始めに
カレル・チャペック『R.U.R.』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
チャペックの作家性
チャペックはSFの父の一人であるH.G. ウェルズを非常に尊敬していました。科学技術が社会にもたらす変容や、ユートピア・ディストピア的視点はウェルズからの流れを汲んでいます。イギリスの作家G.K. チェスタトンからも強い影響を受けています。チェスタトン特有の逆説を用いた論理展開や、日常の中に潜む神秘を見出す視点が共通します。
作家ではありませんが、アメリカの哲学者ウィリアム=ジェームズの影響があり、チャペックは『プラグマティズム概説』という著書を書くほど、この思想に傾倒していました。
若い頃、パリに留学していたチャペックは、当時のフランス現代詩に深く浸かっていました。アポリネールやボードレールなどの詩をチェコ語に翻訳しており、その経験が彼の文体のリズムや、象徴的な表現力を作り上げました。
またアメリカの詩人ホイットマンの自由奔放な精神と、普通の人々への讃歌にも共鳴していました。
大量消費社会の風刺
この物語には、二人のロッサムという科学者が登場します。老ロッサムは神を否定し、科学の力で人間を創造しようとしました。若ロッサムは効率を重視し、安価で便利な生体機械としての労働力を求めます。
科学が人間の利便性や傲慢さのために使われたとき、その創造物が人間に牙を剥くという、フランケンシュタイン的ディストピアが大きなテーマです。
チャペックがこの作品を書いた1920年代は、大量生産や大量消費が始まった時期でした。ロボットは感情や無駄な思考を排除した、完璧な労働者として設計されました。労働から解放された人間は幸福かという問いがあります。劇中の人間たちはロボットにすべてを任せた結果、繁殖能力を失い、種としての活力を失っていきます。
ヒューマニズム、資本主義
物語の後半、ロボットたちが反乱を起こす過程で、彼らの中に変化が生まれます。ロボットが最初に獲得するのは痛みへの恐怖であり、それが支配者である人間への憎しみに変わります。結末近くで、二体のロボットプリムスとヘレナが互いをかばい合い、自己犠牲の精神を見せます。 チャペックは、誰かのために死ねる心こそが、機械と人間を分かつ境界線であると描きました。
当時の社会情勢を反映し、抑圧された労働者(ロボット)が特権階級の人間を打倒する革命の構造が描かれています。しかしロボットが人間を滅ぼしたとしても、彼ら自身が再生産の方法を知らなければ、結局は滅びへ向かうという皮肉が込められています。
物語世界
あらすじ
中央ヨーロッパの孤島にあるロッサム万能ロボット工場。ここでは、感情を持たず、安価で効率的な生体ロボットが大量生産されています。
ある日、大統領の娘ヘレナがロボットの権利を守るために島を訪れます。彼女はロボットを憐れみますが、工場の支配人ドミンたちはロボットは魂のない機械だと一蹴し、自分たちが進める人間を労働から解放する理想郷について熱心に語ります。結果、ヘレナはドミンと結婚し、島に留まることになります。
10年後、世界は一変していました。ロボットがすべての労働を肩代わりした結果、人類は生殖能力を失い、赤ん坊が一人も生まれなくなります。
ヘレナの情にほだされた技師長が、ロボットに少しだけ神経と痛みを与えてしまいます。その結果、一部のロボットが怒りや憎しみを学習し始めました。
ついに世界中でロボットの反乱が勃発。島は包囲されます。ヘレナは事態を重く見て、ロボットの製造法が書かれた秘伝の公式を暖炉で焼き捨ててしまいます。
ロボットたちが工場を襲撃し、人間を次々と殺害していきます。唯一生き残ったのは、自らの手で労働することを尊び、ロボットからも仲間として認められた設計技師のアルキストだけでした。
人間を絶滅させたロボットたちは、ある絶望的な事実に直面します。自分たちの作り方(公式)が失われたため、今の個体が壊れれば、ロボットという種も滅びてしまうのです。
彼らは唯一の生存者アルキストに製造法を解明しろと迫りますが、彼にもそれは不可能でした。しかし、アルキストは工場の隅で、若い男女のロボットプリムスとヘレナが、お互いのために身代わりになって解剖台に上がろうとする姿を目撃します。
効率や論理を超えた愛と自己犠牲を学んだ彼らを見て、アルキストは悟ります。人間は滅びたが、生命はロボットによって続いていく。彼は二人を「新しいアダムとイブ」として祝福するのでした。




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