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三島由紀夫『女神』解説あらすじ

三島由紀夫
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始めに

 三島由紀夫『女神』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

古典主義(ラディゲ、コクトー)。リアリズム

 三島由紀夫はラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)といったフランスの古典主義文学に影響を受けています。私淑した二人にも相通じる、作品全体が合理的に構造としてデザインされた戯曲、家庭小説には佳品が多いですが、純文学作品には駄作も多いです。また純文学でいいのは『仮面の告白』や本作など初期の作品に多いです。

 本作はラディゲ『ドルジェル伯の舞踏会』に似た、宮廷文学になっています。ラディゲはコクトーなどのモダニスト、シュルレアリストと親交があって、前衛的な文学的潮流と接触していたものの、本人はフランスの心理小説(コンスタン『アドルフ』、ラファイエット夫人『クレーヴの奥方』)やロマン主義文学(ミュッセ)に習いつつ、古典的な小説スタイルでもって小説を展開していきました。『ドルジェル伯の舞踏会』も、クラシックな心理主義文学のラファイエット夫人『クレーヴの奥方』の翻案です。

理想化された対象と現実の不一致

 本作は『サド侯爵夫人』などにも見られる、理想化された対象と現実の対象との間でエージェントが思い悩む様が描かれています。

 三島という作家は、常に理想と現実の間で悩み続けた作家でした。そもそも三島由紀夫はどちらかといえば、内向的で観念的な世界にこもるタイプの人間でしょうが、そうした傾向は一貫して否定的に描かれていると感じます。

 三島が志向したのは、行為を通じた現実社会へのコミットメントによって自己実現を図るニーチェ的な行動主義者としての自己でした。そんな自己のイメージにおいても理想と現実の間で悩み続けた三島は、『ライ麦畑でつかまえて』のホールデンのような人であり続けました。

ピグマリオンもの

 全体的に三島の好んだ谷崎の『痴人の愛』と似ていて、そのためにショーの『ピグマリオン』やピグマリオン神話と重なる内容です。

 ピグマリオンはギリシア神話に登場するキプロス島の王、ピュグマリオーンのことです。現実の女性に失望していたピュグマリオーンは、あるとき自ら理想の女性のガラテアを彫刻し、やがて自らの彫刻に恋をするようになります。その彫像から離れないようになり次第に衰弱していく姿を見かねたアプロディーテーが彫像に生命を与え、ピュグマリオーンはそれを妻にします。

 本作『女神』でも、そのような人造の美への執着が描かれます。戦前、ある商事会社の海外支店長をしていた木宮周伍は、妻の依子にあらゆる美のための教育をほどこし、優雅な夜会の華に育てました。帰国し35歳になった依子の子供がほしいという熱意に押されて一人娘の朝子を得ます。しかし変人の周伍は妻が母性に転化するのを極度に嫌がります。しかし45歳の終戦の年に依子は空襲で火傷を負い、顔半面に醜い痕が残ります。それ以来、依子は絶望して、終日家にこもるようになります。女として美しくなかったら一文の値打もないという哲学を夫から叩き込まれていた依子は無価値になった自分に苦しみ、夫を憎みます。

 戦後、GHQによる追放により、周伍は家にいることが増えます。ある日、女学校帰りの13歳の娘の朝子をあじさいの繁みから見たとき、周伍は幼い顔に依子の萌芽を見出します。そして、自分の余生をつくして、この子を第二の依子に育てようと誓うのでした。

 しかし結局この理想は敗れ、朝子は斑鳩一と永橋俊二という二人の青年の間で苦悩し、二人に欺かれ、破滅します。母の依子は斑鳩一と恋人になることで朝子を傷つけ、周伍に復讐します。人生の敗者になった父と娘の二人ですが、受難を経て、人間の愛慾に決して蝕まれない、新しい不死身の自分が生れるのを朝子は感じます。周伍は美しい女神に化身した娘を見て、「やっと2人きりになれたね」と呟きます。そして、その同じ言葉を、もっと深い余韻をもって朝子が繰り返します。

 内向的な理想主義者の二人は現実の前に敗北して変容し、理解しあいますが、ここには行為を通じた現実社会へのコミットメントによって自己実現を図るニーチェ的な行動主義者としての三島のテーマ性が見て取れます。また、ラストの展開は『ワーニャ伯父さん』のラストとも重なります。

物語世界

あらすじ 

 戦前、ある商事会社の海外支店長をしていた木宮周伍は、妻の依子にあらゆる美のための教育をほどこし、優雅な夜会の華に育てました。周伍の偏執さは、妻の体の線が崩れるからと子供を産むことも禁じたほどです。

 しかし帰国し35歳になった依子の子供がほしいという熱意に押されて一人娘の朝子を得ます。しかし変人の周伍は妻が母性に転化するのを極度に嫌がります。それが依子にも伝播し、彼女は子供を乳母や家庭教師にあずけて、再び美に憂身をやつします。しかし45歳の終戦の年に依子は空襲で火傷を負い、顔半面に醜い痕が残ります。それ以来、依子は絶望して、終日家にこもるようになります。女として美しくなかったら一文の値打もないという哲学を夫から叩き込まれていた依子は無価値になった自分に苦しみ、夫を憎みます。彼女はわざと夫へのあてつけで過度に地味になり、陰気になります。

 戦後、GHQによる追放により、周伍は家にいることが増えます。ある日、女学校帰りの13歳の娘の朝子をあじさいの繁みから見たとき、周伍は幼い顔に依子の萌芽を見出します。そして、自分の余生をつくして、この子を第二の依子に育てようと誓うのでした。

