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夏目漱石『こころ』解説あらすじ

夏目漱石
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始めに

始めに

今日は夏目漱石『こころ』について解説を書いていきたいと思っています。

語りの構造、背景知識

英文学のリアリズム(ジョージ=エリオット、オースティン、ヘンリー=ジェイムズ)、プラグマティズム

 夏目漱石は英文学に創作のルーツを持つ作家です。特に好んだのは、英国のリアリズム作家(オースティン[『傲慢と偏見』]、ジョージ=エリオット、H=ジェイムズ[『ねじの回転』『鳩の翼』])(アメリカの作家ですがイギリスを中心に活躍)でした。『三四郎』『それから』『こころ』『行人』『明暗』などの代表作は、そのような英国の心理リアリズム描写を範とします。

 また、漱石はH=ジェイムズの兄ウィリアムなど、プラグマティズムからも影響されました。これは極めてざっくりいうと、日常言語や日常的実践の世界を分析的に捉えようとする潮流です。現代でも推論主義や消去主義のような形で継承されています。こうした哲学的潮流に触れることが、日常的な実践への鋭敏な感性を培ったと言えます。

語り手は「私」と「先生」(手記)

 本作の語り手は「上 先生と私」「中 両親と私」の語り手は「私」という田舎に両親を持つ学生です。「下 先生と遺書」は先生が「私」へ宛てた遺書で、書き手は先生なので語る主体も先生です。

 このような、コンラッド『闇の奥』やH=ジェイムズ『ねじの回転』のような非線形の語り口が特徴で、『行人』と重なります。

一人称視点の不確かさ

「先生」の遺書が、本作のメインです。それによると「先生」は両親を亡くし、遺産相続でもめたあと故郷と決別、東京で大学生活を送るため「奥さん」と「お嬢さん」の家に下宿します。友人の「K」が家族との不和で悩んでいるのを知った先生は、Kを同じ下宿に誘いますが、「お嬢さん」を「K」から「先生」が奪ったような形で婚約したのち、Kは自殺します。そしてこれから自分も自殺するつもりであると「私」に書いています。

 この遺書は「私」や読者には特に曲者で、先生の主観的な記述でしかないため真実が過不足なく記述されているのかまず疑わしいですし、Kの自殺の理由も「先生」が考えているように「先生」と「お嬢さん」の婚約が原因となったのかはわかりません。もしかしたら先生のせいで自殺したのかもしれないし、そうではないのかもしれない。「覚悟」という言葉にこだわりを見せていたことから分かるように、何か自罰的な感情がそうさせたのかもしれません。ただもしそちらがメインの理由だとしても、先生の振る舞いが後押ししたという解釈も否定しきれません。

 そして「先生」がこんな遺書を送って寄越した意図もそもそもわかりません。共感して欲しいのか、あるいは自殺の真の理由について誰かの助言や推論を求めているのか。

 このように本作は一義的な解釈を許さない、一人称視点の不確かさを生かした心理劇として展開されています。この辺りは川端『雪国』、ロブグリエ『嫉妬』と重なります。

 「こころ」というものは結局日常的実践の中では他者の目には特にブラックボックスなので、互いの意図や戦略を読み違えることで双方にとって最悪の帰結をしばしば起こしうるということは谷崎『卍』にも描かれます。

自殺の謎をめぐる小説

 村上春樹『風の歌を聴け』、サリンジャー『ナイン=ストーリーズ』、大江健三郎『取り替え子』『水死』も自殺の謎をめぐる作品として共通しますが、結局そこでも「こころ」というものはブラックボックスで、死者が残した痕跡や記憶といった限定的なリソースからエージェントは解釈を考えることしかできません。「自分が彼を殺したかもしれない」という疑念があるだけで、自殺の理由としては十分なのかもしれません。

結婚という制度の中での心理劇

 本作品は結婚という制度の中での心理的合理性を描く内容で、その点私淑したオースティン作品や、漱石『それから』などとも重なります。漱石は『罪と罰』を著したドストエフスキーにも似て、制度の中での合理的実践を再現する手腕に秀でています。

物語世界

あらすじ

上 先生と私

 時は明治末期、夏休みに鎌倉の由比ヶ浜に海水浴に来ていた「私」は、同じく来ていた「先生」と出会い、交流を始めます。先生は奥さんと静かに暮らしていました。先生は毎月、雑司ヶ谷にある友達の墓に墓参りします。私は父の病気の経過がよくないという手紙を受け取り、冬休み前に帰省。正月すぎに東京に戻った私は、先生に過去を打ち明けるように迫ります。先生は来るべきときに過去を話すことを約束します。大学を卒業した私は帰省します。

中 両親と私

実家に親類が集まり、父の容態が危なくなってきたところ、先生から手紙が届きます。手紙が先生の遺書だと気づいた私は、東京行きの汽車に飛び乗ります。

下 先生と遺書

「先生」の手紙。Kの自殺と自殺の意思が綴られています。

参考文献

・十川信介『夏目漱石』

・佐々木英昭『夏目漱石』

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