PR

開高健『パニック』解説あらすじ

開高健
記事内に広告が含まれています。

始めに

 開高健『パニック』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

行動主義の作家として

 開高健はリルケやサルトルからのつよい影響が知られますが、作品のスタイルの点で2人と似ているかというと微妙なところです。

 サルトルからは行動派的な感覚を養い、ドキュメンタリーに見える手法と重なりますが、自分で直接海外に出向いて取材し、創作の糧としました。

 狩猟(釣りですが)を好んだことといいよくそうしたスタイルはヘミングウェイと重ねられますが、翻訳を手がけたオーウェルのリベラリズムとも重なります。

 サルトルの他に『パニック』は同じく実存主義のカミュの影響がよく言われます。

英文学とピカレスクの伝統

 ヘミングウェイの位置する英米文学は、ピカレスクというスペインの文学ジャンルからの影響が顕著です。ピカレスクは、アウトローを主人公とする文学ジャンルです。ピカレスクは「悪漢小説」とも訳されますが、傾向としてピカレスクの主人公は悪人ではなく、アウトローではあっても、正義や人情に篤く、その視点から世俗の偽善や悪を批判的に描きます。高倉健のヤクザ映画みたいな感じで、主人公はアウトローだけど善玉、みたいな傾向が強いです。

 このピカレスクから英文学は顕著な影響をうけ、しかしフィールディング『トム=ジョーンズ』などを皮切りに、ピカレスクに刺激されつつも、それを英文学固有の表現として継承していきました。デフォー『モル=フランダーズ』なども有名です。

 本作もそのようなピカレスクのモードと重なり、主人公が自然災害に対して機転を働かせて立ち回ろうとします。

社会と自然の不条理

 全体的に、災害との戦いのなかで個人がそれを阻む社会のしがらみに直面するというプロットはイプセン『民衆の敵』と重なります。

 県庁山林課の職員俊介が主人公です。去年の秋、この地方では120年ぶりに一斉にササが花を開き実を結びました。ササは救荒植物の一つで、この実のために田畑や林から集まった野ネズミによる獣害の恐れを、俊介は上司に訴えるものの却下されます。年が明け、雪どけと共に巣穴から流れだすネズミの恐慌が現実となります

 その後も、俊介は適切な助言をするものの、結局は官僚政治のしがらみのなかでそうした言葉もかき消されてしまいます。そんななかでも恐慌は偶然に終息へ向かう兆しが見えたものの、俊介は帰りの車中で夜明けの街道を歩く一匹のやせた野良猫を見て、「やっぱり人間の群れに戻るより仕方ないじゃないか」と最後に呟くのでした。

 ネズミの群れに翻弄される俊介らでしたが、官僚政治や社会という人の群れの癒着だったり硬直化だったり恐慌だったりは、それよりもさらに厄介なものであって、俊介はその後もその群れのなかに戻るしかないのでした。

物語世界

あらすじ

 県庁山林課の職員俊介は、飼育室で課長にイタチがネズミ駆除に有効であることを実演します。去年の秋、この地方では120年ぶりに一斉にササが花を開き実を結びました。ササは救荒植物の一つで、この実のために田畑や林から集まった野ネズミによる獣害の恐れを、俊介は上司に訴えるものの却下されます。

 年が明け、雪どけと共に巣穴から流れだすネズミの恐慌が現実となります。

 やがて山林課に鼠害の苦情と陳情書が殺到します。近隣でも植栽林が禿げあがり、田畑では撒かれた麦がネズミのために発芽しません。山林課は鼠害対策委員会を設け、俊介の意向で近県の動物業者からネズミの天敵のイタチやヘビを買ってマークを付けて山野に放ちワナを仕掛けます。殺鼠剤を業者から集めて配る計画を立てたものの、ネズミの数は多く、対策はまるで効果がありません。しだいに人々はネズミを媒介とした伝染病の脅威に怯え、町の医師は誇大妄想に陥った患者の対応にあたります。

 恐慌は県政にも波及し、野党が官僚・知事の失策と不作為を非難します。この騒動の渦中で追加で購入したイタチに、以前購入した時にマークを付けて山に放ったイタチが含まれていた不正問題もあり、つまり業者が一度売ったイタチを、山で捕獲して再度売っていました。俊介はその動物業者との取引停止を課長に訴えるものの、彼は業者と癒着しています。

 その夜、俊介は課長に呼ばれて料亭に向かいます。そこへ局長も現れて俊介にラジオと新聞で鼠害対策委員会の解散発表と、鼠害が終息したという印象操作の情報を流す要求を吞まされます。俊介は課長から、知事は俊介を東京本庁へ異動する方針だと告げられます。

 その夜、泥酔して自宅に帰った俊介を待ちうけていた農学者の車に乗せられて、ネズミが大移動していることを聞かされます。車はネズミを追って山道を登り、明け方近くの湖の中へネズミの大群が飛び込む奇怪な光景を目撃します。

 恐慌は終息へ向かう兆しが見えたものの、俊介は帰りの車中で夜明けの街道を歩く一匹のやせた野良猫を見て、「やっぱり人間の群れに戻るより仕方ないじゃないか」と呟くのでした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました