始めに
アーヴィング『ホテル=ニューハンプシャー』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
アーヴィングの作家性
ジョン=アーヴィングは、現代文学において19世紀的ストーリーテリングを現代に蘇らせた作家と評されます。ジョイスの難解さへの非難も知られますが、全体的にはモダニズムを消化しつつ中間小説的に転がすスタイルです。
アーヴィングが最大の師と仰ぐのがディケンズです。物語の長大さ、個性的な登場人物、そして社会批判をエンターテインメントに包む手法を継承します。『サイダーハウス・ルール』などは、特にディケンズ的な孤児の成長物語の系譜にあります。
ドイツの作家ギュンター=グラス、特にその代表作『ブリキの太鼓』をアーヴィングは評価します。歴史と個人の交錯、グロテスクとユーモアの共存を継承します。
トーマス=ハーディからは運命悲劇と舞台設定、プロットの構成力を継承します。
またアメリカ・ニューイングランド地方を舞台にすることが多いアーヴィングにとって、同地を象徴する作家ホーソーンは無視できない存在です。性的逸脱や宗教的な偽善といったテーマの扱いには、ホーソーン的な厳格さとそれに対する批評精神が見て取れます。
ヴォネガットはアイオワ大学時代の教師であり、生涯の友人でもありました。
運命悲劇
作品を象徴する有名なキーワードが「アンダー・トード」です。幼いガープの息子が、波の「引き潮(Undertow)」を「床下の蛙(Under Toad)」と聞き間違えたことに由来します。足元に潜んでいて、油断した瞬間に自分や愛する人を引きずり込んでいく死や災難の象徴としてそれがあります。
悲劇は唐突に訪れるという非情な現実を描きつつ、それでもなお生を肯定しようとします。
ガープは常に、家族を世の中の悪意や事故から守ろうと必死になります。しかし、その執着が皮肉にもさらなる悲劇を招くこともあります。人はいつか必ず死ぬ運命にありますが、その限られた時間の中で誰かをケアすることの尊さが強調されています。
フェミニズム
ガープの母ジェニー=フィールズは、自立した女性の象徴であり、意図的に「結婚なき母」となります。
1970年代のフェミニズム運動を背景に、極端な思想を持つ「エレン・ジェームズ派」や、元アメフト選手でトランスジェンダーのロバータなどが登場します。性的マイノリティや女性への暴力、そしてそれに対する過激な反応の両方を見つめ、社会の不寛容さがもたらす悲劇と「エレン・ジェームズ派」に代表される権利運動の教条主義がもたらす暴走とを描きます。
物語世界
あらすじ
ニューハンプシャー州に住む風変わりなベリー一家の物語です。ウィンとメアリーという夫婦と、5人の子供たち、フランク、フラニー、ジョン、リリー、エッグで構成されています。
両親はともにニューハンプシャー州デイリーという小さな町(ニューハンプシャー州デリーがモデルか)の出身で、10代の頃メイン州の避暑地ホテルで働いている時に恋に落ちます。そこで二人は、リゾートで便利屋兼エンターテイナーとして働き、ペットのクマの「ステイト オブ メイン」と一緒にパフォーマンスを披露するウィーン生まれのユダヤ人であるフロイトに出会います。 夏の終わりには、二人は婚約し、ウィンはフロイトのクマとバイクを購入し、ハーバード大学進学資金を集めるために全国を公演旅行します。その後、ウィンはハーバード大学に進学し、その間にメアリーは家庭を築きます。その後、ウィンはデイリーに戻り、かつて通っていた地元の二流男子私立校デイリー スクールで教師になります。
生意気で自信に満ちた美人フラニーは、ジョンの憧れの的でした。フランクはぎこちなく、控えめで、同性愛者です。彼は妹のリリーと友情を育んでいます。リリーはロマンチックな少女ですが、成長が止まっています。エッグは、コスチュームを着るのが好きな、未熟な少年です。ジョンとフラニーは仲良しで、自分たちは子供たちの中で最も普通だと考えており、自分たちの家族がかなり変わっていることも自覚しています。
ウィンは廃校になった女子校をホテルに改装するというアイデアを思いつきます。ウィンはホテルを「ホテル・ニューハンプシャー」と名付け、一家はそこに引っ越します。
しかしクォーターバックのチッパー=ダブと彼のフットボールチームメイト数名によるフラニーのレイプ事件があります。チッパーの行動と態度は、彼女を救った黒人チームメンバーのジュニア=ジョーンズの行動と態度と対照的です。
ジョンは年上のホテルハウスキーパー、ロンダ=レイと性的関係とビジネス関係を続けるものの、ウィーンのフロイトから手紙が届き、一家は彼(と彼の新しい「賢い」クマ)のホテル経営を手伝うよう誘われることで関係は終わります。
家族と別々に旅をしていたメアリーとエッグは飛行機事故で亡くなります。残りの家族はウィーンで、(第二)ニューハンプシャー・ホテルと改名されたホテルで暮らし始めます。ホテルの一階は売春婦で、もう一階は過激な共産主義者の集団が占拠しています。
家族はフロイトが失明し、「賢いクマ」の正体はスージーという若い女性であることを知ります。スージーは数々の出来事を乗り越え、人間への愛着をほとんど感じなくなり、非常にリアルなクマの着ぐるみの中にいる時が一番安心できると感じていたのでした。
妻の死後、ウィン=ベリーは漠然とした幻想の世界に引きこもり、家族は売春婦や過激派との関係を模索します。ジョンとフラニーは互いに恋することの苦しみと欲望を体験します。ジョンが共産主義者と恋愛関係になり、その共産主義者が自殺すると、二人は嫉妬を感じます。
フラニーはクマのスージーと過激派の「クォーターバック」であるエルンストとの性的関係に安らぎ、自由、そして興奮を見出します。
リリーは作家として成長し、一家を題材にした小説を執筆します。一家は、過激派によるウィーン=オペラハウス爆破計画の陰謀に巻き込まれ、フロイトと一家を人質に取られます。フロイトとウィンは、この計画を辛うじて阻止するものの、その過程でフロイトは死亡し、ウィン自身も失明するのでした。一家は英雄として名を馳せ、フランクを代理人としてリリーのこれを描いた本は高額で出版されます。
一家はスージーと共にアメリカに戻り、ニューヨークの スタンホープ=ホテルに居を構えます。
フラニーとジョンはスージーの巧みな助けを借りて、ついにチッパーへの復讐を果たします。フラニーは映画女優としても成功を収め、著名な公民権弁護士となったジュニアと結婚します。リリーはキャリアのプレッシャーと自己批判に耐えきれず自殺します。ジョンとフランクは、両親が出会ったメイン州の閉鎖されたリゾートを購入します。そこは、スージーが運営するレイプ被害者支援センターのようなホテルとなり、ウィンは被害者に無意識のうちにカウンセリングを提供するのでした。
時間と努力によって心の痛みと不安がいくらか癒されたスージーは、ジョンと幸せな関係を築き、妊娠中のフラニーは、自分とジュニアの生まれてくる赤ちゃんの育児を彼らに依頼するのでした。




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