始めに
三島由紀夫『獣の戯れ』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
古典主義(ラディゲ、コクトー)
三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』『肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いです。
ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』もクラシックな心理小説『クレーヴの奥方』の翻案として、王宮文学としてのメロドラマを展開します。
本作は全体的にコクトー『恐るべき子供たち』と重なり、閉鎖的世界の心理劇になっています。
コクトー『恐るべき子供たち』
以下はコクトー『恐るべき子供たち』のあらすじです。
中心にいるのは、弟ポールと姉エリザベートです。二人は強い結びつきをもつ兄妹で、外の世界を拒むように、家庭と自室に閉じこもった独自の関係を築いています。ある日、ポールは雪合戦でダルジュロスという少年に石を投げつけられて負傷し、病床に伏します。この出来事がきっかけで、ポールはダルジュロスに強い憧れと執着を抱きます。一方、エリザベートもまた、弟への独占的な愛情と支配欲を強めます。
やがて、貧しいが献身的な少女アガートが彼らの生活に入り込みます。アガートはダルジュロスに瓜二つの容姿をしており、ポールは彼女に惹かれます。しかしエリザベートは、弟が自分から離れていくことを恐れ、巧妙な嘘と操作によって、二人の間を引き裂きます。最終的に、誤解と操作の果てにポールは命を落とします。弟を失ったエリザベートもまた、後を追うように自死します。
このように『恐るべき子供たち』は、閉鎖的な世界のなかでの悲劇を描く心理劇ですが、本作『獣の戯れ』も同様です。
心理劇のデザイン
3人の男女の間に生まれた奇妙な愛と、その共同生活の破綻が描かれるストーリーです。
2年の刑期を終え、幸二は草門優子の待つ西伊豆へ船でやって来るところで物語は始まります。2年前、大学生だった幸二は、草門逸平と優子夫婦の営む銀座の西洋陶磁店でアルバイトをしていました。幸二と同大学の独文科出身の逸平は家業の店を経営する一方、訳書や評論などを書いたこともあるディレッタントで、遊び人でした。
堕落した逸平は、やきもちを示さない妻の優子への腹いせに浮気を重ねていることを幸二に語ります。すると幸二は優子へ恋心を寄せます。すれ違いから、幸二は逸平の頭をスパナで殴打して逮捕され、刑に服したのでした。逸平はそれから失語症と右半身麻痺になります。
服役後、幸二は優子に引き取られ、三人の共同生活が始まります。奇妙な絆で結ばれた三人ですが、幸二は散歩の折に自分たちを支配している逸平に、あんたは何を望んでいるのかと詰問し、逸平は「死にたい」と応えました。それに応じるような形で、幸二と優子は逸平を殺し、幸二は死刑判決になり刑死、優子は無期懲役になります。
幸二と優子が逸平を絞殺する事件の数日前、3人は港の向う岸へ出かけ、仲良く一緒に写真を撮っていました。奇妙な絆で結ばれ、破滅した三人ですが、「私たち3人とも、大の仲良しでした」と、最後に優子が語る通り、三人の間には名状しがたい理解と共感があったのでした。
物語世界
あらすじ
2年の刑期を終え、幸二は草門優子の待つ西伊豆へ船でやって来ます。2年前、大学生だった幸二は、草門逸平と優子夫婦の営む銀座の西洋陶磁店でアルバイトをしていました。幸二と同大学の独文科出身の逸平は家業の店を経営する一方、訳書や評論などを書いたこともあるディレッタントで、遊び人でした。
堕落した逸平は、やきもちを示さない妻の優子への腹いせに浮気を重ねていることを幸二に語ります。すると幸二は優子へ恋心を寄せます。実は優子は興信所に調べさせて夫の浮気を全て知っていて苦しんでいたものの、このことだけは主人に言わないでほしいと幸二に頼んだのでした。
優子と逸平の関係に苛立ちを覚えた幸二は、逸平が愛人と密会しているアパートへ優子を連れていきます。幸二は優子と待ち合わせた場所に落ちていたスパナを上着の内ポケットに入れていました。
逸平が待ち望んでいた優子の嫉妬にもかかわらず、彼の斜にかまえた態度に幸二は失望します。そして、慟哭して夫にすがろうとする優子に冷たく平手打ちをした逸平に向かって、幸二はその頭をスパナで殴打したのでした。
それにより逸平は失語症と右半身麻痺になり、幸二は傷害罪で服役しました。優子は銀座の店をたたみ、知り合いの園芸会社の伝手で、西伊豆の伊呂村(安良里)に、花の温室を建てて草門園芸を営み始めます。その後、出所した幸二を引き取り、そこで3人の暮らしが始まったのでした。
逸平は性格もかわり、諦観したような微笑を常にしていました。自然に囲まれ、充実した仕事ぶりの幸二ですが、優子への愛に満たされぬ思いを抱きます。幸二は、村に帰省した喜美という浜松の楽器工場で働いている娘を抱きます。喜美の父親は草門園芸で園丁をしている使用人の定次郎ですが、幸二は定次郎から、喜美が家出をした理由を聞かされます。定次郎は娘を強姦したのです。
町に帰る喜美が幸二に挨拶に来たときに、優子が示した嫉妬のような態度に幸二は喜び、その夜、自分の寝床近くにやって来た優子を抱こうとします。優子は主人が来ると言い、むしろ逸平の目にさらされることを望んでいたものの、幸二は拒みます。
逸平が階段を上って来ます。そして隣の客間で優子に、明日からここで寝たいと言います。後日、幸二は散歩の折に、自分たちを支配している逸平に、あんたは何を望んでいるのかと詰問します。逸平は「死にたい」と言いました。
幸二と優子が逸平を絞殺する事件の数日前、3人は港の向う岸へ出かけ、仲良く一緒に写真を撮りました。写真は日頃、彼らと親交のあった泰泉寺の住職の覚仁和尚に預けられていました。幸二と優子が自首する前も2人は住職に、3人の墓を並べて建ててほしいと懇願していました。幸二は死刑が確定し、その約1年半後に刑死します。
逸平の墓の左隣りに優子の寿蔵、その左隣りに幸二の墓が建てられます。その墓の写真を見た無期懲役の優子は、面会に来た住職の使いの民俗学者に、「私たち、仲が好かったんでございますよ。私たち3人とも、大の仲良しでした。和尚さんだけが御存知でした」と話すのでした。



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