始めに
ウィルキー=コリンズ『白衣の女』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
コリンズの作家性
コリンズにとって最大の友であり、ライバルであり、編集者だったのがディケンズです。二人は深い親交があり、ディケンズの雑誌”Household Words”などでコリンズは執筆していました。
イギリスの歴史小説家であるスコットも、コリンズの物語作りに影を落としています。コリンズは、スコットが描くような過去の因縁が現代に影を落とすというロマン主義的な構成を継承します。
コリンズはフランス文学にも精通しており、特にバルザックのリアリズムやウジェーヌ=スクリーブの「よく練られた戯曲(Well-made play)」の技法を、小説の構造に取り入れました。
ジェイムズ=フェニモア=クーパーからも影響されました。
フェミニズム的テーマ
本作では、実は異母姉妹で瓜二つの容姿を持つ二人の女性、令嬢ローラ=フェアリーと謎の「白衣の女」アン=キャサリックの存在です。悪役たちは、容姿が似ていることを利用して、生きているローラを「死んだアン」に仕立て上げ、アンの死を「ローラの死」として偽装します。
当時のイギリスの法律における妻は夫の従属物であるという考え方に対する痛烈な批判が込められています。
主人公のローラは、政略結婚によって悪徳な夫パーシヴァル=グライド男爵の支配下に置かれます。当時の女性には自分の財産を守る権利がほとんどなく、夫が望めば妻を精神病院に閉じ込めることすら容易でした。ローラの異母姉マリアンは、非常に知的で行動力のある女性として描かれますが、彼女が女性であるというだけで法的な対抗手段を持てず、苦悩する姿は当時の社会構造への不満を象徴しています。
また正気の人間に狂人のレッテルを貼ることがいかに容易で、恐ろしいことかが描かれます。悪役にとって、不都合な真実を知る女性を精神病院に放り込むことは、最も効率的な口封じでした。誰が正気で誰が狂っているのかを判断するのは、医学的な事実ではなく、権力を持つ者の声になっています。
物語世界
あらすじ
貧しい絵画教師ウォルター=ハートライトは、新しい赴任先へ向かう夜道で、全身白い服を着た謎の女(アン=キャサリック)に出会います。彼女は精神病院から逃げてきたようでした。
赴任先の屋敷で、ウォルターは教え子の令嬢ローラ=フェアリーに恋をしますが、彼女は亡き父の遺言でパーシヴァル=グライド男爵との結婚が決まっていました。ローラは、自分と瓜二つの容姿を持つ「白衣の女」アンの存在を知り、不穏な予感を抱きながらも結婚を承諾します。ウォルターは失意のうちに海外へと旅立ちます。
結婚後、ローラの生活は地獄に変わります。借金まみれのパーシヴァル卿と、その相棒である知略家フォスコ伯爵の目的は、ローラの莫大な財産でした。彼らは、病弱だった「白衣の女」アンが病死したのを好機と捉え、恐ろしい計画を実行します。
本物のローラに薬を盛って、精神病院へ送り、死んだアンを「ローラ(グライド夫人)」として葬って公式に死亡を捏造することでローラを社会的に「死んだ」ことにし、パーシヴァル卿は彼女の遺産を手に入れたのでした。
帰国したウォルターは、ローラの異母姉マリアンと協力し、精神病院からローラを救い出します。しかし、戸籍上は死人であるローラの言葉を信じる者は誰もいません。
ウォルターは、パーシヴァル卿が必死に隠していた重大な秘密を暴こうと奔走します。パーシヴァルは実は私生児であり、爵位と財産を継ぐ権利がありませんでした。彼はそれを隠すために、教会の登録簿を偽造していたのです。
追い詰められたパーシヴァル卿は、証拠を隠滅しようと教会の文書保管庫に火を放ちますが、自ら火に巻かれて焼死します。
最後の敵は、天才的な知能を持つフォスコ伯爵です。ウォルターはフォスコがイタリアの秘密結社(炭焼党)を裏切った過去を突き止め、それを武器に彼を脅します。フォスコはローラの生存と入れ替えの事実を認める告白書を書き残して国外逃亡しますが、後に秘密結社の刺客によって暗殺されます。
証拠が揃い、ローラの身分は法的に回復しました。ウォルターとローラは結婚し、二人の間に生まれた息子がフェアリー家の正当な跡継ぎとなることで、物語は大団円を迎えます。




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