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小川洋子『博士が愛した数式』解説あらすじ

小川洋子
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始めに

 小川洋子『博士が愛した数式』解説あらすじを書いていきます。

背景知識、語りの構造

モダニズム

 小川洋子は傾向としてはモダニズムからの影響が大きいです。

 川端、太宰、立原、金井美恵子、大江、春樹、オースター、ブローティガンなどをこのみ影響されました。

 金井美恵子『愛の生活』が、『妊娠カレンダー』など、初期には特に影響が大きいです。

 特に影響が大きいのは村上春樹で、その静謐で翻訳文風の語りのスタイルからの影響が大きいです。また、非線形の語りにより一義的な解釈を許さないプロットも、春樹とも重なり、語り手が家政婦として働くことになる博士とその義理の姉との関係性は、解釈に委ねられています。

 川端の幻想的世界からの影響も大きく、『雪国』的信頼できない語り手は初期から得意とします。

数学の美

 本作の特徴は数学の機知が喚起するエモーションに着目した点です。

 しばしば我々は数学などに触れたとき、そこに見える定理などの伝統のなかでの実践や、問題解決のアプローチの鮮やかさに感銘や感動を覚えます。ここにおいては、数学という学究の中に見える、その歴史性の中での実践に見える戦略性や合理性に見える機知にエモーションが喚起されていると言えます。つまるところ、学術やその中における規約における必然性に裏付けられた論理性や合理性は、美的経験の対象になると言えます。

 例えば、モダニズム文学ではT=S=エリオットの『荒地』などを皮切りに、フォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)、ジョイス(『ユリシーズ』)、三島由紀夫(『奔馬』)、大江健三郎(『万延元年のフットボール』『取り替え子』)など、神話的象徴の手法を取り入れるようになりました。これは神話の象徴として特定の対象が描写され、新しい形で神話や特定の対象が発見される機知が喚起する想像力に着目するアプローチです。これはさながら、数学において特定の問題解決のために定理や公理によるトートロジーが用いられるように、神話という既存の世界観の体系が、新しい形で発見され、その戦略性の機知にわれわれのエモーションが喚起されます。このように、我々は文学や科学の伝統において戦略性や合理性をしばしば発揮し、それは第三者の美的経験を促します。

 本作が着目するのも、そのような数学の美的な部分と感じます。

博士と私の交流

 物語は、家政婦として働いた先で出会った人間との精神的交情を描くもので、シャーロット=ブロンテ『ジェーン=エア』などと重なります。

 シングルマザーで語り手の私は家政婦として勤めた先で、記憶が80分しか続かず、数学に素養のある博士という高齢の男性と知り合って、親しくなり、息子のルートも含めた三人で精神的交流を結びます。

 全体的にはよしもとばなな『キッチン』のような、やや非現実的な設定のもとでの、中心人物同士の、セクシャルではない深い精神的交流を描く内容です。

物語世界

あらすじ

 私は息子を一人で育てるシングルマザーで、家政婦として様々な家庭に派遣されます。

 今回、私が派遣されたのは何人もの家政婦が交代している家で、依頼人は上品な老婦人です。私の仕事は老婦人の亡き夫の弟、つまり義弟の世話で、義弟(博士)は離れに暮らします。

 母屋との行き来を禁じられ、解せないながらも私は仕事にとりかかります。しかし、実は博士は十七年前の交通事故をきっかけに、新しい記憶が八十分しか持てないと明かされます。すぐに家政婦のことを忘れ、毎度説明をしなければなりません。

 博士は大事なことはメモして体に貼っています。また数学にしか興味を示しません。

 私は博士のために努力し、やがて博士の話す数学の話に惹かれます。

 ある日、博士は私との会話から、私に十歳の息子がいることを知ります。博士は息子を一人にしてはいけないと言い、その日から息子も博士の家に通いだします。

 息子の頭はルート記号のように平らで、博士は『ルート』と呼び、可愛がります。ルートも博士に懐き、阪神タイガースの話題で盛り上がったり、数学のことを話します。

 博士はタイガースのエース江夏豊が好きですが、それは過去の記憶にあるもので、江夏はすでに引退していて、一度そのことを話した時の博士は衝撃を受けます。こうしたことがないよう私とルートは話す内容に注意します。

 ある日、博士が熱を出して寝込み、私は泊まり込んで看病します。しかし未亡人の怒りを買い、私は一度担当を外されます。

 しかしルートは気にせず放課後、博士のもとへ遊びに行き、そのことで私は未亡人に呼び出されます。未亡人の私に対する怒りは極端でした。しかし博士がオイラーの公式を書いたメモを見せた瞬間、未亡人の怒りが収まり、再び家政婦として通うことを許します。

 しかし博士の脳の障害が進行し、新しいことを一分たりとも記憶できなくなります。博士は施設で暮らすことになり、私とルートはそこへ通うようになります。

 そして時は流れます。ルートは博士の影響で数学の道に進み、中学校の数学の教員試験に受かったことを博士に報告します。ルートと博士は抱き合い、胸には博士が誕生日プレゼントとして二人からもらった江夏のカードがありました。背番号は28で、完全数でした。

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