始めに
ボールドウィン『ビール・ストリートに口あらば』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ボールドウィンの作家性
ボールドウィンにとって最も重要なのがリチャード=ライトです。若きボールドウィンの才能を見抜き、奨学金の獲得を助けるなど、文学界への足がかりを作った恩人です。しかし、ボールドウィンは「皆の抗議小説」の中で、ライトの『ネイティヴ・サン』を黒人をステレオタイプな怪物として描いていると批判してもいます。
ボールドウィンの文体に最も大きな影響を与えたのが、白人作家のヘンリー=ジェイムズです。複雑で長い一文、登場人物の微細な心理の揺れを執拗に追いかける手法を継承します。
作家以前に少年説教者であった彼にとって、聖書は文学の原点です。文章が持つ独特のリズムに影響が見えます。
ハリエット=ビーチャー=ストウ『アンクル・トムの小屋』に対し、ライト同様に感情過多なプロパガンダであると厳しい批判を向けました。ディケンズは幼少期、貧困の中で感化されました。
黒人差別
この作品において、愛は、過酷な社会の中で生き残るための政治的な抵抗です。19歳のティッシュと、無実の罪で投獄されたフォニーの二人の愛、そして彼らを支える家族の団結は、彼らを押しつぶそうとする外部の力に対抗する唯一の武器として描かれます。憎しみは人を滅ぼすが、愛は人を救い、再構築するのです。
ティッシュがフォニーの子を身ごもっていることは、物語に重要な意味を与えています。絶望的な状況の中でも新しい命が宿ることは、黒人コミュニティが数々の苦難を乗り越えて生き抜いてきた再生の象徴です。子供を守り、フォニーを救い出すために、親たちが自分の人生を削って金策に走る姿は、世代を超えた愛の継承を描いています。
物語の核心にあるのは、無実の黒人男性がいかに簡単に社会から抹殺されるかという残酷な現実です。フォニーが嵌められたレイプ事件は、白人警官の悪意と、人種的な偏見に満ちた司法制度の象徴です。フォニーが閉じ込められている刑務所は、アメリカ社会全体が黒人にとっての檻であることを示唆しています。
タイトルの「ビール・ストリート」はテネシー州メンフィスの有名な通りですが、物語の舞台はニューヨークのハーレムです。ビール・ストリートはブルースの故郷であり、黒人の苦しみ、叫び、そして喜びの象徴です。
物語世界
あらすじ
1970年代のニューヨーク・ハーレムを舞台に、19歳の少女ティッシュの視点から、過去の回想と現在進行形の困難が交互に語られます。
幼馴染として育ったティッシュと、彫刻家を目指す青年フォニーは、自然な流れで恋に落ち、将来を誓い合います。しかし、幸せの絶頂にいた二人に悲劇が襲います。フォニーに個人的な恨みを抱く白人警官ベルの差し金により、フォニーは全く身に覚えのない強姦事件の犯人に仕立て上げられ、投獄されてしまいます。
フォニーの収監後、ティッシュは自分が彼の子供を身ごもっていることに気づきます。彼女の両親と姉は、この知らせを愛と喜びで受け入れ、フォニーの無実を証明するために全力を尽くすことを誓います。
一方、敬虔な信者であるフォニーの母親と姉たちは、婚前交渉を罪としてティッシュを激しく非難し、家族間に深い亀裂が生じます。
ティッシュの母シャロンは、フォニーを救うためのわずかな希望を胸に、事件の被害者であり、現在はプエルトリコに身を隠している女性ヴィクトリアを捜しに行きます。
ヴィクトリアにフォニーは犯人ではないと証言を変えてもらうよう説得を試みますが、精神的に追い詰められていたヴィクトリアはパニックに陥り、真相を語らぬまま姿を消してしまいます。唯一の希望だった証言者の確保に失敗し、フォニーの保釈は困難を極めます。家族は弁護士費用を工面するために身を粉にして働き、絶望的な状況下で戦い続けます。
物語は、フォニーが依然として獄中にいる中で、ティッシュが子供を出産するシーンで終わります。




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