 周伍は絶えず朝子に、「お前は美人だ」と繰り返すようになります。美のためにあらゆる教養も身につけさせ、朝子は美しい娘へと成長します。はじめは激しく反発した依子も、娘の行末に目を見張ります。

 ある5月の宵、周伍と朝子は銀座通りで交通事故を見ます。周伍の制止にもかかわらず、朝子は倒れた男に駆け寄ります。その場を勇敢に取り仕切り、自家用車で怪我人を病院へと運ばせたのでした。朝子は後日また見舞いに来ると医師に告げて去ります。

 翌日の朝刊に、天才青年画家の斑鳩一が自動車事故で負傷という記事があります。美術鑑賞やピカソなどの難解芸術に関心を持たないように厳重に教育されていた朝子は、斑鳩一の顔も作品も見たことがありませんでした。朝子は父に止められたものの、斑鳩の暗い顔がなぜか気になり内緒で見舞いに行きます。斑鳩はキザな芸術家ですが、朝子が帰ろうとすると淋しそうな顔をし、子供のように口を尖らせ、壁の方を向いたのでした。

 翌日、朝子は学校から帰ると、周伍と一緒に醍醐宮を囲む会主催の月例パーティーに出かけます。その会で朝子は、若宮の学習院の先輩でハーバード大学帰りの永橋俊二を紹介されます。俊二は銀行の頭取の息子で、映画俳優にスカウトされるほどの容姿でした。周伍は、俊二こそ朝子の夫にふさわしい青年だと思います。

 次の日、朝子に斑鳩から電話があります。こんどの土曜日にバアで退院祝いの会をやるから来てくれという一方的なものでした。しかしその日、朝子は俊二との約束があります。

 俊二とのデートを終えた後の月曜日、朝子の元に知らない女からの嫌がらせの手紙があります。斑鳩の芸術を愛好するグループの者だと名乗るその手紙は、朝子が退院祝いに来なかったことを非難するものでした。

 ある晩、再び斑鳩から電話があります。これから弟子達に付添われてお宅にお礼に伺うというものでした。電話を朝子が代ると、明日アトリエに来てくれれば、お宅へは行かないと言います。

 雨の中、朝子は大岡山の斑鳩のアトリエに行きます。斑鳩は朝子が土曜日に俊二とデートしていたことをなぜか知っていました。いやがらせの手紙も自分が女のふりをして書いたと斑鳩は無邪気に打ち明けます。あきれた朝子が帰ろうとするものの、斑鳩は不自由になった足で倒れながら朝子の足首にすがりつき、帰らないでと泣きじゃくります。朝子は斑鳩をいたわるうちに、自分の家庭の悩みである父母の不仲の複雑な事情について彼に語ります。斑鳩は相談に乗りながら好機をうかがい、急に朝子に抱きつき接吻をします。朝子は逃げるように出ていきます。

 学校が夏の休暇となると、朝子は母の依子と軽井沢の別荘へ行きます。俊二が朝子を追いかけて軽井沢へ遊びに来ます。2人は旧M侯爵邸の庭で接吻をします。夢に見ていた絵のような状況の中での体験ですが、朝子には魅惑はなく、俊二に結婚を申し込まれるものの迷います。その時、斑鳩が遠くの柵からステッキをついてじっとこちらを見ていました。斑鳩は不自由な足で柵を越えようとしていたものの、朝子と目が合うと姿を隠します。反射的に朝子は俊二のプロポーズをその場で承諾します。しかし朝子は斑鳩に恋をしてしまったのでした。

 周伍は娘と俊二の婚約を喜ぶものの、恋の情熱にますます美しくなった娘を見て、自分以外の者のために美が深まったことに嫉妬します。

 一方、母の依子と斑鳩はいつの間にか交際をしていました。依子は斑鳩が集めてきた俊二のスキャンダルの証拠の数々を見てほくそえみます。俊二には水商売の女との間に5歳の隠し子がいて、他にも何人も女がいたのでした。軽井沢から帰京後、依子は嬉々として俊二のスキャンダルを夫にバラします。怒った周伍は俊二を呼び出し、これを問いただします。俊二は悪びれる様子もなく、金銭で型をつけると言い、潔癖な周伍を見下します。激昂した周伍は俊二を追い出すと、昂奮から倒れます。

 一方、その日、朝子は斑鳩のアトリエに行っていました。「好きになってしまったのよ」と朝子は斑鳩に言います。斑鳩は朝子を抱きしめ狂気のように接吻します。

 そこへ依子から、周伍が倒れたと電話があります。斑鳩はすぐに朝子を連れてタクシーで木宮家に行きます。父が医者に介抱されているのを見た朝子は倒れそうになり斑鳩に支えられます。それを見た依子は、「こんな人はあなたに似合わない。丁度私に似合っているのよ」と言い、斑鳩が自分の恋人だと娘に打ち明けます。夫への復讐を果たして昂奮する依子を斑鳩が制し、2人は部屋から出ていったのでした。

 意識を回復した周伍は、俊二との仲を割いたことを娘に謝ります。朝子は父の勘違いを言わずにおきます。一人ぼっちになった朝子は、父と自分とがまるで別の道を通って、今ひとつのところへ落ち合った気がします。人間の愛慾に決して蝕まれない、新しい不死身の自分が生れるのを朝子は感じます。

 周伍は美しい女神に化身した娘を見て、「やっと2人きりになれたね」と呟きます。そして、その同じ言葉を、もっと深い余韻をもって朝子が繰り返します。「やっと2人きりになれたんだわ」、と。

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