始めに
ゲーテ『親和力』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
ドイツロマン主義
ゲーテはドイツロマン主義を代表する作家です。
初期には古典主義としての傾向もあったものの、キャリアの中で、どんどん形式的な実験を展開していくようになります。シラーが傾向としては古典主義的なスタイルを特徴とするのとは対照的です。
シェイクスピアやホメロスからの影響は大きく、内的世界の混乱や混沌、積極的自由のテーマの側面から影響されています。また、形式的実験もシェイクスピアと重なります。本作のワルプルギスの夜は、シェイクスピア『夏の夜の夢』の背景です。
またゲーテという作家は、形式主義者という意味合いにおいて古典主義者であり、作家主義者であるという点でロマン主義者でした。同時代のフリードリヒ=シュレーゲルはゲーテの『ヴィルヘルム=マイスターの修行時代』をシェイクスピア『ハムレット』への批評性に基づくものとして、高く評価しました。『ハムレット』という古典の形式をなぞりつつ、ゲーテという作家個人の主体性を発揮することで展開される翻案の意匠が『ヴィルヘルム=マイスターの修行時代』にはあります。
タイトルの意味
テーマは、人間の感情は、社会的な規範でコントロールできるのかという問いです。ゲーテは、化学反応においてある物質が特定の物質と結びつく性質を「親和力」と呼び、それを男女の惹かれ合いに重ねました。AとBが結合していても、さらに強い親和力を持つCとDが現れると、元の結合が壊れて新しい組み合わせが生まれます。同様に安定した結婚生活を送っていたエドゥアルトとシャルロッテの元に、大尉とオティーリエが現れることで、四人の関係は化学反応のように組み換わってしまいます。
また庭園造りが重要なメタファーになっています。自然を自分たちの都合の良いように作り替えようとする行為は、自分たちの感情をコントロールしようとする試みとリンクしています。しかし、整えられたはずの庭で悲劇が起きることは、人間が自然を完全に支配することの不可能さを暗示しています。
自由と選択
ゲーテは、人間の意志ではどうにもできない強大な力を「魔的なもの」と呼びました。登場人物たちは理性的であろうと努めますが、偶然の出来事や予兆、そして抑えきれない情熱によって、破滅へと引きずり込まれていきます。個人の自由意志がいかに脆いかを描きます。
物語の後半、特にオティーリエというキャラクターを通じて描かれるのが諦念です。自らの情熱が周囲を不幸にすることに気づいたとき、人はどう振る舞うべきか。オティーリエが選ぶ絶食という沈黙の抵抗は、過ちを清算するための究極の自己犠牲であり、道徳的な純粋さへの回帰でもあります。
物語世界
あらすじ
かつて恋仲だったエドゥアルトとシャルロッテは、それぞれ別の相手との結婚・死別を経て、ようやく結ばれ、広大な領地で隠居生活を送っていました。
ある日、エドゥアルトは失業中の親友「大尉」を招きたいと言い出します。シャルロッテは二人の平和が乱れると予感して反対しますが、結局折れ、さらに自分の姪である孤独な美少女オティーリエも呼び寄せることにします。ここで四人が揃い、「親和力(化学反応における物質の結びつき)」についての議論が交わされます。
四人が一緒に過ごすうちに、議論した通りの親和力が働いてしまいます。情熱的で子供っぽいエドゥアルトと、純真なオティーリエが強く惹かれ合い、シャルロッテと大尉は理性的で有能な者同士で静かに惹かれ合います。
ある夜、エドゥアルトとシャルロッテは夫婦の営みを持ちますが、二人はそれぞれ心の中で別の相手を想いながら抱き合います。
大尉は身を引き、エドゥアルトは情熱に耐えかねて戦地へ赴きます。その間に、シャルロッテは息子を出産します。しかし、その赤ん坊の顔は、父親(エドゥアルト)ではなく大尉に、目はオティーリエにそっくりでした。
戦地から戻ったエドゥアルトは、オティーリエへの愛を諦められず、シャルロッテに離婚を迫ろうとします。しかしその矢先、湖でオティーリエが不注意から赤ん坊を溺れさせて死なせてしまうという事故が起きます。
自分の罪に打ちのめされたオティーリエは、沈黙の行に入り、食事を断つことで自らを罰します。彼女はやがて衰弱して亡くなります。
エドゥアルトもまた、彼女を追うようにして息を引き取ります。生き残ったシャルロッテは、皮肉にも死によって永遠に結ばれた二人を、同じ墓所に葬るのでした。




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