始めに
ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
クレイン、ジェイムズのリアリズム、トウェインの超絶主義とロマン主義
ヘミングウェイはスティーブ=クレイン(『赤色武勲章』)のシニカルな要素に影響を受けていて、短編にはそのようなニヒリズムが見えます。
またH=ジェイムズ(『鳩の翼』『黄金の盃』)からも顕著な影響を受けていて、そのリアリズムや国際性、グランドツアーのモチーフが共通します。本作においても、戦場での戦いというグランドツアーが描かれ、ファシズムと争う中で、主人公は自分を磨き見つめなおし、パリやローマに遊学するのと同様に徳を身に着けます。このあたりはキプリングの作品と重なります。
またマーク=トウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)の影響も顕著で、その超越主義、プラグマティズム的な発想と、等質物語世界の語り口などに活きています。また、主人公が機転をはたらかせて戦場で立ち回るプロットは、ピカレスクのモードを踏まえるトウェインの影響が顕著です。
ハードボイルド
マーク・トウェイン(『ハックルベリー・フィンの冒険』『王子と乞食』)、スティーヴン・クレイン、セオドア・ドライサー、シンクレア・ルイス等と同じく、ヘミングウェイは小説家になる前はジャーナリストでしたので、その文体から影響があります。直接の体験から得た題材を、端正な筆致で物語っていきます。
無駄を切り詰めたそのスタイルはハードボイルドとも言われます。
ジョイス、H=ジェイムズ的象徴的手法
ヘミングウェイはモダニストのジョイスとも親交があり、本作もジョイス『ダブリン市民』のような象徴的な物語になっています。とはいえ、それが具体的にどんな象徴なのかは明示されてはいません。さながらジョイスのエピファニー文学やその弟子ベケット『ゴドーを待ちながら』のようです。
ヘミングウェイの好んだヘンリー=ジェイムズの『鳩の翼』『黄金の盃』も、タイトルになっているモチーフの象徴性が効果的に使われます。
本作のタイトルは有名ですがジョン=ダンの「瞑想」の一節、”For Whom the Bell Tolls”がもとになっています。その詩の意味は、誰かが死ぬのは、我が身を削られるのも同じで、他人の弔意を示すための鐘も、我がことと受け止めようという意味合いです。つまりはスペイン内戦を舞台としつつ、世界に拡大しつつあるファシズムの脅威は対岸の火事ではないと警鐘を鳴らし、また異国の地で正義のために散った主人公らの戦いに共鳴する意味が籠っています。
物語世界
あらすじ
ロバート・ジョーダンはアメリカ人で、かつてはモンタナ大学のスペイン語教授です。戦前のスペインに住んでいたことがあり、フランシスコ・フランコのファシスト軍に対して共和国の非正規兵として戦っています。
ダイナマイトの扱いに優れているため、橋を破壊し、敵軍の侵攻を阻止するよう命令されます。この任務で、ジョーダンは反乱軍の「老人」アンセルモと出会い、グアダラマ山脈のゲリラキャンプに連れて行かれます。ゲリラ戦士には、アグスティン、プリミティーボ、フェルナンド、兄弟のアンドレスとエラディオ、「ジプシー」と呼ばれるラファエルがいます。
キャンプでジョーダンはマリアと出会います。マリアは、戦争勃発時に両親が処刑され、ファランヘ党の手で強姦されるなど波乱の道を進んできた、若いスペイン人女性です。
パブロの妻のピラールは、他のゲリラの支持を得て、パブロをリーダーの座から引きずり下ろし、ゲリラとしてジョーダンの使命に忠誠を誓います。 エル・ソルド率いる反ファシストゲリラの別の一団がジョーダンの任務を支援するために襲撃中に包囲され殺害されると、パブロはダイナマイトの起爆装置と爆発装置を盗み、破壊を阻止することで、ファシストの報復を回避しようとします。パブロは起爆装置と爆発装置を峡谷の川に捨てたものの、仲間を見捨てたのを後悔し、作戦に戻ります。
敵の攻撃を準備を周到に済ませ、たとえ橋が爆破されても敗走を阻止できるとは思えません。しかしジョーダンは、明確な命令がない限り、橋を破壊しなければならないと思います。起爆装置がないため、針金を付けた手榴弾を使って遠くからダイナマイトを爆発させる作戦をジョーダンは考えます。
ピラール、パブロ、その他のゲリラが橋の両端の支柱を攻撃している間に、ジョーダンとアンセルモはダイナマイトを設置して爆発させますが、アンセルモは破片に当たって死にます。逃走中、ジョーダンは戦車に馬を撃たれて重傷を負います。
死を悟ったジョーダンは、マリアに別れを告げ、ゲリラたちとともにマリアが安全に逃げられるようにします。死ぬ前に敵将校を殺して仲間の追跡を遅らせようと、苦しみながら横たわって待つことを決めたのでした。
参考文献
・高村勝治『ヘミングウェイ』




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