始めに
ディケンズ『大いなる遺産』解説あらすじを書いていきます。
背景知識、語りの構造
英文学とピカレスクの伝統
英米文学は、ピカレスクというスペインの文学ジャンルからの影響が顕著です。ピカレスクは、アウトローを主人公とする文学ジャンルです。ピカレスクは「悪漢小説」とも訳されますが、傾向としてピカレスクの主人公は悪人ではなく、アウトローではあっても、正義や人情に篤く、その視点から世俗の偽善や悪を批判的に描きます。高倉健のヤクザ映画みたいな感じで、主人公はアウトローだけど善玉、みたいな傾向が強いです。
このピカレスクから英文学は顕著な影響をうけ、しかしフィールディング『トム=ジョーンズ』などを皮切りに、ピカレスクに刺激されつつも、それを英文学固有の表現として継承していきました。デフォー『モル=フランダーズ』なども有名です。
そうした土壌の上で、本作も展開されています。
成長譚
『ディヴィッド=コッパーフィールド』と並んで本作はは自伝的な側面が強く、苦労人だった作者の分身であるピップの冒険と成長、それから立身出世が描かれていきます。
ピカレスクという伝統の中で、自伝的な物語を展開している感じになっています。
伝記的背景
1850年代後半には家庭生活は崩壊し、妻のキャサリン=ディケンズと別居し、ずっと年下のエレン=ターナンと不倫していました。エステラはエレン=ターナンがモデルになっています。
エレンから受けたつれない態度が作品の背景にあります。
シェイクスピアの影響
ディケンズはまた、シェイクスピアからの影響が顕著です。ディケンズを代表する誇張的なキャラクター、カリカチュアライズやドラマティックなプロットはシェイクスピアにも由来します。本作を彩るバリエーション豊かなキャラクターもシェイクスピア文学を連想させます。
またシェイクスピアの感情や個人を重んじるテイストはゲーテ(『ファウスト』『若きウェルテルの悩み』)などのロマン主義文学の礎ともなりましたが、本作もそうしたテーマは共通します。
物語世界
あらすじ
主人公のピップは、両親を亡くした孤児で、姉夫婦のもとで育ちます。
ある日、ピップが両親の墓参りをしていると、1人の脱走囚と出会います。ピップは彼に脅され、食べ物とヤスリを持ってくるよう命じられます。ピップは恐怖を感じつつも、彼の願いを聞き入れて、品物を盗んで渡します。
その後、ピップは村の老婦人ミス・ハヴィシャムの館に招かれます。彼女は、結婚式当日に婚約者に捨てられたトラウマがあります。ピップはそこで、ミス・ハヴィシャムの養女エステラと出会い、美しくも冷淡なエステラに、ピップは心惹かれるのでした。
ピップが鍛冶屋の義兄ジョーのもとで職人修行をしていた頃、正体不明の人物から莫大な遺産を相続することが明らかになります。ピップは、その遺産を元手に紳士になるためロンドンに向かうのでした。彼は、遺産の出所がミス・ハヴィシャムであり、自分をエステラの結婚相手にしようとしているのだと思います。
しかし実際には彼が少年時代に出会った脱走囚マグウィッチでした。マグウィッチは、ピップの恩義に感謝し、自らの財産をピップに託していたのでした。けれどもマグウィッチは再逮捕され、獄中死するのでした。
その後、ピップ次第に、物質的な豊かさよりも、人や仕事との関わりの中に、人生の価値があると気が付きます。
エステラとも再会するものの、結ばれることはありませんでした。
参考文献
・Forster, John. “The Life of Charles Dickens “




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