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フィリップ・ロス『われらのギャング』解説あらすじ

フィリップ・ロス
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始めに

フィリップ・ロス『われらのギャング』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

ロスの作家性

 ​ロスが最も直接的で巨大な影響を与えたのが、少し上の世代のユダヤ系作家たちでした。​ソール=ベローはロスにとって最大の英雄であり、師とも呼べる存在です。話し言葉と知的な文体を融合させた、活力ある文体は、ロスの初期から中期の文体に決定的な影響を与えました。マラマッドのユダヤ人のアイデンティティや苦悩を道徳的な文脈で描く手法は、ロスの『さようなら、コロンバス』などに影響を与えました。


 ​ロスの作品における変身や不条理な罪悪感のテーマはカフカの影響が見えます。短編『乳房』はカフカの『変身』のパロディであり、後年の『プラハの狂女』などでもカフカへの執着が描かれています。


​ ロスの文体における精密さと、芸術に対する厳格な姿勢はフローベールから来ており、『ボヴァリー夫人』を熱愛しました。


​ アメリカ社会に潜む罪やピューリタン的禁欲主義への関心は、ホーソーンの系譜を継いでいます。特に『アメリカン・パストラル』などの「アメリカ三部作」には、その影が色濃く反映されています。また初期のロスは、ジェイムズのような緻密な心理描写と構成を模範としていました。

ニクソン大統領批判

 ​当時のリチャード=ニクソン大統領(作中では「トリック・E・ディクソン」)を痛烈に批判した本作です。テーマは、政治家がいかに言葉を弄して真実を捻じ曲げるかという点にあります。オーウェルが『政治と英語』で警告したような、嘘を真実らしく、殺人を立派なことに見せかけるレトリックを、ロスは滑稽なまでに極端に描きました。

 ​劇中のディクソンは、どんな矛盾した行動も「道徳的」「人道的」な言葉で正当化します。意味が空文化した公式声明の滑稽さを暴くことが、ロスの狙いでした。

 ディクソンは、自らの政治的立場を守るためなら、ボーイスカウトを虐殺するといった狂気じみた決断すら、法的な屁理屈をこねて正当化しようとします。​権力者が「正義」や「国民のため」という旗印を掲げる時、その裏にあるのは冷徹な自己保身とエゴイズムであるという、権力の本質的な醜悪さが描かれています。

 ロスがこの本を書いた直接のきっかけは、ニクソンが胎児の生命の尊厳について語りながら、実際にはベトナム戦争(ソンミ村虐殺事件など)での死を容認しているような偽善に対する激しい怒りでした。

 この小説は対話形式(劇形式)で進みますが、これは政治が中身のないパフォーマンスに成り下がっていることを示唆しています。レビを通じたイメージ戦略や、記者の質問をはぐらかすテクニックなど、現代の政治でも見られる中身のない対話がここにあります。

物語世界

あらすじ

 ​物語の主人公は、リチャード=ニクソンのパロディであるトリック=E=ディクソン大統領です。彼は、どんなに不条理なことでも「法の支配」や「道徳」という言葉を駆使して、自分に都合よく正当化してしまう特殊な才能を持っています。


​ ​物語の大きな発端は、ディクソンがボーイスカウトを国家の脅威と見なすという突拍子もない決断を下すことです。​彼は、ボーイスカウトが中絶や婚前交渉に対して曖昧な態度をとっていると難癖をつけます。


 ​そこから話は飛躍し、最終的には胎児の権利を守るためという名目で、デンマークのコペンハーゲンへの軍事侵攻を画策するという展開へ突入します。


​ しかしディクソンは大統領在任中に暗殺されます。水が詰まった袋の中に閉じ込められるという奇妙な最期でした。
 

 彼の「政治家魂」は死んでも治まりません。​舞台は地獄へと移ります。​ディクソンは地獄の支配者であるサタンの座を奪うべく、地獄の住人たちを相手に選挙キャンペーンを開始するのです。

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