の人々への讃歌にも共鳴していました。

ファシズム批判

 ​執筆当時の1930年代、ヨーロッパではナチス・ドイツが台頭していました。チャペックは、山椒魚たちが生存圏を求めて領土を広げようとする姿を通して、当時の膨張主義や人種的優越感、そして全体主義の危うさを鋭く批判しました。​山椒魚たちが自分たちの文化こそが至高であると信じ込み、組織化されていく過程は、当時の独裁体制の写し鏡です。


​ 人類は山椒魚を安価で便利な労働力として搾取します。企業は山椒魚シニジケートを形成し、彼らを武器で武装させ、土木作業に従事させて目先の利益を追求しました。自分たちを滅ぼすかもしれない相手に武器を売り技術を与える愚かさですが、経済的合理性を優先するあまり、人類全体の存続を危うくする構造を批判しています。


​ ​山椒魚に対する態度は、当時の西欧諸国による植民地支配や人種差別のメタファーでもあります。​山椒魚を人間ではないものとして扱い、教育や宗教を押し付けつつ、権利は与えない、この他者を道具として扱う不遜さが、最終的にしっぺ返しを食らう原因となります。


 山椒魚たちは、実は人間が教えた言語、技術、思想、戦争のやり方を忠実に実行しているに過ぎません。つまり、山椒魚との戦争は、実のところ人間が自分たちのコピーと戦っているようなものなのです。

物語世界

あらすじ

 インドネシアの島で、船長のヴァン=トッフが、真珠を採る不思議な二足歩行する山椒魚を発見します。


 彼らは知能が高く、簡単な言葉や道具を覚えることができました。船長は彼らにナイフを与えて天敵のサメを退治させ、代わりに真珠を採らせるという協力関係を築きます。これがすべての始まりでした。


​ ​船長の死後、実業家のボンディがこの山椒魚をビジネスに利用します。山椒魚シニジケートが設立され、彼らは安価な水中労働力として世界中の海へ輸出されます。人類は彼らにダム建設や海底作業をさせ、教育を施し、さらには軍事利用のために武器まで与えました。


 ​山椒魚は爆発的に増殖し、人間社会のインフラを支える不可欠な存在になります。​増えすぎた山椒魚たちは、自分たちが住むための浅瀬が足りないことに気づきます。そこで、彼らは陸地を爆破して沈め、海岸線を増やすという計画を実行に移します。


 ​指導者チーフ・サラマンダーはラジオを通じて、「人間に恨みはないが、我々の生活圏のために大陸を沈める」と宣言します。​各国の海岸線が次々と爆破され、地震と洪水が世界を襲います。


​ ​人類は滅亡の危機に瀕しますが、それでも国同士の利害関係が一致せず、最後まで団結して山椒魚に立ち向かうことができません。


 物語の最後で作者自身が登場し、自問自答します。山椒魚たちもいずれ人間と同じ過ちを繰り返し、自滅していくのではないか、と。

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