始めに
中上健次『軽蔑』解説あらすじを書いていきます。
語りの構造、背景知識
シュルレアリスム、ロマン主義、セリーヌ、ジュネ。口語的世界、アウトサイダーアート
中上健次はシュルレアリスム(瀧口修造、稲垣足穂)の影響が当初から強く、ファンタジックな要素にその影響が見えます。またシュルレアリスムにおいて着目されたサド(『悪徳の栄え』)、ランボーなどの作家の影響も顕著です。グランギニョルな青春残酷物語としての性質にそれが現れます。
またセリーヌ(『夜の果てへの旅』)の影響も顕著です。セリーヌは大江健三郎も顕著な影響を受けたラブレーの伝統を継ぐフランスの作家で、その口語的で豊かな語り口はトウェイン(『ハックルベリー=フィンの冒険』)にも引けを取らぬほどエネルギッシュです。また艶笑コメディとしての性質もラブレー(『ガルガンチュアとパンタグリュエル』)、セリーヌに由来します。
シュルレアリスムは既成の芸術やブルジョア社会へのカウンターカルチャー、アウトサイダーアートとしての側面がありましたが、中上健次自身も部落出身というマイノリティ、アウトサイダーでありつつ、ジュネなどのアウトサイダーのモダニズムに惹かれました。
本作もアウトサイダーである真知子とカズさんを描きます。
語りの構造
本作は語り手は異質物語世界の語り手で、焦点化を主に真知子に設定しています。
真知子の心理やカズさんへの感情、またカズさんの破滅が真知子の視点から描かれていきます。
青春残酷物語
本作は中上の得意とする青春残酷物語で、シュルレアリスムの影響が顕著です。
本作のカズさんは『千年の愉楽』の男たちのような、破滅的な運命を背負った美貌の色男たちで、さながらファム・ファタールの男版です。ドンファンのように、色男でありつつも無軌道に生きて破滅的な最期を迎えます。
ファザコンの中上健次は心理的に男性を理想化しやすく、それがこのような男性表象に繋がっています。本作の真知子やオリュウノオバは中上の鏡像としてのテイストも濃厚です。
後期の愚作
晩年の中上健次はスランプに陥り、くだらない作品を書き散らしました。どうも純文学作家だから、エンタメ小説なんて簡単だと思い上がったらしく、本作を筆頭に中上の通俗小説は目を覆わしめるものがあります。
私淑した三島由紀夫の『永すぎた春』などとは雲泥の差です。
全体的に徳田秋声の家庭小説っぽい『あらくれ』とかラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』『肉体の悪魔』)の肉感的なメロドラマとかをグダらせて中上風味を効かせた感じです。正直石原慎太郎の初期小説と大差ない他愛ない内容で、微妙なニューシネマ脚本の出来損ないを薄く引き伸ばした感じです。
三島と中上健次
中上の私淑した三島由紀夫にはいいところと悪いところがあります。ラディゲ(『ドルジェル伯の舞踏会』『肉体の悪魔』)、コクトー(『恐るべき子供たち』)流の古典主義者として、クラシックなスタイルのウェルメイドなコミックオペラ調の小説をものすことにかけては右に出るものがなく、クリスティ(『ABC殺人事件』『アクロイド殺し』[ネタバレ])を思わせますが、ジョイス(『ユリシーズ』)、フォークナー(『響きと怒り』)、T=S=エリオットのようなモダニズム文学の作家の意図したこと、達成したことを理性や直感で理解し、創作にフィードバックできたわけではないので、「純文学」を志向した『豊饒の海』シリーズ(1.2.3.4)などの作品は不出来なものが多いです。一方で『永すぎた春』『潮騒』などの作品は、三島のスタイリストとしての最良の部分が表れています。
三島由紀夫はもともと理詰めに表現を組み立てるタイプではあるので、通俗小説でも構成の美しさが際立ちます。三島はニーチェの美学にかぶれ、主知的なアポロン的なものではなく情熱的なディオニュソス的なものを志向しようとしましたが、三島という作家の本質はアポロン的な、主知的な構成の美にあります。
一方、中上のほうが結構創作のスタイルはフィーリングや肌感覚重視で、たしかにモダニストとしての感性や直感は優れていて、中上に影響したフォークナー(『アブサロム、アブサロム!』『響きと怒り』)作品ややプルーストなどのモダニズムを踏まえる『千年の愉楽』『奇蹟』などの佳作はありますが、フィーリングや直感ベースの表現なので、ウェルメイドなエンタメ小説は苦手、かつ舐めてかかっているのだろうなと感じられます。フィーリングで小説を組み立てるスタイルの中上の作家性が、ジャンルの様式や定石を要請するエンタメ路線と致命的に相性が悪かったといえます。
物語世界
あらすじ
新宿歌舞伎町のトップレス=バーの踊り子の真知子は地方の資産家の息子で元暴走族のチンピラであるカズと恋に落ちます。
情熱的に何度も体を重ねる2人。
カズは賭博の借金を踏み倒し、新宿から真知子を連れて高飛びして故郷へ帰ります。二人は所帯を持ち、カズは親戚の酒の卸問屋で仕事を始めます。しかしカズの実家からは真知子との関係は歓迎されず、カズさんは親戚から孤立していきます。
生活力のないカズは博打で借金を背負い、高利貸しの山畑に漬け込まれます。ボンボンで金稼ぎは苦手で、あちこち頭を下げて金策するものの、野垂れ死んだのでした。
真知子はカズの死の知らせを聞いて悲しみに暮れます。
参考文献
・高山文彦『中上健次の生涯 エレクトラ』




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