始めに
ロレンス・ダレル『アレクサンドリア四重奏』解説あらすじを書いていきます。
始めに
ダレルの作家性
ダレルに最も決定的な影響を与えたのは、間違いなくヘンリー=ミラーです。1935年、ダレルはミラーの『北回帰線』を読み、衝撃を受けて手紙を書きました。これが生涯にわたる友情と膨大な往復書簡の始まりとなりました。
C.P. カヴァフィスというアレクサンドリアに住んだギリシャの詩人は『アレクサンドリア四重奏』において何度も引用され作品の精神的な支柱となっています。ほかにD.H. ロレンスからの影響も大きいです。
ゲオルク=グロデックという精神分析家からも影響があります。『アレクサンドリア四重奏』における時間と記憶の扱いや、多重的な視点で一つの真実を炙り出す手法は、プルーストの『失われた時を求めて』からの影響が見て取れます。ダレルは詩人としても活動していましたが、T.S.エリオットの象徴主義やモダニズム詩法からは技法的な影響を大きく受けています。
ダレルはまた、アインシュタインの相対性理論にも強く影響を受けています。
語りの構造
ダレルはこの四重奏をアインシュタインの相対性理論の文学的表現として構想しました。最初の3巻(『ジュスティーヌ』『バルタザール』『マウントオリーブ』)は空間的な広がりを持ち、同じ出来事を異なる視点から描きます。第4巻(『クレア』)でようやく時間が前進します。真実は見る人の数だけ存在します。ある人物の行動が、別の巻では全く異なる動機によるものだったと明かされます。官能的な愛、政治的な意図を含んだ愛、自己破壊的な愛、精神的な友愛、そして同性愛。アレクサンドリアという迷宮の中で、登場人物たちが織りなす複雑な人間関係を通じて、愛の本質が描かれます。
街の歴史、気候、退廃的な空気が、そこに住む人々の運命を決定づけていく様が描かれます。人間が街を作るのではなく、街が人間を形作るという思想が根底にあります。
4つの物語は同じ出来事を異なる視点から何度も描き直すという構造(最初の3巻が同時並行で、4巻目だけが数年後)を持っています。物語の語り手であるダーレイが、一人の作家としていかに成熟していくかも描きます。彼は他人の人生を観察し、記述することで、最終的に自分自身の声を見つけ出します。
前述のゲオルク=グロデックの思想に基づき、個人の意志を超えた無意識の力がテーマに関わっています。登場人物たちは自分の意志で動いているつもりでも、実際にはもっと深い、抗いがたい精神的な力に突き動かされていることが示唆されます。
物語世界
あらすじ
・第1巻『ジュスティーヌ』:語り手ダーレイの主観的追憶です。貧しい作家志望の青年ダーレイが、美貌のユダヤ人女性ジュスティーヌと情熱的な不倫に落ちる物語です。ダーレイの視点からは、ジュスティーヌは宿命の女であり、彼女の夫ネスィム(大富豪のコプト教徒)を裏切って自分を愛しているように見えます。
・第2巻『バルタザール』:数年後、友人バルタザールがダーレイの手記を読み、大量の注釈を書き加えることで、前作の物語が完全に塗り替えられます。ジュスティーヌがダーレイを愛していたのは、実は別の男プルスウォーデンへの本気を隠すための煙幕に過ぎなかったといいます。ダーレイは自分が単なる脇役だったことを知り、打ちのめされます。
・第3巻『マウントオリーブ』:主人公はイギリスの外交官マウントオリーブ。実はジュスティーヌと夫ネスィムは、パレスチナのユダヤ人を支援するために反イギリスの武器密輸計画を進めていました。これまでの愛のドラマは、すべてこの政治的陰謀を隠すためのチェスの駒に過ぎなかったことが判明します。
・第4巻『クレア』:数年が経過し、第二次世界大戦中のアレクサンドリアにダーレイが戻ってきます。過去の執着を捨てたダーレイは、画家の女性クレアと深い関係を築きます。凄惨な事故や別れを経験しながらも、ダーレイは最終的に芸術家としての自分を確立し、新しい人生へと歩み出します。




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